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図書館にて。

貴彬はあんな風に言うけれど、わたしに綾小路をどうにかするなんて無理だーーー。


一難去ってまた一難とはまさにこの事である。いや、一難どころか、十難くらいなんじゃないだろうか?ここのところ十歳ぐらい老け込んだ気がしていたが、プラス五歳は老け込んだ気がする。

「姉さま、疲れてない?」

「……ちょっとね……」

車の中で雄斗に心配されるぐらい、わたしは疲れていた。


葵ちゃんと友達にはなっちゃうし、まぁそれはそれでわたしは嬉しいのだけれど、わたしが予測していた事態があまりにも変化しているので、もうついていけないっっ!というのが正直な気持ちだった。


それでも、華恵さまが元気なのは嬉しいし、リンだって、葵ちゃんのお母さんだって生きている。お父さんの消息はよくわからないけどね。だから、あのちょっと重苦しい『花宵』の世界が、単なる学園ラブコメになったと思えばいいんじゃないかと思ったりもしていた。

そうなると、わたしの立ち位置だって変化しているはずで。そっか、このままいけばヒロインである葵ちゃんの天敵になるわけないんだから、大道寺の家を追い出される可能性もかなり低いんじゃないだろうか?そっか、そっか、めでたしめでたしと思ったら、少し元気になった気がして車を降りたのだが。


昇降口でどんよりとした背中を見つけて、まだ一難はあったんだ……とがっくりきていた。

それにつけても、綾小路である。


さて、どうやって綾小路を立ち直らせるかが、目下のわたしの最重要事項となった。それもこれも貴彬の丸投げのせいである。幼馴染なんだから、自分がなんとかしたらいいのに。それに、出来るだけ関わり合いを持ちたくないのに、どうしてあいつらはわたしに絡んで来ようとするのか、本当に不思議でならない。

もうすでにシナリオが破綻しているのだから、綾小路もなんとか自力で立ち直ってくんないかなぁと授業の合間にぼんやりと考え事をしていたら、雅ちゃんがわたしにメモを手渡した。


「これは、なんですの?」

「教室を出たところで、本城さまより言付かりましたのよ」

雅ちゃんはすっかりメッセンジャーガールになっていた、貴彬は相変わらず人使いが荒いようだ。

「ありがとうございます、雅さまにこのようなお願いばかりする本城さまに、よくお話しておきますわ」

「構いませんわ、だって本城さまからは、ちゃんとお礼の品をいただいておりますから」

雅ちゃんはにっこり笑ってそう言うと、小さな紙の手提げを見せてくれた。これは、今人気のチョコレートショップのパッケージではないか。

「そ、そうでしたのね……」

将来、本城グループを背負って立つ男に手抜かりの四文字は存在しないことをまざまざと見せつけられた。わたしはそれ以上、何も言う気になれず、雅ちゃんが渡してくれたメモを広げると、そこには綾小路邸へお邪魔する日程が書いてあった。いや、せめて第二希望ぐらい聞いてくれてもいいんじゃないかな?!わたしだってそれなりに忙しい身ではあるのだしーーーそんなことを貴彬に求めるのは無駄だと知っている、わたしが我慢すればいいんだ、クソと思いながら、諦めのため息を吐いた。


ーーー日取りは決まったものの、具体策など全く思い浮かばないわたしは、完全に手詰まりだった。お母さまに相談するか、でも理事長の孫である綾小路の実情を晒すのは忍びない。何より、お母さまは綾小路の弟が生まれた時にお祝いを送っているのだし、相談するにしても大幅に内容をぼかさなくてはならないだろう、それはそれで面倒くさい気がする。


そしてまた、冒頭に戻るーーー。いや、戻っちゃダメでしょ、話進まないし。


そんな訳でどうにも悩んだわたしは、全く関係のない人物に相談することにした。そう、相楽さんである。

相楽さんとは、あれ以来、図書館で会うと挨拶ぐらいは交わす間柄だった。男心については腐った方面の恋愛事情ぐらいしかわからないわたしには、綾小路のような繊細な少年の心など、わかるはずもないので、ここは年上の男性である、相楽さんに相談しようと思い立った。

だって、我が家の男共(ばあやのとこの三兄弟を始め、健司と正夫)は間違っても繊細さなんてものは持ち合わせていない。雄斗は別だけど、変に勘のいい雄斗に相談したら、また華恵さまに相談されて、話が盛大に盛られ放題になるだろう、二人は綾小路に近過ぎるしね。


そんな訳で、わたしは放課後、図書館の入り口近くで本を探すふりをしながら、相楽さんが現れるのを待っていた。

もちろん、連絡先は知らないから、こちらの都合よく現れるはずもなく、初日は見事に空振った。大丈夫だ、まだ日にちはあると余裕こいていたのだが、今日も彼は現れない。

こっちが用がある時はいない癖に、どうでもいい時ばかり声をかけるなんて、、、とブツブツ文句を言っていたら、肩をとんと叩かれた。


「何をブツブツ言ってるの?」

でたーーー!綾小路!!てか、なんであんたここにいるのよ?!わたしの驚愕の表情を見て、綾小路のほうがびっくりしたようだった。

「どうしたの?そんなに驚いた顔をして?僕、何か変なこと言ったっけ?」

いやいや、別に変なことは言ってないよ、わたしがびっくらこいただけだからね、うん、別に君はなんも悪くない。

「いえいえ、急に肩を叩かれたから、驚いただけですわ」

「そうなの?それにしても驚きすぎだよね。ひょっとして、僕の事を考えていた、とか?」

綾小路も貴彬と同じように、ゲームのミニチュア版に変化してきていて、こちらも心臓に悪くなってきていた。その顔で、そんなことを言われると、俺の嫁でもないのによろめきそうになるではないか。あくまで俺の嫁は貴彬だ、浮気させないでくれ。

「ち、ち、違います!」

綾小路というよりは、待ち人来たらずなのだが、下手に言うとまたまわり回って自分に返ってくる未来しか想像出来ないので、それだけ言って口を噤んだ。

「そうなの?なんだ、つまんないな……あ、そうだ。そう言えば、貴彬と今度、うちに遊びに来るって聞いたんだけど、なんで?」

「本城さまからお誘いをお受けしただけですわ」

「貴彬から?おかしいな……貴彬は、大道寺さんが僕の家に来てみたいって言うからって言ってたけど」

ーーーその辺の細かい話を全く詰めていなかったんだった……。綾小路は疑いの表情を向けてくる。どう言い訳しようかと悩んでいたら、ふいに入り口に相楽さんが現れた!


「あっ……」

わたしが思わず漏らした声と、視線のほうを辿って綾小路もそちらを見た。ああ、まずい、今日はどうして詰めが甘いんだ、わたしとしたことが!!

「もしかして、あの人を待ってたの?」

「待っていたと言いますか……ええ、はい、そうです」

わたしは観念した。というか、これで話が逸れたことを単純に喜んでいた。

「へぇ~?そうなんだ、ふぅ~ん……」

どうでもいいけど、そろそろわたしを解放してもらえないだろうか、と焦っていたけれど、そういったことには聡い綾小路は、ちょっと思案したような顔をすると、じゃあまたねとヒラヒラと手を振って去って行った。なんだったんだ、ありゃ。


おお、そうだ、わたしの本懐を遂げなければと、わたしは先ほど二階へ上がって行った相楽さんを追いかけ、二階への階段を上った。


それを入り口からそっと見ている、綾小路に気付かずに。



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