3.悪役令嬢転生したわたくしの、この国を背負う覚悟の話。
最後になります。
お楽しみいただけたら幸いです。
さあ、舞台は整いました。講堂には全生徒及び教師。正装のわたくしと殿下、そして側近候補の方々全員が壇上に上っております。断罪の時間ですわよ。お覚悟はよろしくて?
「セレナ・フローレス、ハーヴィー・バトラー、イアン・ラッセル、ダグラス・グレイ以上四名は前に出なさい。」
お兄様が四人を呼び寄せます。逃がしませんが逃げようとされると面倒ですので事前に通達などはしていません。まあ皆様薄々気がつかれていたようですし、「ああ~」みたいな反応を示されます。全くざわめいていません。しかしこんなにわかりやすい断罪の舞台に、上げられた本人達はまだ状況がわかっておられないご様子。アレの目が輝いてますね。嫌な予感がします。
「さて、「アーサー様!!やっとあたしを選ぶ気になってくれたんですね!!!!」
oh………………………………。
この期に及んでまだアレは罪状を増やす気のようです……。そう。わたくしと殿下は正装をしています。つまりここには学生では無く貴族として立っているのです。学生同士は身分関係なしとしていますが、貴族はもちろん違います。まあ学生でも基本は身分意識するんですけどね。それでも制服の内ならばギリギリ(どころじゃ無い)アウトながらも捕らえられることは無かったでしょう。
しかし今は立派な不敬罪です。王族の名を許可無く呼び、話を遮るなど、首を落とされても文句は言えません。
というか殿下の笑顔の輝きが一気に増した気がして怖いし正直逃げ出したいです。隣に立っているわたくしの身にもなって欲しいです。内心を読ませないためにも表情は変えませんがわたくしの心が顔に出ていたならば顔色は真っ青で怯えていることでしょう。殿下が怒るとガチで怖い。
殿下はもう仕事をしていらっしゃるのですが、偶々わたくしが殿下といるときに、締め切りを1ヶ月過ぎている書類を発見した時なんかすごかったです。その書類を担当した文官は侯爵の次男で、皆さん強く出れず困っていたそうなのですが、素行を細かく調べるなりクビにしていました。そのスピードたるや。2日かかってなかったんじゃないですかね。
わたくしがいるときに起こったことなので顛末が気になるから処遇を教えて欲しいとお兄様に言ったところ、何故か殿下の執務室を覗かされました。
にっこり笑顔、なのにひっっっくい声で「仕事やる気が無いやつはいらない。領地に引っ込むと良いよ。帰り道に気をつけて?」って言ってるところを見た瞬間は何もしてないのに震えました。ガクブルです。
結局何が言いたいかって?殿下が怒ると対象だけで無く周囲の人にも精神的被害がいくんですよ。
だからあんまり煽らないで欲しいなぁ…………。
というわたくしの悲痛な願いは無情にも届くことはありませんでした。
様子見のためにこちらが黙っているのを良いことに、アレはわたくしに対して喋り始めるのです。
「あんたみたいなブスに格好いい王子様なんてふさわしくないわ。さっさとその場所代わりなさいよ」と。
転生前に比べたら大分美人になったと思うんですけどねぇ。。。反応はしませんが。ここまではまだ良いです。
反応を示さないわたくしに痺れを切らしたのか、今度は殿下に向かって、「アーサー様!早くあたしを婚約者にして!こんな女なんて追い出してよ!!あたしの方があなたに相応しいわ!!!」
もともと冷えていた空間でしたが、さらに数度温度が下がった気がします。
隣をチラ見すると、殿下が何か言おうとしてました。
聞こえてきた声は、ひどく冷たく、
「貴様のどのあたりが私に相応しいのか、私には見当もつかないな。」
「なっ!!」
殿下が反論を述べようとした声の方に絶対零度の視線を投げます。
わたくしも目線をやると、アレの顔色は青を通り越して白くなっておりました。
第三者でも凍えるような声音、恐れるような雰囲気を真正面から受けて、貴族としての教養もなっていないのに気絶していないアレに、初めて感心しました。
そんなことを考えていると、アレの目が再びわたくしに向けられます。
「何でよ!あたしは特別なのに!!なんであたしよりかわいくないあんたがお姫様なのよ!!!!」
この言葉を聞いた私はあぁ、この子は違う。そう感じた。私の目の前にいるこの子は、ただの子供。物語のお姫様を夢見て、誰も何も教えてくれなかった可哀想な平民の女の子。この子は同類ではない。
そう思ったら、ほっとしたと同時に少しだけ、落胆した。
少し気が緩んだせいか。
「…………可哀想な子。」そう、呟いてしまった。
それが聞こえてしまったのだろう。
「ふざけるなぁぁぁぁぁ!!!!」
そういって彼女が壇上に上って私に掴みかかろうとした時、
ダンっっ!!
と大きな音がして、恐怖で閉じていた目を開けると、チャールズ様が彼女を取り押さえていた。
私は、この世界で生きていくために、彼女を裁かなければいけない。
彼女に罪が無いとは言わない。でも確かに貴族の世界に入ってしまったことで、彼女は変わってしまったのだろう。平民として生涯を終えた方が、良い生を歩めたのかも知れない。でもそれは、所詮“たられば”の話。今ここで起きている事がすべて。だから、王太子殿下とその婚約者にここまで無礼を働いた彼女には、明るい未来など、存在しない。
人の命なんて、握りたくない。本当は、目を逸らしてしまいたい。
だけど、向き合わなきゃ。私がクリスティナで在るために。
ゆっくりと息を吸う。
「あなた、自分が何をしたか、まだわかっていないのね。興奮しているあなたにこんなことを言っても無駄かも知れないけれど、できれば、後で思い出してちょうだい。」
そう、前置きをして。
「王族の話を遮ること、許可無く名を呼ぶこと、あなたの家よりも家格が高い公爵家であるわたくしへの暴力的な言動。本来ならば今ここで切って捨てられても文句は言えないのよ?
あなたが平民出身である事は知っているわ。それでも学園に入る前、入った後でも学ぶ機会はいくらでもあったはずよ。あなたはそれをしなかった。周りの忠告という教えも聞かなかった。
自分の何がいけなかったのか、この学園の令嬢たちや、教師の皆様の言葉を思い出して考えなさい。きっともう、あなたには時間が無くなってしまうわ。だけど最後の瞬間まで考えて、あなたが自分の罪を理解し反省してくれることを切に願うわ。あなたの次の生が、良きものになるように。」
幼子に言い聞かせるように言った。
殿下が
「連れて行け。」
そう言うと、チャールズ様は彼女を連れて行った。
※※※※※※※
あの後、残りの問題児3人は廃嫡を言い渡され平民降格となり、4人は学園を去りました。
ただ、セレナは牢につながれています。一週間後に毒杯を呷ることが決まっています。
あの後の彼女の様子は聞いていません。彼女の境遇に同情はしますが、断罪時に言ったように彼女にもできることはあった。それをしなかった彼女の自己責任。
フローレス伯爵家は取り潰されました。起こしたことが大きすぎましたからね。
彼女が学園からいなくなった後、ひどく安心した自分がいました。
我ながら最低だとは思いますが、やはりわたくしは怯えていたのでしょう。いつか、今は良くしてもらっていてもヒロインにすべて奪われてしまうのでは、と。
この世界にシナリオなんて無くて、自分の人生は自分で作って生きて、そんな当たり前なはずのことを頭では理解していたけれど、やっと自分で呑み込めた気がしました。
わたくしの人生はこの世界にしか無くて、‘私’は‘わたくし’と混ざり合って、これからを生きるクリスティナになる。
そうやってわたくしは、この国の王を支える王妃となっていくのです。
需要がありましたらアーサー視点、セレナ視点など上げようかと思っております。