真莉亜の推理。
わたしのかつて大好きだったゲーム。
タイトルは「花散る宵に~魔刻~」という、PCゲームだった。
オトナ対象のため、バッドエンドはハードだし、ハーレムエンドというのもあって、ヒロインがビッチ過ぎて心が折れそうになったこともある。
攻略したのはまだ学生の頃だったので、かなり昔の記憶を掘り返さなければならないハズなのだが。
うっすい本やグッズも買い漁って、その度に『やっぱ貴彬は俺の嫁!!』と舞い上がっていたので、そう苦も無く思い出すことが出来た。
主に「貴彬」に関するものだけだけど。
むしろ、今まで全く思い出すこともなかったことのほうが驚くべきことにも思える。
そう考えると、武清に感謝すべきなのかもしれない。
わたしの記憶が確かならばーーー。
華恵さまの誕生日というのが、重要なキーワードだった。
貴彬がヒロインに自分自身の生い立ちを話す場面。選択肢が結構大事だったので、覚えている。
そこで間違えると、好感度がいくら上がっていようが、恐怖のヤンデレバッドエンドに突入してしまうからだ。ヤンデレ好きにとってはおいしいのかもしれないが。
貴彬ほどの孤独が友達さ状態の男が、自身の生い立ちをペラペラ話す訳がないので、この選択肢の時点でヒロインとはかなり親密度が上がっている。そこでまさかのヤンデレエンドとは、鬼畜仕様過ぎて涙でモニターが見えなかった。
その大切な分岐で、誕生日に何があって、華恵さまは命を落としたかまでは語られていなかった。
事故なのか、それとも事件なのか。
わたしがお招きいただいている、華恵さまのお誕生会は、お誕生日の前日。
本城ほどの家柄ならば、娘の誕生日を盛大に祝うはず。わたしがお呼ばれしているのは、私的な集まりと考えたほうが妥当だ。
お誕生日当日はどこでお祝いするのか、おそらくは本城グループのホテルで行われるのではないか。
ああ、でも華恵さまはお身体が弱いから、今まで人前にお出ましになったことはないはず。
そうなると、本城のお屋敷なのか……。
貴彬の最愛の妹ではあるが、ゲーム内では華恵さま自身について、あまり詳しく語られることはなかったので、そこはもう、推理するしかない。ある意味、リアルのほうが鬼畜仕様である。
華恵さまに関しての情報が少なすぎることに気づいたわたしは、手詰まりになってしまった。
貴彬本人に聞き出すのも不審がられそうで怖いし。
華恵さまにさりげなく、当日はどうされるのかお尋ねしてみるか……でも、本城のお屋敷にお伺いする口実がない。
ウンウン唸ってもなかなかよい知恵が浮かばない。
……ここはとりあえず、お母さまを使って本番の誕生会を開催するのかをそれとなく確認してもらったほうがいいかもしれない。
お母さまから本城の母上にお尋ねしてもらうのはどうだろう?実の母をダシに使うのは少々気が引けるが、人ひとりの命がかかっているのだ、そうも言ってられない。
お誕生日当日に、わたしと雄斗から改めてお花をお贈りしたいと提案して、どちらにお届けすればいいのかを聞いていただくのはどうだろうか。
そうすれば、お誕生日の当日、華恵さまがどこにいるのかはわかるはず。
わかったところで、とも思うけど、とりあえずご本人がどこにいるかがわからなければ動きようがないのだから。
今出来ることをするしかない。華恵さまをお助け出来れば、きっと何かが変わる気がする。
変わった先に鬼が出るか、蛇が出るかはわからないが、わかっているのに何もせずにいるほうが罪深い。
7歳の子供に出来ることは限られている、どうする、どうすればいい?
この荒唐無稽な話を信じて、なおかつ秘密を漏らすことなく、いざとなれば華恵さまをお守り出来るような人がいれば……。
あ……。
もしかしたら。
うまくいくかわからないけど、話だけでもしてみる価値はある。
わたしは、その人を探すべく、自室を飛び出した。
「ばあや?」
ばあやを訪ねて厨房に入ると、お夕飯の支度をしているお母さまと料理人、そしてばあやがいた。
「あらあら、お嬢様、何か御用でしょうか?ベッドにいらっしゃるのに飽きてしまわれました?」
支度の手を休めず、でもニコニコと優しく問いかけてくれる、我が家のスーパーおばあちゃんのばあや。
おばあちゃんというほどの歳ではないことは知っている、まだ60代前半くらい。
でも、小学生の真莉亜から見れば「おばあちゃん」なので致し方あるまい。
「真莉亜ちゃん、もう少しでお夕飯が出来るから、お部屋に戻っていらっしゃいな ばあやに用事があるのなら、お夕飯を運んでもらった時になさい」
「はい、お母さま ばあや、お夕飯楽しみにしてるから」
「はいはい、では後でお運びしますからね」
「お嬢様、夕餉をお持ちしましたよ」
コンコンとドアを軽く叩く音とともに、ばあやの声がした。
「どうぞ」
ドアを開けて、ばあやが湯気の立ったお膳を持って入ってくる。
「さぁさ、たんと召し上がってくださいましね」
ベッドに腰かけていたわたしに、ニコニコ笑いかけながら、お膳をベッドサイドに置いてくれた。
「ばあや わたし、ばあやにお話しがあるの」
真剣な顔でばあやを見る。
「お嬢様、どうされました?何か困ったことがおありですか?」
ばあやの考えるわたしの困ったことなど、たかが知れているだろう。でも、今から話す事は知れている程度ではないので、こちらも真剣な表情を崩さない。
「ばあや、あのね、本城のお嬢様のことで、すごく心配なことがあるの」
「華恵さまのことですか?」
「そう、華恵さまの身に何かよくないことが起こると思うの」
さすがに「死」という単語を話すのは避けた。
「どうしてそう思いなさるんです?」
「ばあや……あのね、お母さまが心配するから、黙っていてほしいんだけど……」
ばあやはゆっくりとうなずいてくれる。
「学校で倒れて、病院にいる時からずっと同じ夢ばかり見るの」
「あら、まぁ……」
「華恵さまのお誕生日に、とってもよくないことが起こる夢なの ただの夢だと思うけど、何度も何度も見るから怖くなってしまったの だから、ばあやに確かめてほしくて……」
そこまで話して、そっと目を伏せる。
実際は夢など見てはいないけれど、こうでもしないと、なんでわかるんだということになってしまう。それなら、予知夢なんて信じてもらえるかはわからないが、イチかバチか賭けてみることにしたのだ。
「お嬢様には夢見の力がありなさるんですかねぇ……」
ばあやは少し考え込んでしまう。
やっぱりダメだったかぁ……。そうだよね、無理だよね、わたしだって信じられないもの。
「どんな夢なんです?」
わたしがガックリと肩を落としていると、ばあやが真剣にわたしの顔を見ていた。
「夢の中で華恵さまのお誕生日を祝う会が開かれていて、でも、華恵さまは一人でとっても苦しんでいらして、まるで……」
妄想癖がこんなところで役に立つとは。ばあやに話しながら妄想していたら、背に這いのぼってきた怖気でぶるりと震えてしまう。
「みなまで言わずともようございます」
ばあやは優しくわたしの手を取ってくれた。
「お嬢様の憂いを払うのもばあやの仕事 話してくだすってありがとうございます」
ばあやは大きく頷いていた。
「旦那様には、うまくお話しておきましょう ばあやにお任せください」
「本当? ばあやはわたしの話を信じてくれるの?」
「もちろんでございますとも お誕生日というのはいつでしょうか?」
「えっと……再来週の日曜日よ」
「さようでございますか では、ばあやにお任せを」
「ありがとう、ばあや」
わたしは心からの笑顔をばあやに向ける。
「さぁさ、せっかくの夕餉が冷めてしまいますよ たんと召し上がれ」
「ありがとう」
わたしに食事をするよう勧めると、ばあやは部屋を下がっていった。




