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第31話 妖精のダンス

「その火の件で」

「やっぱりそうね。広ちゃんに俺が解決してやるって宣言するものだから、てっきり自分でどうにかすると思っていたわ。八鹿さんね、適材適所だけど」

「その」

「八鹿さん、まだ危ない仕事をしているの?」

「それが生業ですから」

「もう止めてもいいんじゃない? いくら先代のことだと言っても」

 高谷の母親はこうやっていつも心配してくれるが、今回は何も言えないはずだ。

「先代の帳簿にはなかったんだ。行商人に売った履歴が」

「そうね、今回は何も言えないわ。困っているの助けて」

 確かに音がする。

「出来れば今日中に済ませたい。パンパン草の籠を処分するだけだ」

 ミッションは簡単だ。障りはパンパン草の籠で間違いない。ただパンパン草の籠は一度触った人間には捕まえることが出来ない。今から二十四年前、実家で障り両親が亡くなった。俺にはパンパン草の籠は見つけることが出来ない。千と周作を連れてきて良かった。

 二人に特徴を伝えた。見つけたら粉々に踏みつぶして火にくべると伝えた。

「その行商人は何か言っていなかったかい?」

「これを除く時は置く時以上に大変だよって」

 その言葉の意味は障ると見つけるのが大変だという意味だ。

「総悟さん、見つけました。持ってきます」

「ダメだ。持って来るな」

 警告むなしく千は籠を持って来た。

 パンっと音を立てて、籠が燃えた。慌てて千は取り落とす。

 説明をしていなかったのがまずいが思わず出た険のある粗雑なため息。千の目に浮かぶ動揺と怯え。

「申し訳ございません」

 千は土下座をした。何か傷にさわったと思ったのはすぐだった。

「ちょっと八鹿さん」

 高谷の母親は土下座をする千を抱き起し、非難の目でこちらを見上げた。

「これは許せません。ちゃんとした説明をしないのであれば、今回の件は無かったことに」

 そう言って、高谷の母親は母屋に千を連れて行った。

「八鹿さん」

 周作の声も困惑に満ちている。俺は沈黙でしか答えることが出来なかった。周作は暗い表情のまま続いて母屋へ向かって行った。

 今回の件で困るのは高谷だ。友人としてなんとかしてやらないといけない。ため息にあれほどの反応、あれなら折檻で何かをしていたかも想像が出来る。最低な話だ。あの様子では泊めてくれないだろう。この辺りに宿はあったはずだ。無ければ納屋を借りよう。

「総悟くん?」

 声を聞けば分かる。高谷が従ってしまう女。高谷園子、三十歳子姉妹あり。人妻でどこか色気のただよう未亡人だ。俺はこの人が苦手だ。

「たいちゃんから言われて来たの?」

「そうです」

「解決出来そう?」

「どうかな」

「籠でしょう」

「はい」

「聞いていたのよ。パンパン草の籠っていうのね」

「そうです」

「千ちゃん、可哀そうね」

「はい」

「もうなんで固いの?」

「そんなことないです」

「私の頼みを聞いてくれたら誤解も解いてあげるし、パンパン草の籠も壊してあげるよ」

「けっこうです」

「えー、聞いてよ。私困っているの。えーんえーん」

「そうですね」

「私、この辺りの人に八鹿総悟さんは小児性愛者って言っちゃうかも、たいちゃんもその友達なら経歴に傷がつくな。可哀そうだと思わない?」

 目的の為なら何を交換条件にしても気にしない女だった。

「なんですか」

 俺は振り返ると目の前の女を見た。着物は質素ながらも口の右の上には横には小さな黒子、えくぼの出来る頬に、照れくさそうな少し下を向いた顔。きれいで細い指、小さい身長。色気で落として精力を吸いつくして離婚したとこの辺りでは有名だそうだ。

「やっとこっちに向いてくれた」

「それで目的は?」

「妖精のダンス」

「それってなんですか」

「知っているでしょう。総悟くんの専門」

「呪物に一回頼ると元に戻れないですよ」

 パンパン草の籠なんてまだまだ甘い方だ。

 妖精のダンスは水晶で出来た羽の生えた女の子の像で、小さくて玄関に飾るような置物だ。女性が男性に贈るとその女性にほれ込んでしまうという呪物だ。

「この町は狭いから、違う所に行きたいの」

「まさかその程度で」

 転居したいから富豪を妖精のダンスで魅惑しようとしている。それの程度で妖精のダンスを手に入れようとしている。この人は昔から自分の想像を信じ歩んでいく。考えない愚かな人だ。

「総悟くんには分からない。こんな中途半端な士族に生まれてろくにお金のない人生を歩まされて」

「闇は闇を生むだけです」

「でも私は幸せに」

「それならますます勧められません」

「でもあなたは持って来るわ」

 ここでちゃんと説明するべきか、いちおうしておこう。

「妖精のダンスは男性が女性に贈ると不和の原因になります」

「そうなの。残念」

 これくらいで折れるなんて、ありえない。交換条件を出したのだ。何かある。

「誰か方法を考えてくれないかしら、妖精のダンスを持っているのは女性らしいわ。あなたなら妖精のダンスを上手くもらえるようにしてくれるのは、ごめんなさい」

 乗れない。

「そうよね、誤解はあなたが解けばいい話。変な話も流さない。そこの宿、私の名前を出したら一等室に泊めてくれるわよ。じゃ、また今度」


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