西のドマ
厄神は界下を眺め、西のドマへと飛び降りた。
ヒュウヒュウと通り過ぎる風が、厄神の長く美しい赤髪を踊らせる。
幾つか雲をすり抜けると、鬱蒼と広がる森が現れた。
その一箇所だけ小さく開けている場所に、小さな石造りの祭壇が見え始める。
「神頼みをするならもっといい所に祭壇作れよな」
厄神が危なげなく祭壇のそばに舞い降りると、既に祈りの儀式は終わっていて暗くなり始めた周囲には誰一人として見当たらない。
(呼んでおいて無人だから西は好きじゃない)
以前は神を出迎えていた西の人々だったが、このところ「あとは勝手に供物を持っていけ」というかのような無礼千万な態度に変わっていた。
他の神なら怒ってそのまま引き返すことだろう。
「西の祈りを叶えるのはこれで最後だな」
厄神は祭壇に供えられていた目当ての黒曜石の首飾りを手に取ると、やれやれといった様子で肩を窄める。
西の態度は腹立たしいが、厄神はこの西の人々が作る装飾品は気に入っていた。黒曜石の矢尻と翡翠珠を合わせたデザインは実に映えるのだ。
「貰うものも貰ったし、さっさと東へ行くか」
首飾りを腰袋にしまうと、厄神はさっそく東のアガシャに災厄を齎しにいくことにした。