22話:コンクリート
日付の変わる約一時間前の更新です。
ギリギリ5/9の内に投稿できました……。
目が覚めたときにはもはや意味不明。なんだって俺はこんなところにいるんだ?
地面………コンクリート、壁………コンクリート、天井………照明で明るすぎて見えないが多分コンクリート。
俺が一番最初に目に入ったのは閉まりきった鋼鉄製の扉。間違いなく開かないだろう。
後ろにも扉、作りがまったく同じなので、目を瞑って回ったら、どちらがどちらなのかが分からなくなりそうだった。
一部の壁はガラス張りになっていが、そこから出れるとは思えなかった。
その一部が結構高い位置にあったからなのだ。登るための壁の窪みもないし、そもそもそこまで登る体力もないと思われる。
そうこう混乱しているうちに思い出す。
特訓………だっけか?
徐々に思い出す。
たしか、そう、やる気がどうとかいってたな。だから特訓?大体こんな部屋で何するんだよ。
放置か。
そう思いコンクリートの地面にあぐらをかいた。と、そのときだった。
≪あー、ああ、あれ? 聞こえてるかなー?れいやん?≫
どこについているのかは分からないがスピーカーから灯花さんらしき人の声が聞こえる。いや、本人か。
「聞こえてますけど………なんですかこれは」
≪えーとね、何度も何度もやる気が足りないってれーちゃんが言うもんだから今回は手荒な方法でれいやんの能力を目覚めさせることにしましたー≫
「いや、ことにしましたー。って何するんですか? こんなただの空間で」
≪戦ってもらうよー。名づけて『ピンチで能力解放! 王道漫画パターン』作戦だよ≫
「あの………名前の方は何とかならないんですか」
≪いやー。そこら辺は私が決めたから無理だよ。というか、よそ見しててもいいのかな?≫
「え──────?」
ガッ、とこめかみに衝撃が走った。
そのままその力の方向に吹き飛ばされる。
「なっ…………が?」
ジンジンと痛む頭を抑えながら俺に攻撃を仕掛けた奴を確認する。
「よぉ、また会ったなー。というか別れてすらいねぇか」
ニィィと口の端を吊り上げて笑うのは、俺が恐怖したその男。
狩暗 颯鬼────。
≪颯鬼んと本気で殺しあってね。ピンチになれば能力ぐらいポッとでるでしょ? あと、れーちゃんが信じ───ちょ、分かったって。うんうん。というわけでがんばってねー。あ、こられーちゃんマイクを…………≫
あちらで何かいざこざがあるらしい。
≪あ、あんたっ! ちゃんとやらなかったら許さないからねっ! 無能馬鹿!≫
ずいぶんと身勝手な発言だった。
やけに突っ放したような言い方だったし。
「あー。さて、始めるか。殺し合いちょい手前を」
パキパキパキ………と嫌な音を立てて狩暗 颯鬼の手が『硬化』いや、変化していく。
黒く、鋭く。生身の人間など一突きで絶命させられそうなくらいの手。
「死にはしないけど………まぁ、運悪くて死ぬかもな」
矛盾した、というかまったく意味の取れない言葉を発し、手を前に突き出し走ってくる。
これは本当に………やばい。
ぐん、とスピードが上がり、一瞬膝が反応しかけたが、まだ。まだ避けるには早い。
まずはどの程度の破壊力かを知る必要がある。
ギリギリまでひきつけて避ける。当然俺が背にしていたコンクリートの壁に手は向かう。
コンクリートの壁がいとも簡単に破壊された。
「マジ………かよ」
「あぁー? 土壁かと思ったぜ」
余裕の口調で腕を抜き、体ごと腕を回し、裏拳を仕掛けてくる。
「うぁっ!」
それもギリギリで、ほとんど運で、奇跡的に回避できた。
ブゥン、と風を切る音がすぐ横を通り過ぎる。
すぐに攻撃が来る。それをしっかりと心に留め、そして本気なんだと理解する。
冗談であればどれほどよかったものか………。
「おいおーい、どうした? 避けてばっかりじゃねぇかよ。反撃はこないのかー?」
反撃?冗談じゃない。俺に死ねというのか。
「ふーん。ま、いいか。いくぜっ!」
先ほどよりも速く迫る。右手で拳を作りながら。これは殴りに来る。
両腕を交差させ、防御を試みるが、ガードもろとも吹き飛ばされる。
何度も地面を転がり、ようやく停止する。
今ので擦り傷がたくさん出来たし、ガードした腕もしびれている。
なんて力だろうか。
「よそ見はいけないってさっきも言われてなかったか?」
「くっ」
いつの間に移動したのか、手を振り上げた狩暗 颯鬼がそこにいた。
とっさに横に転がり、その手を避ける。地面が割れる音。
「おおー。今のを避けるか………なかなかいい運動神経してるなぁ」
「運動は長距離以外は普通並少し上ぐらいには出来るからね」
「謙虚だな、普通より、って言えばいいのになぁ」
「そうだなっ!」
崩れたコンクリートの破片。手のひらサイズのものを目を狙って投げつけた。
それをいとも簡単に手で弾かれる。
「ちっとは………反撃してくんのか」
まずは様子見、反撃に対してどのような行動をとるのか。どのように防ぐのか。
「けっこー面白いな! とりあえず俺も調子出していくぜ!」
狩暗 颯鬼は両腕まで黒く染め上げた。
「おー、なかなかれいやん考えてるね」
「…………」
「どーしたれいちゃん。なかなか面白くなさそうな顔をしているよ?」
「ほんとは、ゆっくりと起こすのが………一番いい」
「そんなことは分かってるよ。でもさ、時が時だし、ね?」
「そーだけど………」
「心配なの? れいやんのことが」
「だ、誰が! あいつにはやる気が足りないからこれくらいがいいのよ!」
「そーだね。ふふ、そうだ」
「そ、そんなことより、どうなの………? あいつ、『能力無』じゃないわよね………?」
この世界に来ても、能力に目覚めない者それを『能力無』と呼ぶ。
実際にそんな人はいないのだが、血無しには『能力無』が存在する。
人間であれば、何らかの能力があるはずなのだ。しかし、あいつは目覚めない。
前代未聞。『能力無』と言われれば、間違いなく実験台、研究材料として廻折研究室に追われるだろう。それだけは、あのイカレた人間どもの元へは行かせてはいけない。
だから、それだけは避けたかった。
人間であり、『能力無』。
それだけは─────。
「れーちゃん」
気がつけば灯花さんが横に座っていた。
「だーいじょうぶだよ、れいやんは。なんていったって私が認めたんだから」
「………私、です」
「ひゃひゃひゃっ、そうだったね。それに信じているんだろう?」
「………うん」
小さくだけどそれは、大きな意味を持っていた。
そこは暗く、けれども空に近いお城だった。でも、城というには多少無理があるかもしれなかった。
黒雲が上空に漂っているせいか、城も黒く染められている。空も赤い。
ところどころは茨が巻きついており、呪われているようでもあった。
こんなところに平気で住めるのは………やはり変人、狂人。
「あいむも────その一人ですか………」
自嘲気味に言ってみたが、それで何かが変わるわけではない。気もまぎれない。
自分に与えられた部屋は、普通の部屋。机にベットにソファー。本当に簡素だった。
窓から見下ろせる景色は城下町。しかしそこには誰一人として住人はいない。
今までと比べればずいぶんとマシだが、なにか………違う。
違うのだ。頭で思うことではなく、心で思う。
「入るぜぇ? ハッハ、また隅っこで小さくなりやがって」
男が、入ってきた。頬に大きな傷跡の残った男だ。
背中には大きな大剣を背負っていて、歩くたびにがちゃがちゃと音を立てていた。
それは窓からの月明かりに反射し、きらびやかに光っていた。
「な、なんですかっ」
「そんなに警戒しなくても大丈夫だっての。つうか、記憶戻ったのかぁ?………ハッハ、その調子じゃあまだ、ってところかなぁ? 面倒だなぁ、お前。めんどくさいことは嫌いなんだよ」
男は笑って、言う。
「そーいやな、集合だってよ。ホールに集まれとのことだよ。別に来なくてもいいけどな」
「…………」
男はそのまま出て行った。
よく分からない。記憶なんて。あいむには一つしかない。
今もっている記憶。それだけしかない。
なのに、なんでみんな言うのだろう。『思い出したか?』なんて。
私は、何なんだろう。私という存在は、何なんだろう。
記憶なんて………。
私には、小さな集落で生まれ育った記憶しかない。
私には、ムラサキに対して発動した能力の記憶しかない。
私には、全滅した集落の風景の記憶しか─────ない。
もう、どうにでもなれと思った。
でも、あの人のことだけは忘れられなかった。




