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転生した剣聖は魔法を極めたい  作者: 空想物語


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第10話 試験五

(うーん……まずいな)


俺は少女と剣を交えながら、内心でそう呟いていた。


キィンッ!


金属同士がぶつかり合い、甲高い音が森に響く。


俺が一歩踏み込んで刀を振るうと、少女は剣を巧みに動かして受け流す。


逆に少女が攻めてくると、俺は刀でその一撃を受け止め、わずかに角度を変えて軌道を逸らした。


互いに一歩も譲らない攻防。


しかし、状況は決して俺に有利とは言えなかった。


(距離を詰めれば、剣で上手くいなされる。かといって距離を取れば、今度は炎が飛んでくる……)


少女の剣が横から迫る。


俺は身体をひねって避け、そのまま刀を振り上げた。


ガキィンッ!


少女は俺の攻撃を正面から受け止める。


そのまま剣を押し返すと、今度は炎をまとった斬撃を放ってきた。


「っ!」


俺は後ろへ跳び、炎の軌道から逃れる。


ゴォォッ!


炎が地面を焼き、周囲の草木を揺らした。


(本格的にまずいぞ……)


幸い、今のところ大きな傷はない。


体力にもまだ余裕がある。


だが、決定打がなかった。


少女の剣術はかなりのものだ。こちらの動きをよく見ていて、簡単には隙を見せない。


さらに、魔法まで使ってくる。


普通に戦い続ければ、いずれこちらが不利になる可能性もある。


(かといって、これ以上本気を出したらバレちゃうしな……)


俺は刀を構え直しながら、少女の様子を観察した。


少女の呼吸は少しずつ荒くなっていた。


額には汗が浮かび、剣を握る手にもわずかな疲労が見える。


それでも、紅い瞳にはまだ戦意が宿っていた。


(……何かないか)


考えろ。


今の実力を大きく見せずに、この状況を切り抜ける方法。


前世で身につけた技術を思い返す。


剣術だけではない。


(……バレないことを祈って使うか)


俺は静かに息を吸った。


そして、意識を身体の内側へと向ける。


――気術。


気術とは、呼吸を通じて体内に『気』を蓄え、それを全身へと巡らせることで、人知を超えた力を引き出す技術だ。


魔法とは違い、魔力を使う必要はない。


呼吸を整え、気を練り、身体の隅々まで行き渡らせる。


その感覚は、前世で何度も繰り返してきたものだった。


(久しぶりだな……)


気を巡らせると、身体の感覚が研ぎ澄まされていく。


周囲の音が鮮明になり、少女の呼吸や足音まではっきりと聞こえる。


俺は刀を握り直した。


「まだ終わらないわよ!」


少女が再び踏み込んでくる。


剣に炎が集まり、刀身を赤く染めていく。


「はああっ!」


鋭い横薙ぎ。


俺は刀で受け流し、少女の懐へ踏み込もうとする。


だが、少女はすぐに距離を取り、返す刃でこちらを牽制した。


(やっぱり簡単にはいかないか)


それでも、先ほどとは違う。


少女の動きが、少しずつ見えるようになっていた。


呼吸の乱れ。


踏み込む瞬間の重心の移動。


剣を振るう直前のわずかな癖。


今まで見落としていたものが、次々と目に入ってくる。


(……そろそろ限界か)


少女は肩で息をしていた。


それでも剣を下ろそうとはしない。


(ここだ)


俺は一歩、前へ出た。


少女が反応する。


「まだ来るの!?」


少女は剣を構え、俺の動きを待った。


俺は刀を握る手に力を込める。


そして――。


横へ、一閃。


ヒュンッ!


刀が空気を切り裂いた。


その瞬間、剣の軌道に沿って、淡い光を帯びた三日月形の斬撃が飛び出した。


「――っ!?」


少女の目が大きく見開かれる。


避けようと身体を動かすが、反応がわずかに遅れた。


斬撃は少女の身体を捉えた。


ドォォンッ!!


衝撃によって少女の身体が後方へ吹き飛ぶ。


そのまま背後にあった大木へとぶつかり、木の幹が大きく揺れた。


「ぐっ……!」


少女は地面に膝をついた。


剣を握る手が震えている。


立ち上がろうとするが、身体に力が入らないようだった。


どうやら、もう戦うことは難しいらしい。


俺は刀を下ろし、少女の様子を確認した。


(……よし。なんとか終わったか)


気を失ってはいないようだ。


意識もはっきりしている。


ただ、先ほどまでの勢いは完全に失われていた。


「……今のは、何?」


少女は呆然とした表情で俺を見上げた。


その声には、驚きと困惑が混じっていた。


「君は一体何をしたんだ?」


「うーん……」


俺は少し考え込んだ。


正直に説明するわけにもいかない。


そもそも、この世界の人間に気術を説明しても理解できるか分からない。


「えーと……斬撃、みたいなものじゃない?」


「斬撃……?」


少女は納得できないといった表情を浮かべた。


まあ、無理もない。


ただ剣を振っただけで、離れた相手に攻撃が届く。


普通に考えれば、そんなことはあり得ないのだから。


(……ちょっとやりすぎたかな)


俺は内心で苦笑した。


⸻


――ルーナ視点――


(……今、何が起こったの?)


私は兄さんの姿を見つめながら、呆然としていた。


さっきまでの戦いは、本当にすごかった。


互いに一歩も引かない剣と剣の攻防。


少女の剣は重く、炎の魔法も強力だった。


それに対して兄さんは、刀一本でその攻撃を受け流し、隙を見つけて反撃していた。


どちらも簡単には隙を見せない。


私は一瞬たりとも目を離せなかった。


(兄さん、やっぱりすごい……)


そう思っていた。


けれど――。


最後の一撃だけは、理解できなかった。


兄さんが刀を横に振った。


それだけだった。


なのに、刀の軌道に沿って三日月のような何かが飛んでいった。


そして、それが少女に直撃した瞬間、少女の身体は後方へ吹き飛ばされた。


(……え?)


何が起きたの?


魔法ではない。


少なくとも、私には魔力が動いたようには感じられなかった。


それなのに、あんな攻撃ができるなんて。


(あれも剣術なの……?)


私は思わず兄さんの刀を見つめた。


今まで見たことのない技だった。


そもそも、剣を振っただけで遠くの相手に攻撃を届かせるなんて、聞いたこともない。


「君は一体何をしたんだ?」


少女が不思議そうに尋ねる。


「うーん、えーと……斬撃、みたいなものじゃない?」


兄さんは少し困ったように答えた。


(私も気になるんだけど……)


思わず心の中で呟いた。


兄さんは何かを隠している。


それは以前から分かっていた。


だけど、今回の戦いで改めて思い知らされた。


私が知っている兄さんは、ほんの一部分でしかない。


剣術だけじゃない。


あの不思議な攻撃も、さっきの戦い方も。


兄さんには、まだ私の知らない力がある。


(……もっと知りたいな)


私は兄さんの背中を見つめた。


だけど、無理に聞き出すつもりはない。


兄さんが自分から話してくれるまで待とう。


そう決めている。


それでも、今回ばかりは気になって仕方がなかった。


(兄さん、一体どれだけ強いの……?)


森には再び静けさが戻っていた。


けれど、私の胸の中には、先ほどの一撃がいつまでも残っていた。


――学園入学試験は、まだ続いている。

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