表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

1話 始まりの廃村


 雨と灰が混じった匂いがする空気の中で。

 ふと、少年は自身の体が揺れている感覚が気になり、虚ろながら目を覚ますと。

 そこには一人の男性が映っていた。


 ボサボサ髪で髭面の、黒いローブを羽織った男性。

 そして少年は、この男に抱えられている事に気づく。


「……だれ?」


 少年が問いかけると、男は軽く目を見開き、こう呟いた。


「これは……驚いたな」


 男の言葉に疑問を持ちながら、しかし意識がぼやける中で深く考える事は出来ず。

 続けて男は少年に尋ねた。


「私の言葉が分かるか?」


 男の問いかけに少年は弱々しく頷くと、「そうか」と返し。


「近くの避難所まで連れて行ってやろう。雨を凌げる場所くらいは提供してもらえるはずだ」


 言いながら、男はそのまま荒れた道を進んでいった。








 男に抱えられながら進む道中、少年はいくつか質問をした。


「おじさんは、だれ?」


「ハジャだ。通りすがりの魔導士ソーサラーだよ」


「そーさらー?」


「魔法を扱う者という意味だ」


「魔法かぁ……。ねえ、僕にも使えるかな?」


「素質があればな」


「そっかぁ……使ってみたいな……。あ、そういえばここってどこなの?」


「ポロトの村だ。今は魔物の襲撃を受けて廃村となったがな」


「ポロト……?」


「記憶がないのか? お前はどこまで自分の事を覚えている?」


「え……っと……」


 少年は答えられなかった。

 自分がどこから来たのかも、自分の名前さえも。


「何も、思い出せない……気がついたら、おじさんに抱えられてたから」


「……そうか」


 ハジャはそれ以上の追及はせず、黙々と歩を進め。


「着いたぞ」


 避難所に到着すると、少年を優しく地面に下ろした。


「立てるか?」


「うん、大丈夫」


「少しだが、これを渡そう。何日かは過ごせるはずだ」


 そう言いながら、ハジャは少年に金の入った小袋を渡した。


「おじさんは、もう行くの?」


「ああ、仕事の最中だからな」


「そっか……」


 寂しそうにする少年に、ハジャは告げる。


「これからどう生きるかはお前次第だ。身寄りのない者に世間は冷たい。他に仲間を探すか、もし近くに孤児院があるなら、そこを頼ってみるといい」


 それだけ言って、ハジャは去っていった。

 残された少年は、一人考えながら。


「おなか、空いた」


 一先ず空腹を満たす為、炊き出しをやっている場所に向かうことに。








 食をそそる匂いに釣られて歩いて行くと、そこには大きな鍋に人が集まり、順番にスープを配っている姿が目に入る。


「美味しそう……」


 などと呟きながら少年が近づくと。


「ひっ……!」


「黒い……犬耳……」


 道行く人が少年を見る度、血相を変えたように嫌悪の目を向けてくるのだ。


「……?」


 訳が分からず疑問に思いながら、炊き出しの列に並ぼうとすると。


「おい小僧、あの魔物の仲間じゃないだろうな!」


「え……魔物?」


 突然怒鳴られ、ドギマギする少年。


「くそ、俺の背後に立つんじゃねえ!」


 そう言って、前方にいた男は少年を押し倒した。


「いたっ! 何するんだ」


「目ざわりなんだよ! 今すぐ消えろ!」


 そして、周りの者達も少年を囲み、殴る蹴るの暴行を加えて追い出した。


「なん……で……僕はただ……食べ物を……」


「てめえに食わす物なんてねえよ! とっとと出ていけ!」


 と、スープを配っていた男までもが少年を邪険に扱い。

 少年は地を這いずりながらその場から離れた。


「なん……で……」


 何故自分が理不尽な暴力を受けなければならないのか疑問に思っていると。

 近くにいた男が少年に言った。


「今はみんな、あの黒い犬の化け物に襲われて神経質になってるんだよ。その毛色は生まれつきだろうが、犬型獣人が堂々と表を歩くのは控えたほうがいいぞ」


 と説かれ、ふと少年は水溜まりに映った自分の顔を見つめると。


「この耳……それに尻尾も……」


 そこでようやく、自分が犬の獣人だと言う事に気づいた。


 どうやらこの村は、自身と同じ毛色をした魔物に襲われたらしく、そのトラウマから、自分を見るだけで恨みつらみが沸き上がって来るのだと理解した。








 それからしばらく、出来るだけ人通りの少ない場所を探し、少年は一人呆然と蹲る。


 自分の事が何も分からず、知らない土地で、誰も知り合いがいない。

 襲ってくるのは、胸を締め付ける孤独感。

 こんな事ならいっそ、目覚める事無く眠ったままでいたかったと、そう思い。


 そんな時。


 少年の元に、一人の少女が近づいてきた。


「君、一人?」


 顔を上げると、猫のような耳と尻尾の生えた少女が自分に問いかけている。


「お父さんとお母さんは?」


 優しく尋ねる少女に、返す答えを持ってはおらず。


「分からない……顔、知らない」


「そっか……」


 そう言うと、少女はそっと少年の隣に座り。


「ウチと一緒だね。ウチも親の顔知らないんだ」


「いっしょ?」


「うん、一緒」


 ニコリと笑いかけ、少女はあるお願いをした。


「ねえ君、ウチの家族になってくれない?」


「かぞく?」


「そう、ウチがお姉ちゃんで、君が弟」


「おねえちゃん……」


「うん、お姉ちゃんだよ」


 そして、少女は少年を強く抱きしめた。


「これからは、ウチがずっと守ってあげるからね」


 その言葉と抱擁があまりにも嬉しくて。

 少年は赤子のようにわんわんと泣き出した。


 何もなかった世界に、大事なものが生まれたから。

 すがりつくように、決して少女を離さなかった。



 これが、ポロとクルアの出会いだった。





ご覧頂き有難うございます。


今回からスピンオフとして連載します。

不定期でペースはゆっくりではありますが、お目を通して頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ