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綾小路 譲。

ご無沙汰しております!一度やらかしてから、更に一年が経過していました……。お待ちいただいていた方も、そうでない方も。短めではありますが、楽しんでいただければ幸いです。

ーーー僕は暁が嫌いだ。

そうはっきり自覚したのは、いつの頃だったのか、よく思い出せない。

弟という存在がこれほど疎ましいと思う自分が、どこかおかしいのかと思うこともあるにはあった。


貴彬は華恵ちゃんを物凄く可愛がっているし、大道寺さんも弟を可愛がっているのを見ていると、やはりこれが普通なのかと思う。でも、僕は彼らのように暁を可愛いと思えないんだ。その理由が分かれば、もう少し、暁にも優しく出来るのかもしれないけど。


おじい様は僕には厳しいけど、暁には甘い。おじい様だけじゃなく、父様も、そして母様だって。おじい様に叱られた僕を、いつも慰めてくれた母様も、最近は暁の世話で忙しい。もちろん、暁はまだ小さいからというのも分かってはいる。でも、僕の時はそうじゃなかったよね?と言いたい自分もいるんだ。


おじい様が僕に厳しいのは、僕が将来、この綾小路を背負って立つ人間だからだということも、もちろん理解はしているつもりだ。頭では分かっている、分かっているけど、その重さが僕を息苦しくするんだ。


だから、今日も学苑で僕はにこやかに女の子たちと楽しく過ごす。そうしている間は、そんなことを考えずに済むから。


この間、大道寺さんをちょっとからかったら、物凄く怒らせてしまった。すぐ追いかけて謝ったんだけど、大道寺さんは僕に『がっかり』したと言った。


『譲、お前には失望させられてばかりだ。なぜ、こんなことがわからないんだ』心底駄目な人間だと言わんばかりの、おじい様のあの目が思い出されて、僕は頭が真っ白になってしまった。


僕が駄目な人間だったら、この家はどうなるの?

僕が駄目なら、暁がスペアなの?

僕が駄目なら、僕はこの家にいらないの?


だったら、僕は今まで、何のために頑張ってきたんだろう……もう、僕は自分がどうしたいのか、どうなりたいのかさえ、よくわからなくなっていたーーー。



...............................................................................



「え?綾小路さまが?」


その日、どうしても話があると貴彬に呼び出されたわたしは、ものすごーく嫌な予感しかしなかったけれど、渋々、本城家の車に乗り込んだ。

何も本城の屋敷で話すことでもないだろうと不機嫌を隠さないわたしに、貴彬が珍しくすまないなんて言うから、拍子抜けしてしまった。あの!貴彬が!と驚いたけれど、まぁ、この男も少しは丸くなったしなぁなんて考えながら、本城家の応接間でお茶を出されていたのだけれど。


「あいつの様子が明らかにおかしい。お前、何か知っているか?」

貴彬が難しい顔をして、紅茶の入ったカップを口に付けた。余談だが、最近の貴彬はゲームの貴彬の片鱗どころか、まんまミニチュア版と化していて、わたしとしてはかなり焦っている。

……そう、そろそろ心臓が持たないのではないか、という意味でーーー。


「思い当たる節はないで……あ」

「何かあったのか?」

貴彬が真剣な顔をして身を乗り出してきた。視線を合わせて会話するのも、最近は久しぶりだったせいか心臓に悪い。こんなことを考えているなんて思ってもいないだろうが、少し視線を外さないことには平静を保つのも難しいと思ったわたしは、紅茶を飲むことにして耐えることにする。


そのまま、俯き加減で、庭園での出来事を説明すると、貴彬は渋い顔をした。


「わたくし、何か失礼なことを申し上げてしまったのでしょうか……」

NGワードをポロっと言ってしまった自覚があるだけに、非常に肩身が狭い。もちろん、NGワードなんてことは貴彬は気付いちゃいないだろうけれど、それがあまり良くない兆候であるということぐらいはわかったらしい。


「あいつ……」

そう一言漏らすと、腕を組んで考え込んでしまった。貴彬と綾小路は幼稚園からの幼馴染だけあって、相通ずるものがあるんだろう、ただ、こればっかりは葵ちゃんじゃなきゃダメなんじゃなかろうかと思っているわたしとしては、出来ることはないだろうと思っている。


「お前が気にするようなことじゃないが、あいつが一番痛いところを突いたのは確かだな」

へぇへぇ、仰る通りでごぜぇますだ、お代官様ーーーだからと言って、わたしに出来ることはないだろう、そうだろう、そもそもわたしは悪役なんだからね!とこっちも開き直りたい気分だった。だが、そんなことはもちろん言えるはずもなく、自分可愛い人間で、貴彬の逆鱗に触れたくはないわたしは、申し訳なさそうに尋ねる。

「そうでしたか……わたくしの発言はデリカシーに欠けていたのですね。綾小路さまに申し訳ないことをしました」

「そう思うなら、ちょっと手伝ってくれないか?」

「わ、わたくしに出来ることがあるとは思えませんが」

「そうでもないと思うが。それに、お前の言葉がきっかけには違いないだろうからな」

貴彬の、こういう人の弱みに付け込んでというか、わたしの性格を熟知しているというか、こういう言い方をされたら、わたしが絶対に断れないだろうと見越して言っているのがわかるのが腹立たしい。


「では、わたくしはどうしたらよろしいのです?」

「そうだな……あいつは、自分と比べられる対象が出来てから、ちょっと不安定なのはわかってはいた。俺も様子を見ていたんだが、さすがに今のままはまずい……近いうちにあいつの家に行くから、その時はお前も一緒に来い」

「わたくしが行ったところで、どうにかなるようには思えませんが……」

「いや、お前なら出来る、俺の期待に是非応えてくれ」

な、な、なんという……わたしは絶句した。それは、もしかしなくとも『丸投げ』というやつじゃなかろうか。こ、この男はなんてことを言うんだ!


「本城さま、それはもしかしなくとも、世間では丸投げと言われている行為ではないでしょうか?」

皮肉を込めて言ってやると、涼しい顔をして、貴彬が答えた。


「お前と言う人間が成長するための課題だ。頑張れよ」

人をなんだと思ってやがんだ、このガキ!と危うく口に出しそうになったけれど、ぐっと奥歯を噛みしめて堪える。その様子を見て、貴彬はにんまりと口の端を上げた。


結局は貴彬の術中にハマっただけだったと、中身アラフォーなどとっくに超えて、アラフィフに差し掛からんとするはずのわたしは、悔しさに歯噛みするので精一杯だった。








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