036●アンドロイドに魂は?
「おはようございます、アキラさん!」
「ああ、おはよう、ココア。」
部屋に入ると、元気なココアの声。しかし、俺は、どうも昨日の件が気になって仕方がない。何事もなかったようにお茶を出そうとしているココアを見て、ともかくは、安堵するが。
「いいって、お茶ぐらい自分で淹れる。それより、本当になんともないのか?」
「ええ、ありがとうございます。大丈夫ですよ。」
香りのよいお茶の入ったカップを、俺のデスクに置くココア。
ロッカールームからジンが出てくる。なんか、絡みたい気分だ。
「なあ、ジン。全部がトップシークレットならしょうがないんだけどよ、ココアってどうなってんだ?採算度外視のプロトタイプって不死身なのか?」
「アキラさんみたいな不死身、っていうのとは違いますね。」
おっと、エイミーが出勤してくる。
「Good Morning!昨日はお疲れ!」
明るいやつだ。ロッカールームには行かずに、いきなり自分の席に着いて言う。
「で、トップシークレットって、どうなってるの?局長もいないし、ちょこっと教えなさいよ。」
おっ、いいぞ!共同戦線張ろうぜ。
ジンがため息をつく。まあ、そうだろうな。俺たちと守秘義務との板挟みってやつだ。
「上司に諮る、なんて言っちゃだめよ。全権はあなたにあるって、局長、言ってたじゃない。」
「あの人も、時には喋りすぎますよねえ。」
「では、ココアについてお話しする前に、まず、わたしから伺います。魂ってあると思いますか?」
「わたしはあるって思うな。死んだら天国にいくの。」
「敬虔なクリスチャンだな。俺は死んだら、魂も何にもなくなると思う。」
アキラは無神論者なのね。地獄行きかも?
「じゃあ、心としましょう。みなさん心をお持ちですよね。」
「そりゃあ、そうさ。喜怒哀楽、ちゃんとある。」
「わたしも当然、あるよ。それがココアちゃんと、どう関係するの?」
「心はどこに宿っています?」
えっ〜、難しくなってきたね。
「うーん、胸、じゃないな、頭、脳だろ。感情・思考・記憶・認識・認知、は脳だ。」
アキラの答には、ちょっと戸惑いの響きがあるよね。
「では、脳を他人に完全移植することができるとすれば、移植された体に元の心は宿るのでしょうか?」
「そりゃあ・・・そうなるだろう。脳が移動したってことだからな。まあ、移植体の見かけは違うだろうけどな。中身は同じだ。」
「さらに、それでは、脳の全ての記憶を、個性なんかも含めて、他の脳にコピーできたとすれば、そのコピー脳を移植された人の心はオリジナルと変わらないことになりますか。」
何だか哲学的、かつ生命科学的、というか・・・っていうことは・・・。
「それは・・・そうなるんだろうなあ。しかし、見かけは違っても、同じ心をもつ人間が同時に2人存在することになるよな。うーん、なるほど。・・・つまり、ココアはあの瞬間までの、全ての記憶がバックアップされていたってことなのか?」
「ご明察。どのようにして、とか、どこに保存されているのか、という質問は受け付けませんよ。」
そうなのね。・・・なんかモヤモヤするのよね。
「それって、今のココアちゃんは溶けたココアちゃんと同じだけど、実は違うってことなの?」
「外から見ている私たちには、完璧に同一機体、同一‘人物’です。ただ、このことを人間にあてはめて考えると、やはり魂の問題になりますね。」
確かにそうだ。あの時のココアちゃんは「死んだ」ことになるの?まったく同じココアちゃんの記憶を引き継いだ新しいココアちゃんが、全く同型のボディで現れたってことなのね。
俺は考え込んでしまう。そもそもアンドロイドに心はあるのか。いや、ココアにはあるんじゃないか。だが、あるとしても魂はどうだ?いやいや、俺の心や魂って、本当にあるのか?脳にある?もし、記憶をコピーできたとして、その時に2人の俺は互いを見てどう感じるのか。意識は互いに接続しているのかも?わからん。
「と、いうことで、お伝えできるのはここまでです。あとは、よーく、ご自身で考えてみてくださいね。この話、おふたりの‘心’に触れましたか?」
それは英語では‘感動したか’って意味になるよね・・・。感動、ではないな。戸惑いのほうが大きい。なんか、答のない宿題をもらったような気分ね。
あっ、ありがとう。お茶入れてくれたのね。ココアちゃんは、今の会話、どんな気持ちで聞いていたんだろう?
ー送受信リンクの複数化、よくやってくれた。感謝します。
ーありがとうございます。しかし、シンクロ率は依然、不安定です。完全同期することもあるのですが。
ー次の段階に進もう。ココアの世界線の特定だ。どこにいるのか、もっと情報を集めたい。モカとリノにも支援要請をかけてください。
ー承知いたしました。




