真莉亜の気付き。
結局、入院そのものは2日程度だったけれど、心配したお母さまがお家で静養するようにと言い出したお陰で、学校をその週いっぱい、お休みすることになった。
病院でお財布を出した時に、失神騒ぎですっかり忘れられていた本城からの封筒を見つけたわたしは、忘れないうちにと病院でお母さまに手渡したら、なぜか物凄く嬉しそうな顔をしていた。
ーーー嫌な予感しかしない。
病院で散歩をしていたら、癒し天使が2、3人いたことに感動。
梯先生とのカプで色々と妄想させていただいたのは言うまでもない。
病院のロッカー、誰もいない診察室……めくるめく妄想世界を堪能させていただいた。
お医者さんってなんとなくドSなイメージがあるのよね、わたしの私見だけどさ。
ドSなドクターに従順な男性看護師…妄想だけでごはん3杯はいける。
家に帰ってからもひと騒動。
お姉さま大好き雄斗がひっつき虫で大変だった。
ゲームの中の真莉亜がブラコン設定だったけれど、真莉亜一人の責任ではないように思う。
「ねえさま、だいじょうぶ?」
ベッドで休んでいるわたしの傍らにひっついて離れないのだ。
「大丈夫よ、ありがとう」
わたしが微笑むと、安心したようににっこり笑ってくれる。
その笑顔がかわいくて、デレデレになってしまうわたしもすっかりブラコンである。
ショタ萌え趣味はなかったんだけど、ショタをこよなく愛していた友の気持ちがなんとなくわかってしまう。
雄斗はもちろん姉であるわたしにも似ているが、わたしのような奥二重のどんぐり眼ではなく、切れ長のシュッとした目をしている。
お母さまが切れ長の目をしているので、そちらに似たのかもしれない。わたしはどちらかというと、お父さま似なんだと思う。
そんな雄斗は攻略対象の一人なので、将来が非常に楽しみなのだが、過剰に接点を持ちたくないわたしとしては複雑な心境であった。
心のありようというか、要するに病的に弟を愛さなければよいのだが、こうも可愛いと、決心が揺らいでしまいそうになる。
だって、マジ天使!
至って元気なわたしなのに、雄斗なりに一生懸命お世話してくれるのだ。
絵本を読んでくれ、お茶を零さないように真剣な顔をしてベッドサイドまで運んでくれる。
これでブラコンになるなと言うほうが無理ゲーじゃないかと思うのだ。
すでに色々無理ゲー感が漂ってるけどさ。
さて、かわゆらしい雄斗に手厚く看護されて、すっかりデレデレなわたしだったが、お母さまからのお話ですっかり憂鬱になってしまった。
例の本城家からの封筒は、お誕生会への招待状だった。
雄斗と同い年の女の子、貴彬の妹である、華恵さまのお誕生会のお誘いである。
華恵さまはあの貴彬とは違って、可愛らしいお嬢さまだ。なぜ知っているかというと、華恵さまはお身体があまり丈夫ではないので、たまに本城のお屋敷を訪れてお話相手をさせていただいている。
お母さまと本城の母である美沙子さまが、鳳仙で同級生だったという間柄のせいなのかなんなのか、詳しくは知らないけど。
華恵さまのお誕生会は、再来週の土曜日らしい。
またお母さまが張り切るのかと思うと、そちらも憂鬱なのだ。
わたしが主役なわけでもないのに、張り切る理由は予測がつく。貴彬に気に入られようとすること自体、無駄なのに。
寝過ぎてなかなか寝付けないわたしは、ベッドの中で何度も寝返りをうちながら、なんとか行かないで済む方法はないものかと考えていたのだがーーー。
華恵さま。
その存在は貴彬にとって、非常に重要だった気がする。
ん~なんだっけ、なんだっけ……。
ガバっ!!
気が付いた途端、思わずベッドから飛び起きてしまった。
あ、あ、あ……。
華恵さまが大変だ!!
貴彬がただの俺様キャラじゃなかった理由のひとつが華恵さまだった。
今の貴彬がそのまま成長すれば、怖いものなしの俺様のままだったと思うが、華恵さまを失ってしまったことで家族がバラバラになり、俺様というよりは他人を寄せ付けない孤独な人間に成長したのだ。
そんな孤独な貴彬の心を癒し、お互いに少しずつ、大切な存在になっていく過程がまたいいのよ!ちょっとじれったいくらいだったけど、それでもずっと笑わなかった貴彬がふいに見せた笑顔!!本当にきゅう~んとしたんだからね!
って……他人事じゃないっつーの……。
華恵さまに特別な警護を付けてもらうか?
いやいや、その理由をどうやって説明するのさ。逆に何か企んでんじゃねーかと疑われてしまうのが関の山よねぇ…。
たまにしかお会いしないけれど、わたしも華恵さまは妹のように可愛いのだ。運命が変えられるのであれば、未然に防ぎたい。そもそも、この世界で異端児であるわたしの存在があるのだから、もしかして変えることも出来るんじゃないだろうか。
華恵さまをどうしたらお助けすることが出来るのか?
そもそも、華恵さまに災いが降りかかるのはいつなのか?
ああ、難易度高いクエストにぶち当たった気分。
立ち回りを考え、失敗しても何度も挑戦して…。
よし!と気合を入れる。
ベッドの上で姿勢を正し、正座をして深呼吸。
わたしの記憶力にかかっているのだ、冷静に、そして正確に思い出すべく、目を閉じた。