第6話 手に入れた日常 6
いつの間にか1000ユニーク突破してました。
世間的に見てどうかは置いておいて自分にとっては驚愕の事実です。
もっと話が進んでからそれくらい行けばいいなぁと思っていたので非常にうれしいです。
読んで下さった(ている)皆様、本当にありがとうございます。
ぼんやりと過去を思い起こしつつ唯人は教室へと戻っていく。
昼休みも残りわずかとなったこんな時間ではたいした商品は残っておらず、唯人の手にあるのは売れ残っていたミニクロワッサン×6/¥210 一袋のみである。
(無いよりましだな)
そんなことを思いつつ教室へ戻ると自分の机を囲む『四人』の姿が目に入る。
二人はもちろん風香と玲奈である。
唯人は自分が席を離れていた間に来た二人に声を掛ける。
「梢、裕也、二人とももう昼食は済ませたのか?」
声を掛けた二人がこちらを振り返る。
「よう!唯人。ちょっとお前に用があってきたんだが、霧崎たちがお前の飯もらったって言うからちょいとご相伴に預かってるぜ」
「ひゃうっ!?た、唯人さん!?ご、ごめんなさい!私も少し頂いちゃいましたっ!」
梢はなにやら驚いていたようだが裕也のほうは待ってましたといわんばかりの様子でなにやら唯人に用があるようだ。
裕也。火野上 裕也。
彼は梢の幼少期から、小、中、そして高校も同じと言う筋金入りの幼馴染、と言うやつらしい。
高校においてはクラスこそ違うものの、こうして休み時間などに梢に会いに来ているところはたびたび目にしている。
その縁もあって、唯人たちとは接点も多く唯人にとっては男子の中でもとりわけ仲の良いといっても差し支えない人物であった。
明るめの茶色に染めた髪に鋭い目つき、彼のことを知らないものが見たなら『怖い』といった印象を与えるだろう風貌だが、実際よくよく見てみれば有象無象のアイドルならば及ばないほどのイケメン…というより男前である。
少々粗野な面も見られるものの仲間に対しては非常に頼りになる一面を見せる様は、まさに兄貴分と言うにふさわしく、梢に対する態度は妹を気にかける兄のようにも見える。
だが唯人は、この二人が恋人として交際しているのではないか?と睨んでいる。
実際今日も梢は手作りの――と思われる――弁当を二つ持ち、裕也と二人で昼食を摂っていたのを唯人は確認していた。
驚いている梢も気になるところだが、まずは用のあると言う裕也に用件を確認する。
「いったい何の用だ?」
すると裕也は足元においてあった紙袋を持ち上げつつ、
「織田のやつがお前に借すって約束してたやつだと」
そう言いながら唯人へ紙袋を差し出した。
織田とは裕也のクラスメイトで唯人とは『勉強のための教材』を探しに本屋に行った時に出会って以来どうやら気に入られたらしく、現在では『勉強のための教材』を度々貸してもらっている人物である。
一言で言うと…
「織田って、あのオタクでしょ?」
と風香が言うように彼は典型的なオタクである。
だがオタクとは言いつつも風香の言葉に馬鹿にしたりするようなニュアンスはない。
話は少し脱線するが唯人は織田君をはじめとする○○オタクを尊敬している。
例えば織田君のようなアニメや漫画のオタクであればアニメの制作会社や声優、作画、監督、作られるに至る経緯などを網羅している知者でありそこから考察までする賢者でもあるのだ。
ただアニメが好きなだけの人をオタクと呼ぶことがあるがとんでもないことである。
例えるならその人たちはただのワインを飲むのが好きな酒好きであるならばオタクはソムリエなのだ。
そしてそのソムリエから得た知見は唯人にとって非常にためになっており尊敬を欠かさないのであった。
そんなことを思い返していると
「いったい何を借りてるのかな~」
そう言いつつ裕也の持つ紙袋を掠め取る。
別に――唯人としては――見られても恥ずかしい訳ではないので無理に取り戻そうとはせず成り行きに任せる。
「なにがでるかな?なにがでるかな?♪」
風香がごそごそと中身の一部を取り出す。
紙袋から出てきたのは、肌色率の高い表紙の文庫小説数冊とゲームソフト、アニメ、映画のDVDがそれぞれ数点ずつ。
共通していることはどれもがファンタジーに分類されるジャンルだということだ。
異世界もの、転生・転移もの、悪役令嬢もの、SF、etc…
しかしながら全体的に、特にライトノベルは――主に表紙が――オタクがどうこうという問題とは別に女性陣には不評なようで、
風香
「…ちょっとあんたこんなの読んでんの?」
玲奈
「わ、私はあんまりこういうの読んだ事ないんだけど…。…こういうのが好きなの?」
梢
「た、唯人さんが読んでるなら読んでみようかな!?」
裕也
「いや、好きなのは良いけどよ…もう少し隠すとかさぁ…」
と散々な言われようだ。
唯人からすればこれらは唯人にとって欠けているものを補ってくれる得難いものであるのだが、そんなことを彼女らが知るはずもない。
「まぁ、面白いとは思うし、人生何が役に立つかわからないし、こういうものを読むのも悪くないもんだ」
そういいつつ紙袋を回収し出した物をしまう。
「ふ~ん、そういうもん~?…Wi-Fiないけどいっか(ボソッ)」
「確かに読んでみないとわからないこともあるわね…(メモメモ)」
「そ、そうですね。今度読んでみますね」
と、風香は興味なさげにスマホを弄り、玲奈は真面目にスマホにメモし、梢はフォローを入れるように。
三者三様の反応を示す彼女達をよそに唯人の弁当を食べている裕也に唯人は気になっていたことを問う。
「裕也たちは二人で弁当食べてきたんだろ?まだそんなに食べるのか?」
実際は最初の梢の様子がおかしいと感じたのでそれに対して尋ねようとしていたのだが、あまり直接尋ねるばかりが正解ではないとこの一年半ほどで唯人は学んでいた。
「…気づ、いや、誤解されると嫌だから先に言っておくが、俺達が付き合ってる、とかそんなベタな話じゃないからな」
頭をガリガリと搔きながらそう前置きをする裕也。
「梢がちょっと前から料理を練習したいっていうから付き合っているだけだ。最近ようやく普通の料理なら食べられるレベルになってきたからな、次のステップとして弁当を作っては俺に試食しろってうるさいんだ」
「ちょっと!黙っててって言ったでしょ!!」
すかさず梢から苦情が出る。普段おとなしい梢も裕也に対しては結構強気な発言が多い。
「どうせもうバレてるんだしどうせなら皆に評価してもらったほうがいいんじゃないか?」
そんなことを言い合う二人を見ながら唯人は改めてこの二人が付き合ってるのでは?と疑わずにはいられない。
今手元にある紙袋の中のライトノベルでも幼馴染というのは格別の存在であることはもはや当然といったレベルであり、今目の前にある光景に似たものも今までに読んだ作品の中で幾度となく目にしていたからだ。
もちろん作品の中にあることがすべて正しいなんていうことがあるはずもないが、唯人にとってこれらの作品は『信じるに値する説得力』を持っているためどうやっても正否の判断の材料となってしまう。
そんなことを唯人が思っているうちに、二人は少し残っていた弁当をここにいる三人に食べてもらうということになったらしい。
「私の食べかけで申し訳ないんだけど…」
そう言いつつ机上に出された弁当は、半分ほど食べられていたものの見た目には大きな崩れもなく特に問題はない状態である。
三人はそれぞれ残ったおかずに箸を伸ばす。
梢は緊張した面持ちでその様子を見守っている。
梢の弁当を食べた三人の感想は
風香
「う~ん、普通ね」
玲奈
「す、少なくとも私よりは上手だと思うわ」
唯人
「まず、弁当にするおかずに問題があるな。弁当にする以上冷めても―――――――」
はっきり言って微妙である。
唯人に至っては弁当を作る際の注意点をつらつらと語り始めてしまっている。
梢はそうなることがわかっていたのか既に裕也に言われていたのか落ち込みつつもきちんと三人の感想を受け止めているようだ。
「―――、次はこのあたりを作ってみるといいんじゃないか?」
長々と続いた弁当アドバイスを終えたところでフォローを入れる。
「ま、ある程度のレベルに達すれば最終的には料理は空腹と愛情らしいからな」
とどこかで聞いたことをそのまま伝える。
「えっ、いやっ、あのっ、頑張り、ます…」
『愛情』という部分が恥ずかしかったのか顔を真っ赤にさせた梢が手をわたわたさせながらしどろもどろに答える。
「え~、愛情をいくらこめたって料理自体の味は変わんないと思うんだけど~?」
と、夢のないことをいうのは風香。
それに対して玲奈は
「そうかしら?愛情を込めるって言うのは別に気持ちだけじゃなくて例えば、相手の好みの味付けにするとか見た目に気を遣うとかそういう細かい気配りに表れるものだと思うわ」
と意見をぶつけ合っている。
梢も二人の意見に耳を傾けているが、唯人は自分の発言が間違って伝わっていると気付き、
「あ~、今言った『愛情』ってのは『食べる側』の愛情だからな」
と改める。
「「「…え?」」」
普通に『料理は愛情』といえば作る側の愛情だが彼の参考資料の中においては愛情――親愛の場合もあるが――があれば炭化していようがダークマターと化していようが「お、美味しいよ?」と言って食べることができることになっている。
もちろん『空腹』も食べる側のことであるのでひとくくりにして挙げたわけである。
指摘された三人も最初は違和感を覚えたようだが、言われてみれば納得してしまう。
実際、家族の作る料理は美味しいと感じるし、愛情といわずとも好感を持っている相手の料理は同じ味でもより美味しく感じるというのは理解できたからだ。
理解したと同時に何かに気付いたようにハッとし三人は互いに目を合わせすぐに逸らす。
唯人はその様子が理解できずにどうしたのか尋ねると傍観者に徹していた裕也が、
「そりゃさっきまでお前の弁当をおいsうぼあっ!!」
何か言おうとして三人から同時にツッコミを受けて沈黙する。
梢はともかく風香と玲奈がこうも慌てて裕也にツッコミを入れるとは非常に珍しい。
その光景を見て深く追求しない方がいいと察した唯人は話を閉めに入る。
「ま、まあ料理なんて理科の実験と一緒で決められた分量を決められたとおりに調理すればそうそう失敗しないからドンドン経験積んでいけばおのずと上達していくさ」
そう言った所で昼休み終了のチャイムが鳴る。
このチャイムは次の授業の予鈴もかねているのであと五分で次の授業が始まる。
四人は、風香はマイ箸、玲奈は唯人の弁当、梢は自分の弁当、そして唯人は三人にツッコまれてダウンした裕也をそれぞれ片付けると授業の準備を始める。
そこで風香が今思い出したように連絡事項を伝えてくる。
「あ~しまったわすれてた~、次の授業で使うプリントを準備室まで取りに来るように言われてたんだった~」
…どう聞いても棒読みである。
次の授業は灯先生――担任になったら名前で呼ばれるのが夢だったとか――の授業なのだが、彼女の授業はあまり教科書を使わず先生が作った独自のプリントを用いて行われる。
そしてこのプリントが一回の授業で大量に使われるため一人で準備室から運ぶとなると往復必至なのである。
だがこの時間になってしまうと何往復もしている余裕はないため必然的に
「…はぁ。手伝えばいいんだろ?」
となる。
幸い玲奈と梢も手伝いに名乗りを上げてくれたため――さすがに他クラスの裕也は自分のクラスへと戻っていった――一人ひとりの負担はたいした事にはならなそうであるが時間自体はほとんど余裕がないため急いで準備室へと向かう。
「灯せんせ~、お待たせ~」
そう声を掛けつつガラリと準備室の扉を開ける風香。
彼女の開けた扉は何の変哲もないスライド式の扉なのだが…。
―――もう一つ―――
全く異質な扉が開いた事に気付いたのは唯人だけであった。
唯人君には申し訳ありませんが日常編はこれにて終了です。
予想以上に長くなったと思うのですが削った箇所も結構あるという経験不足が露呈する結果に…。
今後話が進んで区切りがついたら章分けしようかと思いますがどうでしょうか?
また、登場人物紹介は話の中に(ねじ込むように)入れてありますが別途あったほうがいいのでしょうか?
上記を含めご意見、ご要望、ご感想などなどありましたらどしどしお寄せ下さい。




