another side 2 13.5話 クレアとシェイラ
主に命じられシェイラを呼びに部屋へ戻ったクレアだったがソファにはシェイラの姿はなかった。
「しまった!」
唯人に謀られたと思い主の元へ戻るべく振り返るとそこに黒衣を身にまとう少女の姿があった。
「っ!!…シェイラ。あまり脅かさないでくれ」
シェイラと呼ばれた少女は全身黒一色の動きやすさを最大限特化したぴったりとした衣装に身を包み、最初からそこにいたかのように、しかしそこに存在しないかのような希薄な気配でそこに立っていた。
「……別に脅かそうとしたわけじゃない」
表情も鼻と口を覆う布によって杳として知れず、唯一露出してるといっていい大きな三白眼からも感情を読み取る事はできない。
「そ、そうか。だが大丈夫なのか?あの男が黙らせたなどと言ったから私はてっきりお前が殺されたのかと思ってしまったのだが…」
「ん。聞いてた」
そう短く返すシェイラ。
「な、ななんだとっ!?」
それを知っていると言う事はクレアが早とちりして空回りした事も知られている、そして何よりオルトリーゼに諌められた事も知られていると言う事である。
「あの人は私の命を奪うどころか怪我すらさせないように気を遣いながら私を昏倒させた。おかげで割りとすぐ目が覚めたからあの人が会話に加わったくらいから全部聞いてた」
「な、ならば何故すぐ出てこなかったのだ!?曲者が陛下の前に現れたというのに!?」
「あの人の目的が分からない以上闇雲に動くのは危険。クレアも一年前にそれを思い知ったはず」
「っ!」
一年前とはもちろんマリシスに襲撃されたときの事である。
その時彼女達はマリシスの陽動に次ぐ陽動に完全に振り回され、疲弊し、最後までオルトリーゼに付き添う事ができなかったのだ。
これはけっして彼女達の能力が低かったというわけではない。通常の戦闘でならば彼女達がこうも振り回される事はなかっただろう。
後に聞いたオルトリーゼの推測――と言うよりも確信に近いもの――では、奴らはただ楽しんでいただけだという。
この国を滅ぼそうとしたわけでも王族を殺そうとした訳でもなくただ、あの場にいた者達を弄ぶという戯れのためにわざわざ来たのだ。
故に彼女達が引っかかった陽動は別に何の目的もなく、強いて言うなら陽動に掛かり右往左往する様を笑うためのものに過ぎなかったため、敵の目的が分からず手玉に取られたと言うわけだ。
「もちろん陛下に危害を加えるつもりならすぐに出て行くつもりだった」
「そうか。まあ確かに怪我も無い様で何よりだが、お前ほどの者がどうやって倒されたのだ?」
クレアの言うとおりシェイラには外傷は見られない、と言いたい所だが露出している部分は目元だけなのでパッと見に怪我の有無は分からない。
服が破れていないことから切り傷などはないと分かるくらいなのだが、クレアはシェイラの動作や口調などから傷や苦痛がないと判断したのだろう。
「押し倒されて両手両足を封じられてさすがに一人では無理だと判断したからクレアを呼ぼうとしたら口をふさがれて、それに動揺しているうちに昏倒させられた」
つらつらと当時の状況を述べるシェイラ。
「…ん?両手両足を封じられているのに口をふさがれたのか?」
ふと疑問に思った事を尋ねるクレア。
片手で両腕を封じる事もできなくは無いがシェイラの技量からしてそれは考えにくい。
「…この布の上からだからノーカウント」
自身の顔を覆う布を指差しながら答えるシェイラ。
「…は?」
いまいちシェイラの言う事が理解できていない様子のクレア。
「…だから――」
そう言った瞬間シェイラがクレアの視界からフッと消える。
「なっ!」
驚いているクレアに地を這うように肉薄したシェイラが足払いを決める。
完全に不意を付いたためあっさりと背中から地面にたたきつけられるクレア。
そして次の瞬間には両手両足を押さえつけた状態でクレアを地面に押さえ込んでいた。
「…と、こんな感じであっさりと押さえ込まれた」
「…実演どうも」
実際は体重差があるため本気でクレアが抵抗すれば脱出は不可能ではないが足の拘束を放棄し上半身に集中して拘束すれば抜けることは難しいと感じられた。
「だがこれでは両手を使ってしまっているし口をふさぐ事はできないだろう?魔法でも使ったのか?」
「…違う。こうした」
「なっ!ちょ!待て!やめrむぐーーーー!!!」
そしてクレアがシェイラのとんでもない行動に動揺した隙に鳩尾に軽く拳を当てる。
「…と、こんな感じ」
急所を突かれた事で若干我に返ったクレアだが、
「な、なんて破廉恥な!」
とまだ動揺が残っているようだ。
「大丈夫。布越しだからノーカウント」
「そういう問題じゃないっ!」
シェイラがフォローを入れるがフォローになっていない。
しかも余計なセリフを続けてクレアを追い詰める。
「あ、でもあの人はこの布にしたわけだから関せt「やめろーーーっ!」」
衝撃の事実に思わず大声を出し飛び退く様に立ち上がるとハンカチで唇をごしごしとこするクレア。
「そんなに嫌がられるとちょっとへこむ」
相変わらずその目から感情は窺い知れないがなんとなく落ち込んだような感じが伝わってくるような気がしなくもない。
「あ、いや、シェイラのことが嫌だったとかそういうことではなくだな…。っ!そうだ!何でまだそんなもの着けてるんだ!?早く取れ!私が焼却処分してやる!」
本当に落ち込んだような気もするシェイラの様子にあわてて露骨に話題をそらす。
「別に問題ない。それになんか良い匂いだった」
「そ、そうか、それなら問題な…い訳あるか~ッ!」
「クレア、うるさい」
「ぐっ!」
音量がいちいち大きいことに苦情を入れつつ、未だ納得していない様子のクレアを無視して話を進める。
「ともかく今回の事で私もクレアも『そういう』経験が足りないと分かった。分かったからには対策すべき」
「わ、わわ私には、そ、そんなもの、ふ、不要だ!」
何を想像したのか自身の髪の色に迫るほど顔を赤く染めどもるクレア。
「…やはりこの程度で動揺しているようでは話にならない」
「ぐぬぬ…」
シェイラに指摘され悔しそうに唸るクレア。
自分達に不足している点が分かったとはいえここで議論していても埒が明かないので本来の目的を思い出させる。
「けどいいの?」
「何がだ!」
先程からシェイラに振り回され続けたせいか投げやりな返事をするクレア。
「クレアは私を呼びに来たんでしょ?」
「…ああ、そうだった。陛下をお待たせするなど…一生の不覚っ!」
シェイラに指摘されようやく自分が何をしにここへ来たのか思い出したようだ。
「それに今、陛下とあの人、二人きり」
「はっ!しまった!姫様っ!」
再び指摘され自らの主とあの不審な男が二人きりになっている事に気づき大慌てでテラスへ戻っていく。
そんなクレアの背中を見つめながら
「相変わらずクレアは面白い。…けど」
「私が死んだと思って怒ってくれたのは嬉しかった、かな?」
そう小さく零したシェイラの目は僅かに笑っているように見えないこともなかった。
another side 二話目です。
十四話の冒頭にしようかと思っていましたが分けました。
シェイラは無口キャラにしようと思ったら意外とセリフが多くなり、無感情キャラにしようとしたら意外と感情が漏れてしまい今の微感情?キャラとなりました。
クレアは更にアホの子化が進行してますね…。




