4話 不遇な町
貧民街でのひと悶着から翌日。
宿屋の一室にて。
ポロがベッドの上に腰を下ろし、暇そうに足をパタパタさせていると。
「ふぅ~、ポロ~お姉ちゃん帰ったよぉ」
買い物袋を片手に、服を土まみれにしたクルアが部屋に入ってきた。
「お帰りクル姉。お仕事お疲れ様」
ポロは尻尾を振りながら姉の帰省に安堵し、労いの言葉をかけながら彼女の脱いだ上着を受け取り洗濯籠へ投入する。
「ねえ、ギルドでどんなクエスト受けてきたの?」
ポロが興味津々に尋ねると。
「う~ん、どうもこの町、一見さんには待遇があまり良くないみたい」
コキコキと首を鳴らしながら、土まみれになった衣類を脱ぎ捨てるクルア。
ポロは使用人の如く衣類を全て回収し、洗濯籠へ。
「Cランクの証明書を見せたら普通、どこもそれなりの仕事を紹介してもらえるはずなんだけど、ここは地元民じゃないと簡単な仕事しか寄越してくれないのね~」
「ふぅ~ん、それでそれで?」
不満気に言いながら、クルアは入浴用の水桶で体を拭き土汚れを落としてゆく。
「おまけに団体行動前提のクエストばっか……。知り合いのいないウチは小型の魔物の駆除しか受けられなかった……」
「でも魔物と戦ってきたんだ!」
興奮気味に返すポロに、クルアはじとりと嫌そうな目を向け、再び気を取り直す。
「……まぁ、薬草採取と並行してね。けど大したお金にはならんのよ。別の町に拠点を移そうにも、もう少し旅支度のお金を稼いでおきたいし……やっぱりここでメンバー募集かけたほうがいいかな~。集まるか分からないけど」
溜息を吐きながら、腕回りを拭いていると。
『メンバーならここにいるぞ』と言わんばかりに、ポロは胸を叩いて主張する。
先程からやけに身の回りの世話をする行動は、おそらく自分も冒険家の仕事がしたいが為のご機嫌取りだと思い。
再びクルアはじとりと冷たい視線を送り、知らん顔で話を続けた。
「町の裏側を見る限り、あまりお金に余裕がない感じだから慈善事業じゃやってけないのかもね~。古参の冒険家もわざわざ食い扶持を減らしてまで仲間を増やしたくないだろうし」
渾身のアピールを流されたポロは、トタトタと引き出し戸からタオルを取り出し。
クルアの横でスッと跪き。
「お背中をお流ししましょうか。お嬢さん?」
新品のタオルを片手に、似合わない敬語でクルアに尋ねるのだ。
「……ねえ、どこでそんな言葉覚えたの?」
「さっき宿屋の隣にある浴場を壁の上から覗いたときに、男の人が女の人にそう言ってた」
「勝手にお風呂覗いちゃダメでしょ」
自分が仕事をしている時に何やってんだこの小動物は、と、クルアは思い。
「クル姉が入っちゃダメだって言うから、せめてどんな所なのか気になって」
「大浴場は混浴だから、その、ポロにはまだ早いの」
「なんで?」
「え、そりゃぁ……他の女の人も入ってるし……」
「男の人も入ってたよ?」
「お、大人はいいの! ポロはお姉ちゃんで我慢しなさい」
ポロは頭に疑問符を浮かべながら、「ふ~ん」となし崩し的に納得し。
「ではお嬢さんの玉のように美しい柔肌を、私がくまなく綺麗にして差し上げましょう」
再び似合わない敬語を発し始める小動物。
「さっきから何なのそのキャラ……」
「男の人がそう言って、女の人のおっぱいをきれいにしてた」
「それ絶対ヤバイ奴じゃん!」
「そのあと女の人が大声で叫んだら警備の人が現れて、その人裸のままどっかに連れてかれちゃった」
「それ絶っ対ヤバイ奴じゃん!! よくその人の真似でウチの機嫌をとろうと思ったな!」
犯行現場の一部始終を目撃したポロではあるが、ポロ自身覗きという犯罪行為に手を染めていた為、クルアは深く追及しないように話を変える。
「……あのね、ポロ、君が冒険家の仕事をしたいって気持ちは分かるけど、ポロが思っている以上に危険な仕事なんだよ?」
「でもクル姉もやってるじゃん」
「ウチは……」
幼い頃から厳しい環境で育ってきたから。
そう言いかけて、クルアはやめた。
「仕方なくだよ。今さら他に手に職つけても、今ほど稼ぎも良くならないだろうし」
ポロには同じ苦しみを味わってほしくないからと、そう思い。
「だからね、ポロ、君はもっと他になりたい仕事を見つけなさい」
「なりたい仕事?」
「命の危険を伴う仕事じゃなくて、自分も楽しいと思える仕事とか、ね」
ポロはしばし考えるが、答えは出ない。
冒険家の他に自分が何をしたいかなど、何も分からないのだから。
過去に自分が何をしていたのかすら、分からないのだから。
「まあすぐには決められないだろうけど、いつかは安定した職について、裕福な生活を送ってほしいわね~」
「じゃあその時は僕がクル姉を養ってあげるよ」
「おやぁ、そんなこと言うと姉は本気にしちゃうぞ~? 将来好きな人が出来ても結婚なんてさせてあげないぞ~?」
「いいよ、僕はクル姉が一番好きだし。クル姉とずっと一緒にいる」
純真無垢な笑顔を見せつけられたクルアは、悶えるように胸を高鳴らせる。
「なんて優しい子! ウチも大好き!」
力のままポロをホールドし、水桶にダイブさせ。
その後、我に返ったクルアはポロとタオルに包まり暖炉で温まる。
冒険家である以上、いつ命を落としてもおかしくはない身の上。
そんな自分の人生に、今ひと時の安らぎを与えてくれるポロに甘えながら。
皆が寝静まる深夜、貧民街のほうでは。
「姉ちゃん……今度はテッドがいなくなった……」
「ああ、知ってるよ」
ローブに身を隠した少年が、煙草を吹かしながら壁に身を預けるメティアに弱々しく言葉を発する。
「これでもう五人だ……。みんな、俺の友達だった」
「……あんたたち、仲良かったもんね」
そう言って、メティアは少年の頭を優しく撫でる。
「悪いね。貧民街は一枚岩じゃないんだ。私も犯人を捜してはいるが……簡単に尻尾は出さないし、連中も他人の行為には見て見ぬフリだ」
溜息混じりの煙を吐き、メティアは少年の肩に手を当てる。
「今夜はもう帰りな。人さらいの連中は私が必ず見つけてやるから。……夜中に家を抜け出して貧民街に行ったなんて知れたら、親が心配するよ」
そしてメティアは少年の手を引いて、安全な場所まで送っていった。
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