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3話 スラム街の黒エルフ


 翌日、二人はようやく隣町へ到着した。


「着いた~。ポロ、歩きっぱなしだったけど大丈夫?」


 子供の足で隣町まで歩くのはなかなかにハードだったろうと心配そうに尋ねるが。


「うん、思ったより疲れてないよ。知らない道を歩くのは楽しいし」


 特に疲労した表情を見せないポロに、クルアはホッと一息。


「良い子だね。今日は宿を取るから、ゆっくり休みなね」


「お金あるの?」


「見くびってもらっちゃ困るよ。ウチはこう見えてCランク冒険家だからね。まあまあの稼ぎはあるのさ」


「? 凄さが分かんない」


 彼女の職業、冒険家はF~Sまでランク付けされており、最高ランクであるSに近い程冒険家としての実力を買われ、仕事仲介業者の冒険家ギルドから様々な仕事を任せられる。


「というわけで、ウチはそれなりに余裕があるのです。無ければどこかのギルドで稼げばいいし、ポロは気にせずお姉ちゃんに養われなさい」


 トンと胸を叩き年上感を披露するクルア。

 その時だった。


 対面を歩いていた男とすれ違った際に、お互いの肩がぶつかってしまい。


「おっと、悪いな嬢ちゃん」


 男は軽く謝罪をしながら通り過ぎてゆく。

 だが、クルアはその男の行動を見逃さず呼び止めた。


「ねえおじさん、どうしてウチの財布抜き取ったの?」


「っっ!」


 スリの常習犯である男は、鍛え抜かれた盗みの技術を自負しており、決してバレる事は無いと高を括っていた。


 しかし五感の優れたクルアの前では、男の手腕など素人同然だった。

 途端、男は人をかき分け脱兎の如く走り出す。


「こら、待てっ!」


 クルアは逃走する彼を追いかけ裏路地まで潜り込む。


「クル姉、待ってよ~」


 思いの外俊敏な二人に、ポロは見失わない様必死に彼らの後を追った。








 しばらく裏路地を突き進むと、ガラリと雰囲気の変わる場所へ辿り着く。


 町の大通りとは真逆の印象を与える、どんよりとした空気、生気の無い人々。

 ここは身寄りのない者、働けない者が最後に訪れる、貧民街だった。

 すると、クルアの追跡から逃げていた男は、袋小路に行き当たりピタリと足を止める。


「もう逃げられないよ?」


 ようやく追い詰めたクルアは、ジリジリと男に近づくと。


「ああ、お前がな!」


 突然男は強気になり、クルアの背後を見ながらニタリと笑った。

 そこには男の仲間とおぼしき集団が五人。皆ナイフなどの武器を所持してクルアを取り囲む。


「悪いな、俺はただ逃げていたわけじゃねえ。お前をここまで誘ってたんだよ」


「…………」


 貧民街に住むゴロツキの常套手段である。

 仲間の一人がスリに失敗した際、この裏路地まで誘い込み集団でリンチ、もしくは人身売買を生業とする者に売りつける。


「今日はツイてるぜ、猫の獣人は人気があるからな。ガキっぽい見た目のわりに発育も良い。奴隷商人に売り付けりゃいい値で買い取ってくれそうだ」


 舌なめずりをしながらクルアの体を見定める男。

 にじり寄る男達に、クルアは息を吐きながら冷静に戦力差を推し量る。


 ――相手は六人、構えを見た感じ対人戦は素人……余裕で返り討ちに出来る。


 と、力量を分析しながらどう懲らしめようか考えていると。


「おっと、変な気は起こすなよ? お前、連れのガキがいたな?」


「っっ!」


 そこでクルアは一瞬硬直した。


「もし抵抗してみろ、他の仲間がガキを捕まえて、お前の目の前でなぶり殺しにしてやるからな」


 男はナイフをちらつかせながら、ポロを脅しの材料にする。


「分かったら大人しく両手を頭の後ろにやれ。お前が素直に売られればガキに手は出さねえよ」


 言われるがままにクルアは両手を後ろに組むと、男達は執拗に彼女の体をまさぐり、傷が無いかを確かめる。


 隙だらけの今なら簡単に倒せるが、他に仲間がいる以上、ポロの身を案じて矛先を向けない様にしなければならない。


 ――ポロ、お願いだから無事でいて……。


 そう思っていた時。



「おいこら、あんたたち人の縄張りで何やってんだい?」



 突然、背後から女の声がした。


「げっ……メティア……」


「私のシマで勝手は許さないよ。今すぐその子から離れな」


 彼女を見た男達は急にたじろぎ、クルアから手を離す。


「どうせその子から金を盗ったんだろ、それも返してやんな」


「ぐっ……くそ!」


 すると、男は奪った財布を取り出し、クルアの足元に放り投げる。

 誰も彼女に逆らわない。逆らえない程に、武力行使は通じないと知っているからだ。

 煙草を口に咥えながら男達に凄む褐色の女性。


 ――あの人、黒エルフ?


 呆気に取られながら、めずらしい種族をまじまじと目にするクルア。


「ほら、とっとと失せなチンピラ共」


 そう言うと、舌打ちをしながらゾロゾロと彼女の元を去ってゆくと。

 通り過ぎ様に「ダークエルフが……」と悪態を吐き捨てながら。


「えっと……有難うございます」


 この場を収めてくれた彼女にクルアはお礼を言うと。

 不意にその女はクルアに手を向ける。


「ん、金」


「えっ?」


「私が助けてやったんだから、その金ちょうだい」


 ここは無法地帯の貧民街。ただで人助けをするほど生活にゆとりは無い場所である。

 女は「早く」と言いながらクルアから金をせしめる。


「ええ……いい人だと思ったのに……」


「ここはゴロツキ共の掃きだめさ。タダで善意を振りまく程、お人好しな馬鹿はいないよ」


 と、彼女も男達同様、ナイフを片手に脅しにかかる。

 その時だった。


「クル姉! ……良かったぁ~やっと追いついた」


 クルアの後を追いかけてきたポロが二人の前に現れる。


「ポロ、下がって、こっちに来ちゃダメ!」


 ポロの無事に安堵するクルアだが、しかし現状、武器を持った女に襲われている為この場に近づけるのは危険である。


 すると、エルフの女はクルアに尋ねた。


「その子……あんたの連れかい?」


「ウチの弟だよ。あの子に手は出さないで」


「種族が違うみたいだけど?」


「関係ないでしょ、お互い身寄りがないの。だからあの子がウチの唯一の家族」


 クルアの言葉に、女はしばし沈黙する。

 深く、何かを考えるように。

 そして、女は溜息と共にナイフをしまった。


「あ~ヤメだヤメ、しらけちまったよ」


 言いながら、袋小路から立ち去る女。


「あんた達表の人族に、ここは危険な地区だよ。分かったら、さっさと出ていくんだね」


 二人を気にかけるような言葉を残しながら。



 メティアとの出会いは、そんな廃れた貧民街の一角から始まった。





ご覧頂き有難うございます。

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