第26話 ミルザ②
少女はその後もアルマークとたくさん話して、さらに想いを強くしていきました。
幸か不幸か、アルマークも少女のことを愛しく感じていくようになりました。
しかし、2人の仲を切り裂くかの如く、その惨劇は襲ってきたのです。
「これ、は」
アルマークは自分の手の甲を見つめながら目を丸くして呟きました。
それはまるで、自分の手の甲に信じられないものが現れたような目付きでした。
その通り、少女が「どうしたの?」と心配そうに彼を見上げて、さらに彼が見つめるその拳を見やりました。
そこには青白く輝く不思議な紋様が現れていたのです。
「なに、それ?」
少女は小さな不安感を胸に訊ねました。
「ま、まさか……」
彼は少女が訊ねているのにも気づくこともないくらい気が動転しており、顔を真っ青にして駆け出しました。
そして少女は今にも泣きだしそうな顔で母親のもとへ擦り寄りました。
「ねぇ、おかあさん。 アルくん、どうしちゃったの?」
少女は母親の拳をつかみながら問います。
そして、そこにもあの紋様とにたものが浮き出ていました。
しかし、それは赤白く、異なった輝きを持っていました。
「これは……?」
母の顔を見ると、頭を抱えて慌てていました。
「───まさか、今回は人と獣人だなんて……」
少女ははてなと、困惑の色を一層深めていました。
あれ以来アルマークが姿を見せることがなくなります。
そして、1週間後さらなる異変が起きました。
村に住む人間達が、狂ったように家の外へ出ていきました。
斧や剣を持ち出して。
少女の母や父も例外ではありません。
残されたのは幼い子供がたった数人だけでした。
他の種族の人達がその子供たちを避難させます。
それでも少女だけはずっと家に残っていました。
きっと、アルマークが助けに来てくれると、信じていたのです。
「はやく来てよぉ……」
少女は泣きそうになりながら体を震わせていました。
外からは、村人達の怒声や悲鳴が騒然と聞こえてくるのです。
それに耳を塞いで、必死に祈ります。
大好きな、あの人が助けに来てくれることを。
その時でした。
バタンっ!と、扉を壊してしまいそうな勢いで、少女の家に入ってきた人がいたのです。
少女はその人を目を見開いて見つめました。
ずっと待っていた、あの人を。
「やっぱり、逃げてなかったんだね……」
「アル、くん……?」
少女は息を切らし、はぁはぁと肩を上下にするアルマークも見上げて呟きました。
まるで夢でも見ているのではないだろうかと、目を丸くしてじっと見つめました。
その目からは涙が自然と溢れだしました。
「さぁ、はやく逃げよう!」
アルマークは、呆然と腰を抜かしている少女の手を引いて、駆け出しました。
彼の大きな手と自分の手が繋がっていることに、こんな状況でも少女はとても満足げでした。
「───ッ!」
そんな時、彼が苦しそうな声を上げました。
少女は心配そうに「どうしたの?」と聞きますが、アルマークは「いや、ちょっと躓きそうになっただけさ」と少女に微笑みかけます。
少女は安心したように吐息を漏らしました。
しかし、どこか嫌な予感がしていました。
そしてその嫌な予感は不幸にも当たってしまっていたのです。




