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第24話 災厄の聖戦

 


 まずは『災厄の聖戦』についてだ。



 これが始まったのは1000年以上前、ある種族が世界を支配しようと、他種族に牙を向いたことが発端である。



 その種族は強力な戦闘力と、神の加護を以て2つの種族を支配した。



 しかし、やがて力尽き滅んだと言われているが、その大戦はその後も語り継がれている。


 クーデターを起こした種族はこう記していた。


『この戦いは神の御前たるその大地で行われる聖なる戦いである、故に何人たりとも邪魔することは出来ず、選ばれし種は最後まで戦い抜かなければならない』


 周期的におとずれるそれは2種族を選定し、選ばれると、ある紋様が体のどこかに浮かぶ。



 そしてそれが現れた1週間後に、選ばれた種族は戦わなければならないというとてつもない使命感に掻き立てられ戦争を始めるのだという。



 どちらかが種族の権利を放棄して降参するか、全滅するまで続く。



 だからこそ『災厄の聖戦』と呼ばれているのだ。



 前回の聖戦は180年前、人種と、現在は人種の支配下にある獣人族が争った。



 しかし、2回連続して選定されることは絶対にないとされているらしい。



 あらゆる種は聖戦に備え、国力を高めるのだ。



 200年の間に小さな紛争はあっても種族をあげた大戦は決して起こらない。

 そんなことをしていては、もし聖戦の参加種として選定された時、確実に万全の国力で挑むことが出来ないからだ。



 しかし、ミルザは「そんな戦いなど聖なる戦いなものか」と激昴する。



 ミルザは知っていたのだ。



 この聖戦は神が操るものでは決してないのだと。



 この聖戦の裏で糸を引いているのは、まさにこの戦いを始めた種族なのだ。



 その種の名を『天人(アマト)』という。



 戦争を聖なる儀式だと嘯く彼らは、あえて種族間での大規模の戦争を200年に1度と定めているのだ。



 彼らは滅んだとされるも、その死体も、彼らが残した叡智も何ひとつとして未だに見つかっていないのだ。



 彼女はこの迷宮に引きこもる前に、鑑定眼でその事実を目にしている。



 今まさに、種族を超えて、地上で最も尊い存在と言われている『聖者』───彼らこそが、消えた『天人』の現在の姿なのだ。



 ミルザがかつて見たというエルフの聖者のステータスプレートを覗くと、種族の欄には『天人』と記されていた。



 これが彼女に確信をもたらしたのだ。



 この聖戦は神の使いを自称する、天人が何らかの手段で引き起こす厄災だということを。



 しかし、今まで誰も気づかなかった訳では無い。



 ミルザのようにその事実に気づき、必死に訴えかけた者達もいたのだと言うが、それは全て権力の元でねじ伏せられた。



 聖者を貶めようとした罪を着せられて。



 ミルザは憎き親の仇でも眺めるかのような苦渋の表情を浮かべて語ったのだ。



 その優しさの裏にどんな辛い過去を持っているのかと、聞いていた俺も心配になるほど辛い面持ちだった。



「それじゃぁ、天人を滅ぼせば、その聖戦を終わらせられるということですか?」



 俺は話を一通り聞き終えると、そう訊いた。



「奴らは、強い権力と武力の元に厳重に守られている。 だから、何かしらの行動をおこした者達は罪を着せられて、理不尽に蹂躙されてきた。 聖者の正体は鑑定眼をもつものしかそれを知ることさえ出来ない。 そもそも鑑定眼は賢者、もしくはかなりの高難易度条件を満たした上級魔術師と商人しか得ることのできないスキルさ。 そういう者達の殆どは、権力に飼い慣らされている」



 ミルザは悔しそうに瞑目して首を横に振り、そう答えた。



 しかし、俺が「それじゃぁ、どうすれば……」と弱気に呟くと、ミルザは「でも」と目を開いて、自慢げに話した。



「学習しない賢者はいないの。 当然考えた、どうすれば告発を控えながら聖戦を止められるか」



「何か、あるんですね」



 俺はその明るくなった表情をみると、何か秘策があるのだろうと推測して、微笑して訊ねる。



「私の研究によれば、天人は魔人とグル。 そして、魔人族の中にいる別勢力、つまり魔王の配下の中に天人と繋がっているものがいる。 これは確定していると言えるさね」



「でも、それなら、現状最強と言われている魔人族を抑えないとダメですよね? そんなこと、本当に出来るんですか?」



 俺は少し期待はずれな結果に肩を落としながら訊ねる。


 もしミルザの言う通りだとしたら、魔人を抑えることが前提だ。


 そんなことが本当に可能なのか。



 しかし、ミルザはまるで自信を失っていないように話し続ける。



「いや、魔人族を抑える必要は無いさ。 魔人族が天人に供給する力を絶ってしまいさえすれば、聖戦は止まるはず。 そもそも、誰もがなんの疑問も持たず戦っているのは偏に、洗脳の呪いのせいさね」



「洗脳の呪い?」



「そうさ、実際に目で見たことは無いけど、おそらく魔人の力を借用して行われる、儀式制大規模魔法の類い。 今となっては神の加護の力も弱まり、数も少ない天人は魔人の力で補強し、その規模の魔法を行使している」



「本当にそんなことが出来るんですか!?」



 俺は驚いたように目を見開いて訊く。



「可能さね。 そういう魔法は実際に存在するのさ。今となっては禁忌目録に記され世にはでまわらないものだが、古い文献で何度か目にしたことがある。 ならばそう仮説をたてることが今の私にできる最大の抵抗なのさ」



 確かに、彼女が可能だといえば、それは可能なのだろう。


 仮説は仮説でも現実味を帯びた仮説だ。


 迷宮の大賢者という名は伊達ではないということを、俺は目の前で見せつけられた。



「それなら」と俺は小さく呟いて。



「その魔法を止めることが出来れば、聖戦を止められる……そういうことですね?」



 俺のそんな質問にミルザは「そういうことさ」とニヤリと笑った。



 まるで悪巧みを共有したような会話だった。


 実際に悪巧みをしているとも言えるし、していないとも言えるが。


 それでも勝利の兆しが見えたのは確かだった。







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