18.片山2
彼と――神崎さんと一緒にいられる時間は、とても楽しいもののはずだった。
彼はさりげなく私をエスコートしてくれるし、粗略に扱われることなんて一回としてなかったから。
なのに、最近彼といると、妙な感じになる。
上手く言えない。けれど、何かがおかしいということは分かる。
彼の瞳はとろけるように優しいのに、敢えて言うなら何かが「盗られている」感じがする、なんて。もちろん、彼が盗っているものなんて、何もないのだけれど。
けれどこの違和感が拭えなくて、ご飯もあまり美味しくないし、夜眠れていないもの確かだった。
それをまさか、職場で一番ものぐさそうな彼に――しかもとても正確に言い当てられるなんて、思ってもみなかった。神崎さんでさえ気付かなかったのにだ。私はその辺の隠しごとが上手いほうで、滅多に人に指摘されることもない。
西上康也、二十八歳、独身。
彼はきっと私以上にものぐさで、多分彼女もいない。年齢=彼女いない歴、というのは邪推しすぎだろうか。いや、そんなに間違ってもいないはずだ。
ただ、時折非常に鋭い。直感的に物事を判断しているからなのだろう。得てして彼の状況分析は、間違ったことがない。……その鋭さが発揮されるのが、これもまたずいぶんと少ない機会というのも、ある意味で愛嬌と言えなくもないのだが。あんまり可愛くないけれど。
ともあれ、彼も私にとっては信頼するべき部下だ。最近は特にミスも減り、給料以上の働きをすることも増えている。もっとシフトに入ってほしいし、出来ればもっと仕事を覚えて、教える立場の人間になって貰いたいとすら考えている。
年上なのに年上らしくない彼に、もしかしたら私は彼氏である神崎さん以上に甘えているのかもしれない。時々そう思う。
彼は本当に、頼りなく見える。母性本能をくすぐられる女性と、だらしないと見切りをつける女性の、二通りの反応が予想できる外見だ。私にとって彼は紛れもなく後者の感想を抱く存在で、一緒にいても親しくできる筈がないと思い込んでいた。それが思い込みに過ぎなかったと知るのは、意外と早かったけれど。
神崎さんといると、自分であったと思っていたものが崩壊して落ち着かなくなる。
西上くんといると、自分が自分の思っているとおりなのだと安心する。
どちら、なんて選べるわけもない。けれど、西上くんは私を癒す。私に「私」を、思い出させてくれる。
神崎さんは、私を「私」ではない何かにしてしまう。最初はそれが新鮮で好ましかったけれど、やはり妙な違和感が、私を焦らせる。急かされてもいないのに。
今もどうしてか、彼が私を優しく見つめるたびに、心のどこかが「怖い」と呟く。私はそれを隠すけれど、自分の心を自分に対して隠すことなんかできない。
私は恐らく、ゆっくりと壊れているのだろう。それが良いことなのか、悪いことなのか――決めようと思うたびに、神崎さんは私の思考を奪う。
助けてほしいのか、それとも放っておいてほしいのか……一つだけ確かなのは、西上くんは私を「分かった」という、単純な事実一つだけだった。




