第11話 紫音(えっちな先輩)ルート④
「あの……沙橙?」
無言のまま歩き続ける沙橙に、朱美は恐る恐る声をかける。
だが返事はない。
まるで何も聞こえていないかのようだ。
「沙橙ってば!」
「……」
もう一度呼びかけるが、やはり反応はなかった。
どうやら完全に無視するつもりらしい。
朱美は仕方なく口を閉じるしかなかった。
そうしていると、いつの間にか目的地に着いたようだ。
そこは人気のない路地裏だった。
周りに誰もいないことを確認すると、沙橙はようやく口を開く。
「……ごめんね」
突然の言葉に、朱美は驚いてしまう。
まさか謝られるとは思っていなかったからだ。
だがそれも一瞬のことで、沙橙はすぐに表情を戻すと再び歩き出す。
「ちょ、ちょっとどこ行くの?」
「……いいから付いてきて」
有無を言わさぬ口調に気圧されてしまい、朱美は黙ってついていくしかなかった。
しばらく歩くと目的地に到着したようで立ち止まる。そこはホテルだった。
まさかとは思うが、そう考えている間も沙橙は手を引いて中へと進んでいくので、朱美も覚悟を決めて中に入ることにした。
受付を済ませると、そのまま部屋へ向かう。その間も沙橙はずっと無言だった。
そして部屋に入るとすぐに鍵を閉める音が聞こえてきたので、朱美はドキッとする。
これから何をされるのか想像できてしまったからだ。
「あの……沙橙?」
恐る恐る声をかけるが返事はない。ただじっとこちらを見つめてくるだけだ。
その瞳からは感情が読み取れず、何を考えているのかわからなかった。
だが次の瞬間にはベッドに押し倒されていた。
「……っ!?」
突然のことに驚きながらも、朱美は沙橙を見つめる。
その表情はとても苦しげで、今にも泣き出してしまいそうだった。
「……ごめん……」
そんな呟きが聞こえたかと思うと、唇に柔らかい感触が伝わってくる。
キスをされているのだと気づいた時にはもう遅かった。
「んっ!?」
抵抗しようとしたが、両手を押さえられているため身動きが取れずされるがままになってしまう。
何度も繰り返される口付けに頭がボーッとしてきた頃になってやっと解放された。
「はぁ……はぁ……」
肩で息をしながら呼吸を整えようとするが、上手くいかない。
そんな朱美を沙橙はじっと見つめていたが、やがて口を開いた。
「……いきなりこんなことされて、僕のこと、嫌いになったかな?」
「そんなこと……」
否定しようとしたが、言葉が出てこない。
確かに驚きはしたが、不思議と嫌悪感はなかったからだ。
まるで、ずっと前にもこんなことがあったような……
「あ、あれ?」
そう思った途端に、突然視界が歪んだ。
世界が書き換えられていくような感覚に、意識が遠のく。
何が起きているのか全然わからなかったけど、最後に見た沙橙の顔は……ひどく悲しそうだった。




