017●ロボット三原則とプロトタイプ
「ジン、ちょっと今からいいか?」
「いいですよ。何かありましたか?」
「仕事終わりに一杯、やりたいんだ。付き合えよ。」
「ああ、だったらウチにきませんか?わたしは外では飲まないことにしているんで。」
「酒乱の気でもあるのかよ?」
「おおいにありますね」ジンは笑って答える。うそつけ!食えない野郎だ。
「でもよ、自宅って、お互いに言わないようになってないか?」
「ああ、それは本人の同意がない場合ですよね。近いんで来てください。」
ジンのアパートに着く。へっー、でかいな。アパートというよりマンションだな。セキュリティは指紋か、血管認証のどっちかだな。エレベーターで12階。部屋のドアも認証式か。入ってみると・・・結構広いな。
「やけに豪華じゃないか。」
「社宅ですからね。わたしの持ち家じゃあ、ありません。」
エンジェラム・ラボ・ジャパンは金持ちだな。
洒落たリビングのソファに腰を下ろす。何か落ち着かないな。俺のアパートとは、えらい違いだ。
「新月期ですから、酔えますね。何がいいですか?」
「バーボンはあるか?」
「もちろん。」
目の前に新品のボトルと氷、ミネラルウォーター、炭酸水、高そうなグラス、ちょいとしたつまみまで並ぶ。
「あんたはワインか?」
「アキラさんはハード・ボイルドだから、バーボンでしょう?わたしはハーフ・ボイルドですから、ワインで十分です。ロックですか、それとも炭酸で割ります?」
「ストレートがいい。自分でやるよ。」
「で、ただ飲むだけじゃないんでしょう?」直截に聞くのが、ジンらしい。
「そうだ。ココアのことだ。」
「内部機密は答えられませんが、それでよろしければ。」
「俺は機械的なことは苦手だ。」
「アキラさんは、未だにマニュアルのガソリン車ですしね。」
「そのとおり。けどな、それでもココアのすごさはわかる。人間にしか見えん。ところが、情報収集、現場検証、戦闘の能力はずば抜けている。あれは何だ?」
「そうですね。プロトタイプですから、採算は、完全に度外視でしたね。」
「でもよ、アンドロイドということは、ロボット三原則を組み込んでるんだろ。」
「インプットされています。」
「ところがだ、こないだの‘突入’ではヒトを攻撃した。薬物で理性をなくしているとはいえ、あれはヒトだった。」
「鋭いですね。三原則の順序がちがっているんですよ。」
「どうちがうんだ。」
「第1原則が第2第3原則より下位にあります。」
ということは、主人の命令を守る、それに反しない限り自分を守る、それらに反しない限り人間に危害を加えない、ということか。
「それってあぶなくないのか?」
「ココアを見ていて、あぶないと感じますか。」
うーん、俺は考え込んでしまう。ココアの、人格といっていいのか、どうかわからんが危険というより、やさしさとか思いやり、無邪気さを感じるんだよな。あれ?
「ずるいぞ、ジン。それは俺の主観であって、製造者としての答になってない。」
ジンが苦笑する。
「いや、失礼、そのとおりですね。汎用ヒト型であり、戦闘用に特化されているものではありません。基本的な倫理観や道徳、法令順守については判断できるようになっています。突然、人に襲い掛かることはありません。」
「じゃあよ、もしあんたが俺を攻撃しろ、と言ったらどうなる?」
「いわゆる‘主人’の命令でも、本気かどうかを判断します。それに、一般的に法令に反することには従いませんね。」
「俺を襲うことは、あんたが例え本気でも、倫理観や道徳、法令に反するということか。」
「そのとおり。それに、ココアはアキラさんを、仲間だと認識していますしね。」
ということは・・・。
「もし、戦場にココアがいたとして、‘敵’が攻めてきたらココアは兵士になるんじゃないのか。」
「その仮定では、そうなります。ただし、前回の‘突入’のように、‘命は奪わない’ことを優先すると思いますが。」
「初めて会った時の約束は、おぼえているんだろうな。」
「もちろん。だから、ココアの技術をそのまま民生用に、もちろん軍事用に公開することはありません。あくまでもプロトタイプですから。」
「制御できるんだろうな。」
「わたしの存在意義がそこにあります。それにもっと高度なこともしています。」
「多分それって・・・」
「はい、内部機密です。すみませんね。」
やっぱりな。ジンが悲しそうにほほ笑む。なぜだろう。




