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014●ボールを飛ばす

「ということで、何とぞお力添えを!」

必死に訴える。ここまで丸1日もかかった。すぐ帰るにも同じ時間が必要だ。2日で戦局がどう変わるか、まったくわからない。

「兵数では向こうが有利ですね。」ラベンダー伯が呟くように言う。

「その通りです。ラベリアの歩兵は侮れません。」

「勝機があるとすれば・・・。騎兵の数でこちらが勝っていることですね。」

「そうなのですが。まともにぶつかって、その優位性が発揮できるかどうか。」

伯の不在につけこむように、敵は準備をしてきたのだろう。すぐに戻っていただかなければ。

「しかし、わたしがここを離れることは難しいですね。ラベリアの軍船がこちらにむかっている、という知らせがあります。もし、相手に上陸されれば、二面作戦になります。」

言葉に詰まる。

ラベンダー伯爵領は短期間に目覚ましく整備された。街道も同様だ。社会的基盤の充実により、迅速な移動がだれにでも可能になった。馬で3日かかった距離を1日で走破できたことは、この身で実体感したばかりだ。

従って、もし、敵に上陸を許せば、すなわちそれは、背後を突かれることになる。


「上陸してくる可能性は低いですが、ラベリアはわたしをこの場に釘付けにし、陸戦で対峙することを避ける戦略を立てましたね。ここを拝領し、移住したこともよく調べたのでしょう。」

体が震える。全身から汗が吹き出す。

「策はあります。ともかくお飲みください。」

伯の言葉にやっと自分の喉がカラカラであることに気づく。傍らのグラスをとり、一口飲む。

「おっー・・・。」思わず声が出てしまう。爽やかな甘酸っぱさ、なんだろう、森の香りが口から鼻に抜ける。

「こちらで栽培した作物で作りました。結構、よい出来だと思っています。」

伯の穏やかな口調と、おそらく少しアルコール分が入っているのだろう、心も体もやや楽になる。

「それで策とおっしゃいますと。」

伯が地図をひろげて、指で示される。

「進軍の状況から考えて、ラベリアはここを戦場としたいのでしょう。雌雄を決するのはこの場所で、となります。」

「あっ、しかし、このカンナ平原では、敵の得意な、真正面からの会戦になるのではありませんか。」

「そのとおり。だからこそ、なのです。」


昨夜は遅くまでかかった。それなのに元気だ。食事がすばらしかったためだけではない。あの策ならば、あるいはうまくいくのではないか。早々に挨拶を済ませ、馬に乗る。急がねば、王都へ。前線へ。ウィル様の元へ。


ーマイロードは出陣なされないのだな。

ー我らだけで、ここの防備が十分だとは思うのだが。

ー君たち3人とわたしで、ここは万全だ。だが、いつもあのお方ご自身がこの国を救うというのは、結局は王家にとっても、望ましいことではないからな。

ーしかし、あの戦術、使いこなせるでしょうか。

ーそれも任せてみるしかあるまい。もともと、あの天才が歴史に残した傑作だ。完璧な再現はむずかしいかもしれぬ。彼のいた世界線はここではなかったし、条件も細部は異なる。

ーとなると、アリス様、我らが傍観してよいとも思えませんが。いざというときには、遠隔支援が必要なのではありますまいか。

ーそのとおりだ。ボールを飛ばして状況を追おう。リアルタイムで、見せてもらおうではないか、ボレリアの実力を。


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