回復
翌朝になると、ハナは鼻水を垂らしながらも少しだけ元気になっていた。
朝餉は朱殷が作った魚のスープだ。
もちろん作ったのは初めてなのでぶつ切りの上、頭やや内臓もそのままなのだがーーーそれでもじっくりと煮たので骨まで柔らかい。
あぐらの上にハナを抱き、スープだけをゆっくりと飲ませる。
「美味しい」
「草じゃないからな。ゆっくり食え」
「うん」
「寒くないか」
「あったかいよ」
やっと笑ったハナに朱殷は安堵する。
少しずつスープを飲ませると、ハナは纏っている毛皮を撫ぜながら尋ねた。
「これどうしたの?」
「貰った」
「貰ったの?」
「ハナにやる。暖かくして早く治せ」
「うん。治す」
ハナは「首飾りといい毛皮といい、朱殷には貰ってばかり」だと思いながらも、腹が満たされてウトウトと微睡み始める。
朱殷は腕の中のハナを抱きかかえながら考えていた。
(ここは直に西に襲われる。ハナをどこか遠くに連れて行かねばーーーー)
◆◆◆
それから3日。
朱殷の甲斐甲斐しい世話は続き、日増しに過保護になっていた。
今日もハナの食事は朱殷の胡座の上である。
細い肩からよく毛皮が落ちるので、朱殷自ら革紐を細工して蓑風に仕立てた。しかし、ハナの身には二重に巻ける程大きく、とにかく動きづらい。
「デカすぎるな」
「暖かいよ」
「これは寝る時にかぶれ。ちょうど良いものを獲ってくる」
「獲ってくる?」
「おぅ、少し待っていろ」
朱殷は一刻もしない内に、剥いだばかりの狼の毛皮とともに帰ってきた。
「朱殷、血の匂いがする」
「俺じゃない。これだ」
ハナの手を取り、狼の毛皮を確かめさせる。
「どうしたのこれ?」
「獲って来た」
「これ…狼?朱殷大丈夫だったの?」
「狼なぞ相手にもならん。これはこれから洗うからもう触るな。血がつくぞ」
夜行性の獣に襲われるのを心配したことがあったが、なんの問題もなかったのかもしれない。
朱殷の強さを初めて知ったハナは目をパチクリとさせた。狼をいとも簡単に仕留めて来るなんて、朱殷は一体何者なんだろう?
「ねぇ、朱殷はーーーー」
「ハナ、俺と一緒に来い」
「どこに?」
「南だ。冬でも暖かいからもう風邪もひくまい。美味いものもたくさんあるから腹一杯食えるぞ」
神呼びの供物が丸く黄色い果実だったことを思い出す。あれは甘くてククの実の100倍はうまいからきっとハナも気にいるはずだ。
「お腹いっぱい食べたい」
「海にも魚がいてうまい」
「川より大きな海ね!魚も大きいのかな」
「ハナよりでかい魚もいるぞ」
「わたしより!」
ハナが大声を上げた途端、ケホリと咳が出た。
「身体が治ったらすぐに行くぞ。早く治せ」
「うん、治す」
『朱殷は一体、何者なの?』
ハナの聞きそびれた問いは、その後2度と問われることはなかった。




