第53話 女の命
名前を付けてくれと言われて頭を悩ませる唯人だったが、実はすでに光明は見えていた。
唯人は
(2人ともリュートの名前については肯定的だったから割とそのままの名前をつければいいのでは?)
と考えていた。
そうなってくると彼女の特徴をうまく名前に落とし込んだものがいいように思えてくる。
いくつか挙げると
・エルフ
・白髪、色白な肌から白のイメージ。
・金色の瞳。
・やや男性寄りな口調や佇まい。
・長身でスレンダー。
・呪いから解き放たれた自由なイメージ。
・戦闘では物理より魔法寄り。
他にもあるがこれ以上は自分では纏めきれないと思いこのあたりから考えようと見切りをつける。
(エルフで、白…ホワイト、ブラン、金…ゴールド、はちょっと違うな…ドレ、オール、アウルム、でも瞳が金色なだけで名前に関するのも違うか?やはりパッと見た時の印象は白だからそこから考えるか…。黒から白…ブラン・ド・ノワール…短くしてブラノワ、も語感がいまいちか…)
頭を悩ませる唯人だったがそのそばでは女子2人が会話に花を咲かせていた。
「それにしても綺麗な髪ですね~。最初は真っ黒でしたけど今は真っ白で、でも白髪ってわけじゃなくて純白で、でも透き通ってるみたいで!」
「あ、ありがとう。私もまたこの髪に戻るとは思ってなかったから…」
興奮した様子で話すリュートに押されながらも感謝を述べ、自らの髪を手に取って見つめる。
『呪いのようなもの』が解けたことで黒髪から白髪へと変わると同時に傷んでぼさぼさになった髪質も似ぬ糸のように滑らかに整い、手に取った髪もさらさらと抵抗なく手から滑り落ちていく。
「伸ばし放題になってしまっていたからあとで切らないとな」
先程自らの魔法で多少は短くなったものの座ると地面に付くほどにはまだ長い。
「そうですね~。ちょっともったいない気もしますけど…」
惜しむようにリュートは言うが明るい調子で髪の持ち主は答える。
「確かにな。だが我々は長命種だ。髪型を変える機会などこれから幾らでもあるさ」
先程開かれた未来への期待をそう口にしてリュートへと笑いかける。
だがリュートはそれに難色を示す。
「ん~~、それはそうなんですけど~」
「何か問題でもあるのか?」
「だってご主人様は一応人族の範疇にギリギリ入るかもしれない?可能性があるじゃないですか~」
彼女は唯人が異世界人であるとはいえこの世界で言えば純人族であることを今思い出し驚きの声をあげる。
「そ、そうか、そうだったな、あまりにも常識外れなので忘れていた。…だがそれと髪型に何の関係があるんだ?」
(こいつら…人が考え事をしているときに好き勝手言いやがって…)
その会話は名付けという大仕事を行っている唯人の耳にもしっかりと届いていたのであるが。
そんなことは気にしていない彼女とリュートであったが、彼女はリュートの言う髪型の話と唯人のことが結びつかず疑問を口にする。
「え~、だってせっかくならいろんな髪型をご主人様に見せたいじゃないですか~」
リュートは自らの髪を弄りながら彼女へそう告げる。
「そ、そうなのか?」
「そうですよ~。私の髪はこんな感じでショートだからあんまりできることないですし~。あ、でもご主人様と出会ったころから少し伸びたんで編み込みとかアレンジしてみようかな~って思ったりしてて~」
いまいちピンとこない様子の彼女をよそにリュートはウキウキとこれからの展望を語る。
「でも~、純人族って100年生きればいい方でしょう?それにそもそもですけどご主人様は元の世界に帰っちゃうんだから見せられるのもそんなに長くないんですよね~」
「そうか…そういう目的で行動しているんだったな。…で?それと髪型を変えることに何の関係があるんだ?」
いまだ理由がわからず再び同じ質問をしてしまう。
「せっかくだしいろんなカワイイ姿を見てもらいたいじゃないですか~言わせないでくださいよ~」
そう言ってテレテレとしているリュートを見つめながら彼女は
「…わからん」
と素直な感想を口にするにとどまった。
「まぁまぁ、そのうちわかりますよ~。で、この髪どうします?」
「どう、と言われても…そうだな邪魔になりそうだしこのへんでズバッと――」
ようやくわかりやすい質問が来たので答えながら首の辺りで髪をひとまとめにしてカットするジェスチャーをすると――
「ダメ~~っ!」
――大声を出したリュートに腕を掴まれ制止された。
「えっ!?」
突然のことに驚いている彼女にリュートは捲し立てる。
「こんな綺麗な髪をそんな雑に切ったらだめです!とはいえ長すぎるのも事実なんでとりあえず腰のあたりでカットして後でいろいろ考えましょう!」
「いろいろって…」
「いろいろはいろいろです!髪型もですけどその髪色なら染めてみたりしてもきれいに染まりそうじゃないです?あっ、もちろん嫌じゃなかったらですけど」
(嫌じゃなかったら、か)
リュートの言葉を反芻しながら彼女は思う。
(この昔に戻ったこの髪色に思い入れはあるが逆に言えば人生の大半を過ごしたあの漆黒の髪にも思い入れはある…)
「そうだな…今は白から黒になって、久しぶりに白に戻ったわけだからしばらくは白のままでいいかな。実はあの黒い髪も嫌いってわけじゃなかったんだ。何もせずに過ごすようになってからはあの黒を見つめていると心が落ち着いたものだ。あれがなければ心が持たなかっただろう」
「そうなんですね!ではいつか黒髪にしてみましょう!髪の状態も良くなってますし違った良さがありそうです!楽しみですね!」
「…そうだな。どちらも私の色だ」
そうして話がまとまったところで唯人から声がかかる。
「待たせたな。今の話を聞いて決めた名前があるから聞いてくれるか?」
唯人は珍しく気恥ずかしそうな様相をわずかに見せながらそう告げると、
「…ああ、楽しみだ」
彼女はそう言って微笑みを返した。




