第七話 日常の終わり
「灯せんせ~、お待たせ~」
「霧崎さん。遅いからそろそろ呼びに行こうかと…、あら、湧澄さん、桜木さん、それに相澤君も」
灯先生は風香に続いて入ってきた唯人たちを見てどういうことか察したのか『やれやれ』、といった様子だ。
といってもこういったことは日常茶飯事であり特に追求したりしない。
「はぁ、まあいいわ。時間もないし悪いけど手伝ってね」
先生はそう言うと山のようなプリントを振り分け始める。
「今日はまた大量ね~。ちょっとエコじゃないんじゃない?」
あまりの量の多さにさすがの風香も苦笑いだ。
「あなた達が有効に使ってくれればその紙だって無駄にはならないのよ?」
「うぇ~い。精進しま~す」
そんなやり取りを視界に納めつつも唯人は全く別のことに注意を払っていた。
先ほど風香が準備室の扉を開けるのとほぼ同時にその現象は発生していた。
唯人が足元を見やるとそこには半径五十センチ強の光源。
光でできたミルククラウンの様なそれは、明滅を繰り返しやや暗めの準備室を照らしている。
最新のプロジェクションマッピングやら演出技術を使えば可能なのかもしれないが、ここにそんなものがあるはずもなく誰がどう見ても超常現象の類と判断するであろう『それ』。
こうした現象はフィクションの中ではたびたび登場する。
それを見たある者は
「な、なんなんだこれは!?」
と取り乱し、
ある者は
「美しい…」
と涙し、
ある者は
「神の御業だ…」
と祈りを捧げた。
そんな現象に実際に直面している唯人。
その口から漏れたのは…
「…はぁ――
溜息と
――――またか」
心底うんざりという気持ちが濃縮されたかのような一言であった。
唯人が初めてこの現象(正確には似た現象)に遭遇したのは二年ほど前になる。
最初は柄にもなく取り乱したものだが、それ以降月に二回以上のペースで起きており今となってはもう慣れたもので、こうしてみんなの前でいきなり発生したところで特に動揺はない。
人前で起きたことも一度や二度ではなく、今までの経験でこの類の現象は唯人にしか見えず、この後発生する更なる超常現象も唯人以外には影響がないことを確かめている。
この足元の光だけであれば、きれいだなぁ、で終わるところだが『この後発生する更なる超常現象』というのが、唯人に溜息をつかせた元凶であり、光はその予兆に過ぎない。
(さて、今回はどのくらいで帰ってこられるかね)
そんなことを考えていると光の明滅が激しさを増し、光の粒子が唯人の周囲を舞い始める。
(向こうの人には悪いけどさっさと終わらせてプリントを運ばないとな)
足元からプリントの山へと視線を戻す。
そして気付く。
「!!!」
皆の足元にも自分と同じ光が輝いていることに。
それと同時にかかる声。
「た、唯人?!な、何それ!?」
「唯人君だけじゃないわ!私達の足元も光ってる!」
「な、なんなんですかこれ!?」
「み、皆落ち着きなさい!」
(なッ!?何で皆にも!)
そうしている間にも光の粒子は密度を増し、視界を白一色に染め上げる。
(くそっ!間に合わな――)
必死に何か手を打とうとした唯人であったが間に合わず、一瞬の浮遊感の後彼らは旅立った。
彼女達はもちろん唯人でさえも今までの常識が通用しない、
――異世界へと。
短いですが区切りがいいので投稿。
やっとスタートラインに立ったというのにゴールした気分。
次は世界観の説明会になる予定。
ちなみに作者的に最初の分岐があるのがここ。
1.皆同じところへ『召喚』
2.唯人以外が同じところへ『召喚』
3.皆同じところへ『飛ばされる』
4.全員ばらばらに『召喚』
といっても4以外はほとんど大筋は変わりませんが…。