第42話 迷いの森 ~結界型~ 3
タダヒトの背が見えなくなったところで我に返ったリュウトは慌てて立ち上がると元の姿に戻るための準備を始める。
立ち上がったリュウトはおもむろに装備していたレザーアーマーを脱ぎ始める。
いや、レザーアーマーだけではない。その下に来ているシャツやズボン、下着まで脱ぎ、一糸まとわぬ姿となった。
その姿はロダンの彫刻のように均整がとれ、筋肉は盛り上がりすぎず余計な脂肪もない美しいものであったが、リュートが服を脱ぎ捨てたのはその美しさを見せびらかせたいナルシストでもなければ露出して興奮を得る変態だからでもない。
これから戻るべき元の姿の一つである龍人形態は、少女の姿であるためサイズとしては服を着たまま戻ったとしても服がぶかぶかになるだけでさほど問題はないのであるが、龍人であるが故の翼や尻尾が邪魔になってしまうのだった。
無論そのまま戻ったとしても強靭な龍人の翼や尻尾は何の影響も受けないがただの布や革である装備品は紙を引き裂く様にたやすく破壊されてしまう。
世の中には着用者の体格、種族に合わせてサイズの変わる魔法の装備も存在するが『駆け出しの冒険者の衣装』として身に着けているこの装備はそんな上等なものではない。
物品としては何の価値もないそれらだが『主人からもらった品』を自らの手で破壊するなど唯人が許しても自分が許せない。
そう言ったわけでリュウトは来ていたものをすべて脱ぎ地面に正座すると一つひとつ丁寧にたたむ。それが終わったところでようやく元の姿に戻るのだった。
リュウトを置いて先に進んでからしばらくたったころ、唯人は背後からリュウト、いや、リュートが追いかけてくる気配が近づくのを感じ振り返る。
「ずいぶん遅かっ・・・た、な?」
振り返った唯人の目に飛び込んできたのは一糸まとわぬ姿で駆け寄るリュートの姿だった。
リュートの装備を両手で胸に抱きしめているため形の整った美しい双丘は見ることはできないが、もっと大事な部分はフリーの状態であり普通の男であれば妙な背徳感を感じる光景であると言え、選択肢は目を逸らすか凝視するかの2択であろう。
しかしながら、普通の男ではない者の反応はというと、
呆れたような顔でリュートを見つめ
「・・・なんで全裸なんだ?」
と、ある意味至極まっとうな言葉を告げるにとどまった。
「え?この姿だとサイズが合わないので」
「それでも着れないってことはないだろう?」
「いえ、この姿だとこれがあるので・・・」
そう言いながら背中の翼と尻尾を揺らすリュート。
「穴をあければいいだろ・・・」
「ご主人様からいただいたものに穴をあけるなんてできません!」
「・・・ああもう、分かったからそれをこっちによこせ」
この問答がすっかり面倒になったタダヒト、いや、唯人はリュートがしっかりと抱きしめている装備を掠め取ると同時に『匠』に手を突っ込みリュート用の装備を取り出し投げ渡す。
リュートは奪われた装備に追いすがるように手を伸ばしていたため顔面で投げ渡された装備を受けてしまう。
「わっぷ!?」
「前渡した服と同じくリュートでも着られるようにした装備だ。それを着たらさっさと行くぞ」
「あ、ありがとうございます。ってこれものすごい力を感じるんですけど・・・」
唯人が渡したのは騎士が身につけるような全身鎧であった。余計な装飾はなく鈍く光を反射し武骨な印象を放っているがリュートの言うように見た目からは想像もできないような力が感じられた。――他にもアンダーシャツや下着もきっちり渡しているがそれらも鎧同様であった――
「リュートは俺やリュウトと違って人前に出ることはないだろうからそこそこの装備を用意した。とはいえそれ以上強力なものにしてしまうと気付く奴は気付くだろうしこの気配みたいに変な影響が出る可能性があるから一旦はそれで我慢してくれ」
「これでそこそこって・・・」
「いいから早く着ろ」
装備を手にあわあわしているリュートを促すと唯人は再び先に進んでいくのだった。
「ま、待ってください~」
それを見て慌てて下着から身に着け始めるリュートであったがその瞬間、
「えっ?」
身につけた下着がリュートに完璧にフィットしたのだ。
もちろん魔法の装備であればサイズがフィットするのは珍しいことではないのだがこの下着はそんな生易しいレベルではなかった。
身につけているはずなのに身につけていないかのように何の抵抗もなく、まるで生まれる前からそこにあったかのような一体感。さらには身につけるまでは何の装飾もない純白の下着だったのだが身につけるとデザインはリュートの体にある鱗に沿うように変化し色もそれに倣って赤く染まっていく。それにより着心地だけでなく外観までもがまさに『一体』といえる境地に達していた。
続けてアンダーシャツや鎧も装備するがこれらも同様に完璧にフィットし、下着と同様にリュートの鱗とマッチするカラーリングに変色する。
特に鎧は先ほどまでの武骨でゴツゴツとした印象は一切なくなり全身鎧であるにもかかわらず体のラインが出るほどでシルエットだけ見れば先ほどまでの全裸の状態とさほど変わらず、所々に現れた揺らめく炎のようなデザインが辛うじて何かを身につけていることをうかがわせる程度だ。
身につけているリュート本人も全身鎧を身につけているにもかかわらずまるで重さも感じず、肌に張り付くようなタイトな外観をしているのに圧迫感も蒸れるような感覚もない。さらには鎧でおおわれているはずの肌に空気の流れほどの微細な感触まで伝わってくる。そうまるで・・・
「これ、軽くてフィットしててすごいんですけど・・・」
顔を赤らめながらリュートが言いよどむ。
「どうした?何か問題があったのか?」
「・・・・・・・・・です」
「ん?」
「目をつぶると裸でいるみたいです・・・」
そう言って恥ずかし気に身を持り大切た部分を隠そうとする――もちろん鎧で隠れているのであるが――。
「・・・さっきまで堂々と全裸でいた奴のセリフとは思えんな」
「さっきのは裸だったからいいんです!けど服を着ているはずなのに無防備な感じがするのが恥ずかしいんです!」
「そ、そうか」
リュートの剣幕に押されとりあえず納得することにした唯人。
(うーん。全裸より靴下だけ履いているほうが恥ずかしいとかそういう感覚なんだろうか)
そんなこと益体もないことを考えながらいまだ恥ずかしそうにしているリュートとともに森の奥へと進んでいくのだった。
読んでいただきありがとうございます。
次の次くらいには新キャラ登場させられたらいいな~と考えていますがそれがいつになるのやら・・・。




