17.さやあて
基本的に西上さんは、用事があるとき以外部屋から出ない。私生活では完全な引きこもりだ。
だから、アルバイトも死神の仕事も休みのはずだった今日、家から出て行く西上さんを不思議に思った。興味本位に後をつける。
西上さんは近所の公園に向かった。平日の朝方、出勤していく人たちの群れの中、私服の西上さんは非常に目立つ。
……何をしようとしてるのかな。こんな朝から仕事なんだろうか。けれど、余りに人が多い。西上さんはいつも人目につかないような場所で仕事をしている。きっと違うだろう。
公園の入り口にある自動車進入禁止柵に腰掛けて、何をするでもなくぼうっとする西上さん。
外の空気でも吸いにきたのかなあ。
いや、この間から休日は常に寝倒していたぞこの人。絶対違う。何か理由があって、ここに来ている。
でも、その理由が分からない。
うんうん唸っていたら、西上さんが何かに気付いたように顔を上げた。
西上さんの視線を追うと、――神崎さんがいた。
……いつの間に神崎さんの通勤コースを調べたんだろう、この人。
僕がびっくりして西上さんを見ていたら、神崎さんが西上さんに気付いた。彼は穏やかな微笑を浮かべると、西上さんの方へと歩み寄ってくる。
僕は怖くなって、思わず西上さんの背後5mくらいまで遠ざかった。声は聞こえるけれど、一瞬で詰めるには少し離れた距離。あんまり、意味は無いかもしれないけれど。
「……おはようございます。どうしたんですか? こんな朝に」
慇懃無礼に尋ねる神崎さん。対する西上さんは、冷静な上に真摯だった。
「少し、お尋ねしたいことが」
「何でしょう」
「あなたと片山さんをつないでいるものは、一体何なんですか?」
西上さんの言葉に、くっと唇を歪める神崎さん。格好いい人がこういう表情をすると、ものすごく絵になる。絵になるからこそ、空恐ろしい。
「それを聞いてどうします?」
「……質問に答えてください」
西上さんが低い声で応えると、神崎さんは一旦笑うのを止めた。けれど、西上さんを威嚇するような空気は変わらない。
「僕と彼女をつなぐもの……そうですね、敢えて言うなら『契約』でしょうか」
「……『契約』? 俺にはそんなつながりは見えない」
西上さんの言葉に、神崎さんは嘲笑する。
「見えない? 当たり前でしょう。僕と彼女だけをつなぐ絆です。余人に見えるわけがありません」
「ずいぶん個人的な『契約』だな。天使が扱うものとは思えない」
……ちなみに個人契約といえば悪魔の領域のはず。急に僕は目の前の天使が、何か別のものに思えてきた。
ぶっちゃけて言うと、信じられないし、あってはならないことだ。
「……余計な真似はせず、黙って見ていろ。死神」
薄い笑いを頬に貼り付けたまま、神崎さんが冷たい声で言う。同時に、ありえない圧迫感が、神崎さんから発せられる。あああ、おうちに帰りたいいいいい。
神崎さんはもう言うことはないと判断したのか、僕のほうをちらりと眺めてから歩き去っていった。西上さんは、神崎さんの後姿を難しい顔をして見送る。
僕は西上さんのあとを深く考えずに付いてきたことを、今更のように後悔した。




