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クリスマス・パーティ①。

数か月ぶりの更新です、遅くなりまして申し訳ありませんm(__)m

「うぅ~……寒っ!!」

玄関を出て、車に乗り込むまでのほんの数十秒ほどの間に、わたしは首を竦める。

「本当に、寒くなりましたねぇ」

左右の腕を自分で抱えながらのばあやの呟きに、お母さまがうんうんと頷いていた。


年末の、どこか追い立てられるような雰囲気は大人たちだけのようで、子供たちはクリスマスや初詣など、これからやってくるイベントに心躍らせているようだ……わたしとしては、四月からいよいよ中等部で寮生活だし、その前の成績表でクラス分けというのも気になっているし、こうして家から学苑に通うのもあと少しだなぁ~なんて考えてもいて、大人の気忙しさと子供のワクワクとの半々ぐらいの気分だった。



綾小路とはあれから会っていない。正確には見かけてはいるけど、会話をしていない。元々、クラスが違ってしまえば接点はせいぜい『ゆずさまの会』ぐらいしかないわたしとしては、この状況は大変ありがたい。

しかも、中等部で『ゆずさまの会』が存続するのかどうかは、わたしには全く関係のないことだ。

ーーーそう、関係ないのだ、わたしはメンバーではなく、単なる雑用係。そう考えて地味に凹む……。


綾小路邸訪問の後、しばらくして、最近は丸くなったとわたしの中の評価がややマシになった貴彬が、わざわざうちのクラスへやってきて謝罪っぽいことをしていった。

『謝罪』ではなく、っぽいところが貴彬の限界なのだ、限界突破してみろ、クソ野郎と思ったが、表面上はお嬢様らしく『とんでもございません、わざわざ足を運んでいただいて恐縮ですわ』と言っておいた。

大人の処世術にコロっと騙されるわけもない貴彬が、片方だけ口角を上げてニヤリと笑って去って行ったのがまた癪に障ったが、わたしの体面は保たれたのだ、ヨシとしようと矛を収めておいた。


「真莉亜さま、おはようございます」

下駄箱で上靴に履き替えていると、綾花ちゃんが駆け寄ってくる。

「おはようございます、綾花さま」

笑顔で挨拶を返すと、白い封筒を手渡された。


「なんですの?」

「真莉亜さまも是非いらしてください!クリスマス・パーティですわ!」

「クリスマス・パーティ?」

わたしは封筒を開けてメッセージカードを開く。クリスマスらしい、赤とグリーンで彩られたカードには『ゆずさまの会』主催のパーティ会場と日時が記されていた。


「わたくしが伺ってもよろしいんですの?」

『ゆずさまの会』メンバーとは仲のいい子が多いが、今までそういったイベントごとに誘われたことがないので、おずおずと綾花ちゃんに尋ねると、綾花ちゃんは満面の笑みで答えてくれた。


「ええ!是非いらしてください!真莉亜さまのお陰で、わたくしたちの卒業まで会を存続させることが出来たのですよ?初等部最後のクリスマス・パーティですので、参加される方も多いですし、是非!」

綾花ちゃんのテンションに押され気味だったわたしは、ふと気になって尋ねてみた。


「このパーティに綾小路さまは……」

「ええ、最後ですので、是非にとお誘いしておりますわ」

「……マジか……」

「え?」

思わず本音が駄々洩れたわたしはコホンと一つ咳払いをしてから、綾花ちゃんににっこりと笑いかける。


「家の予定を確認してからお返事させて頂いてもよろしいですか?」

「ええ、もちろんですわ!良いお返事をお待ちしております」

綾花ちゃんはニコニコ笑って颯爽と去って行った。わたしはカードを手に持ったまま、しばらく突っ立っていたが、同じクラスの子たちに怪訝な顔で朝の挨拶をされて我に返り、挨拶を返すと鞄にカードをしまって二階へと階段を上って行った。


出来れば行きたくない、綾小路がいなければ、きっとものすごく楽しいイベントのはずなのにーーー。

そう、わたしはこのような子供同士の楽し気な集まりに招待されたのは初めてなのだ。本当ならば小躍りぐらいしてはしゃいでいてもおかしくはないのだが、あの綾小路に捨て台詞を吐いて帰った自覚はあるだけに、気、気まずい、、、。


どうしよう、どうしたら、ああでも行きたい、行ってみたい!わたしの心はせめぎ合っていた。


*****


あれよあれよと日にちは過ぎていきーーー。


パーティ当日。


休日なのだが、健司に送迎されて学苑へと急ぐ。雅ちゃんにもダメ押しされて、結局は参加させてもらうと返事をしたのは、招待状をもらった次の日だった。だって、綾小路一人のせいで、こんな楽しそうなイベントに参加しないだなんてきっと後悔する。


場所は学苑の食堂を借りて、会費制で行われる。ここで雑用係は長い人生で培った経験を元に、その手腕を大いに発揮した。むしろ、その為に招待されたんじゃないかと疑いたくなるぐらいに、準備に駆けずり回った。


『ゆずさまの会』主催で綾小路が参加するとなれば、今回のパーティには理事長の承認が必須だ。


綾花ちゃんにその点を確認したが、うっかり忘れていたとあっさり言われて仰け反りそうになったが、急いで理事長に企画書のような体で案を上げて無事に承諾を得た後、学苑長に話を通し、それから食堂のテーブル配置をどうするか検討し、料理を手配し……。


金額を決めたプレゼント交換案を出し、ビンゴゲームの手配までしたのだ。綾花ちゃんに大変感謝されたのは言うまでもない。小学生でここまで段取り出来るのは、恐らくわたしぐらいだろう、何人の結婚式の二次会を盛り上げたと思ってるんだ、ご祝儀の回収も出来ずに死んだけどな!


ちなみにビンゴゲームの景品は綾小路のブロマイドである。その為に綾小路に頼んで何枚か写真を撮らせてもらったらしい。その写真をL判をはじめ、2L、A4に焼いて、ラミネート加工した。わたしは一枚もいらないが、きっとメンバーは喜んでくれるだろう。時間があれば、次はカレンダーにしてみてはと提案したら、綾花ちゃんが物凄く乗り気だったので、いつか綾小路カレンダーが出回るかもしれない。


車止めの辺りで待ち合わせていた綾花ちゃんと、一足先に会場となる食堂に入り最終点検をする。


「真莉亜さま、本当にありがとうございます。ここまで出来たのは真莉亜さまがいらしたからですわ」

「綾花さま、お気持ちは嬉しいですが、イベントが成功するまでは、気が抜けませんわ。うまくいくといいですわね」

「そうですわね、きっと成功すると思います、皆さん楽しんでいただけるように、頑張らなくてはなりませんね」

「ええ、ぜひ成功させましょう!」

わたしと綾花ちゃんは力強く手を握り合った。


子供だけの集まりなので13時開始なのだが、わたしと綾花ちゃんは1時間前に会場入りしているため、料理を作っているシェフの方たちが気を遣ってくれてサンドイッチを出してくれた。


飲み会や結婚式の二次会に参加する人はわかっているだろうが、幹事は基本、飲食はほとんど出来ないと思っていい。そうなるとお昼を食べ損ねるのと同義なわけで、さすが大人の気遣いである、感謝して頬ばった。


いよいよ13時。


もうすでに食堂の扉の前には数人集まっているようだ、わたしと綾花ちゃんは頷いてゆっくりと扉を開ける。

「ようこそ、いらっしゃいました。では、まずあちらで会費をお預かりします」

綾花ちゃんがにこやかに告げ、わたしが占拠しているテーブルに案内してくれる。


「ようこそ、クリスマス・パーティへ!こちらの名簿に〇印をお願いしますね、あと会費をお預かりします」

「はい、あとプレゼントはどうしたらいいですか?」

「プレゼントは後ほど交換会をしますので、こちらに置いていただけますか?」

「わかりました、あと、これは?」

「これはビンゴカードです、こちらは後でゲームで使いますので、持ってらしてくださいね!」

「わぁ、いつもと違ってゲームもあるんですね、楽しみです!」

女の子たちは皆、楽しそうに笑顔で会場のあちらこちらへと散らばっていく。同じ学年の『ゆずさまの会』メンバーしか知らないわたしは、初めて会う子が多かったが、四年生から上の学年が多いようだ。


大方の人が入ってきたところで、ついに真打が登場した。


「やあ、ご招待ありがとう」

「綾小路さま、お忙しいところいらしてくださってありがとうございます!」

綾花ちゃん、満面の笑みでお出迎えである……。いっそ、会費も預かってくれないかなぁと思っていたのだが、残念ながら綾小路は綾花ちゃんの案内でわたしの座るテーブルにやってきた。


「あれ、大道寺さんも来てたんだ」

「ええ、綾小路さま、ごきげんよう」

わたしの引き攣り気味の笑顔を黙殺して、キラキラ笑顔を振りまく綾小路。さすが役者である。


そしてキラキラに吸い寄せられるように、ドレスアップした蝶たちの視線がこちらへ注がれる。


「綾小路さまよ!」

「まぁ、今日は一段と素敵ですわねぇ……」

あちこちに上がるため息だけで、もうお腹いっぱいなのはわたしだけだろう。


本日の綾小路 譲のお召し物はーーー黒のタキシードだが、ナローラペルには銀糸が混ぜ込んであり、照明を反射してキラキラと輝いていて、いつものキラキラ笑顔に三割増の威力を与えている。スタッドボタンはオニキス、カマーバンドにも銀糸を混ぜ込んだ生地を使っており、そして黒のエナメルーーー恐ろしいほどの完璧さ、さすが攻略対象、貴彬とのカップリング一番人気も頷ける。


鑑賞だけなら目の保養だね、うん、眼福。


そんな綾小路は、蝶たちの熱い視線を一身に浴びても、たじろぎもせずに優雅にウェイターさんから飲み物をもらって、早速テーブルを廻っている。

さて、そんなお嬢様たちを尻目に、幹事という名の雑用係にはまだやることが盛り沢山、パーティは始まったばかりなのだ。貴彬と綾小路の薄い本のくだりを思い出してニヤついている場合ではなかった。


まずは皆から預かったプレゼントを紙袋から一つずつ出していき、端に寄せたテーブルに並べていく。ビンゴゲームに使うビンゴを取り出して……あ、しまったホワイトボードを持ってくるのを忘れていた。昨日のうちに食堂の脇に置かせておいてもらったのを入れるのを忘れていたのだ。


綾花ちゃんを探し、お金を預かってもらってから、一旦食堂から出てホワイトボードを運んでいるとーーー。


「何をしているんだ?」

「え?」

わたしが一人でホワイトボードを引きずっているのを、不思議そうな顔をして貴彬が見ていた。


「え、いえ、ホワイトボードを使うので……って、なぜ本城さまがいらっしゃるんです?」

「招待されたからだが」

わたしが呆気に取られていると、何がおかしいのか笑われた。一緒にお笑いのステージを観に行って以来、笑われてばかりだ。


「これを運べばいいんだな」

「け、結構です、運べますから」

手伝ってもらった対価を求められるほうが恐ろしいわたしは、なおも一人で引きずっていると、呆れたような声が聞こえる。

「どんくさい奴だな、さっさと貸せ」

そう言うと、わたしの反対側から押してきた。まぁ当然だが、一人よりは二人で運ぶほうが断然早い。食堂の入り口の扉を開け、ホワイトボードを運び入れる。


「受付はどこだ?」

「あ、本城さま!」

わたしが答えるより先に、綾花ちゃんが貴彬を呼んだ。

「わざわざお越しいただいてありがとうございます!どうぞ、こちらで受付いたしますので」

そう言われた貴彬はチラッとわたしのほうを見て、入り口にあるテーブルへ向かった。


わたしはホワイトボードをセッティングして、テーブルに置かれたプレゼントを整理していると、横からひょいと手が差し出される。

「これ」

「ああ、ありがとうございます、こちらに置いてくださって結構ですわ」

わたしはなぜか貴彬を見ることが出来なかった。先ほど、ちらりと見てしまった貴彬は、それはそれはパーフェクトな出で立ちで、いつもの三割、いや五割増と言っても過言ではないぐらいの、ちびイケメンぶりだったのだ。


貴彬のタキシードは、ピークドラペルの黒の拝絹(はいけん)で、至ってシンプルなのだが、ちらりと見えたカマーバンドはシックなグリーンで、黒のエナメル。そして何より鼻血が出そうだったのが、いつもはサラサラの自然体の茶髪を、ワックスでオールバックに流していたのだ……ダメだ、これは誰得だ、わたし得だろ、この野郎である。


そして貴彬に気付いた綾小路が近寄ってきたーーー。

あ、ああ、もう、ほんと、この世界での色んな苦労が報われる、これは神様がくれた、わたしへのプレゼントだ、きっとそうに違いない。


中身はお子様シャンパンだろうが関係ない、二人が笑ってグラスを合わせた時、なんでわたしはスマホを持ってないんだばかーっと自分を罵ったが、後の祭りである。



いくつか補足させていただきます。

ラペル、というのは男性の上着の襟のことを言います。

①ナローラペルというのは背広の襟の形のひとつで、なだらかなカーブの襟を指しています。

②ピークドラペルはピークが峰という意味で、とんがっている部分のある襟のことです。

タキシードは上着の他に側章付きのスラックス、サスペンダー、カマーバンドにシャツは見える部分はスタッドボタンで装飾します。シャツの袖口はダブルでカフス使用です。シャツは一般的にプリーツが入っていることが多いです。靴はエナメルシューズが基本です。

タキシードは本来、夜の正装になります。朝~昼はモーニングですが、クリスマス・パーティであることを踏まえて、今回はタキシードとしました。夜の正装で格式が一番高いのはロングテイル、つまり燕尾服になります、ご参考まで。

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