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ラプラスの悪魔たち  作者: 881374
【短編連作その一】『ラプラスの悪魔たち』
2/16

本文その2

「……『現実にこんな話はあり得ない』って言われても、正真正銘現実の話なんだけどなあ」

 その時僕こときゅうだい付属(エル)学園がくえん高等部在籍の神楽かぐらひびきは、去年新設されたばかりのピカピカの学生寮の自室にて、()()()()()()()()()()『ラプラスのあくたち』に対する書き込みコメントが表示されているパソコンの画面を見ながら、ため息まじりにそうつぶやいた。


 そう。僕自身を始めL学園に収容されている異能の少年少女たちが現在存在している世界はあくまでも、『SF(しょう)せつこう!』なる小説創作系サイトにアップされている『ラプラスの悪魔たち』などという小説内のフィクションな空間ではなく、れっきとした現実世界なのであった。

 まあ、そうは言っても、責任の半分以上は僕にあるんだけどね。

 実は何と僕自身も『エコー』というハンドルネームを使って、このサイト公認の掲示板にカキコとして参加しているんだし。

 例えば先ほどの『むしろ「エヴァ」かと思ったけど』うんぬんのくだりとかが、僕の書き込みだったりします。

 つまり作者である僕自身が自演乙的に書き込みに参加することによって、自作の読者フォロワーたちと直に言葉を交わして率直な御意見を聞き出し自作の反省等の糧にしたり、あえて彼らを煽るような書き込みをすることで意見の方向性を操作したりしているわけなのだ。

 では何でそんな創作者としては反則的かつまどろこしいことなんかをしているかと言うと、何よりもこの作品が正真正銘『現実の出来事』であることに気づかさせないためであった。

 もちろんそれはそもそもこの学園がいわゆる『あくき』の少年少女たちを強制的に収容している、政府直轄の秘密実験場であるから──と言いたいところなのだが、非常に不可解なことながらも、なぜかこのような実在の固有名詞がバンバン登場する作品をネット上に発表しているというのに、学園側から何らかのお咎め(リアクション)を受けたことは一切なかったのだ。

 それよりも僕にとって重要だったのは、自分と同居人の少女との秘められた関係を──特に『彼女』が実在の存在であることを、けして知られてはならないことのほうなのであった。

「しかし、『実は主人公自身には何の異能もなく、自分にべったりのブラコンの妹のほうに異能が芽生えたために、巻き添えを食って学園に強制入学させられた』とはね。結構いい線いっているよな」

 一見いかにもいい加減に見えるネット上の書き込みだけど、時折作者である僕自身もひやっとするような鋭い意見があったりするから油断できないのだ。

 そんなことをぶつぶつとつぶやきながらも、僕が更に掲示板に巧妙に擬装された情報操作的煽り文句を書き込もうとした、まさにその時。


『──あらあら、ブラコンとは失礼な。むしろこっちのほうが、どこかのシスコンお兄様の犠牲者だというのに』


 狭い室内に響き渡る、いまだあどけなくもどこか高飛車な、十二、三歳ほどの少女の声。

 それは女性禁制の男子寮の一人部屋だというのになぜか現在僕が座している学習机の反対側の壁際に設えられている簡易ベッドの上でまるでゼンマイのきれたオモチャか下手したら屍体でもあるかのようにうつむきながら座っている、漆黒のノースリーブのワンピースを華奢な肢体にまとった長い黒髪に日本人形そのままの端整なる小顔をした十二、三歳ほどの少女の口から発せられたもの──ではなく、机の脇に置いてあった愛用のブルーベリーのスマートフォンからのものであった。

「……いやだから、通話スイッチも入れていないスマホから、いきなりアクセスしてきたりするんじゃないって、何度も言っているだろうが?」

『だってお兄様ったらこっちが黙って見ていれば小説作成そっちのけで、自虐極まる自作ディスり書き込みに熱中なさったりしておられるのですもの。……このマゾ小説家めが』

「だ、誰がマゾだよ⁉ むしろこれはネット作家としては必要なことなのであって、別に新作作成に行き詰まってしまったために、現実逃避に走っているわけではないのでありまして……」

 けして図星を突かれたからなんかではなく、あくまでも創作者としての当然のことわりを教え諭さんと、僕がしどろもどろに言い訳を重ねようとしたところ、

 それを遮るようにして突きつけられる、冷然とした少女の声。


『お黙りなさい。これ以上言いつけに背くつもりなら「契約違反」として、妹さんの生命活動をストップさせるわよ?』


「──なっ。ちょ、ちょっと待ってくれ! いきなりそんな⁉」

『いきなりも何も、「SF小説を書くこと」こそが、瀕死の状態だった妹さんの命を繋ぎ止める時に交わした、唯一絶対の交換条件でしょうが? それをおろそかにされておいて甘い顔を見せて差し上げるほど、悪魔の眷族たる夢魔サキュバスはお人よしではないわよ』

「うぐっ」

 当然なこととはいえども辛辣極まる指摘に、思わず言葉を詰まらすネット作家。

 あたかもその様を見て取ったかのように、若干語調を緩めるスマホからの声。

『何も難しいことでもないでしょう? あなたはただ、このSF小説そのものの異常極まる学園の有り様を自分自身の目で見た通りに小説にしたためて、ネット上で発表するだけでいいのだから』

「自分の目で見たままに小説にしろって、本当にこの実のところは政府直轄の秘密実験場の実態を、個々人の実名までもそのまま何の変更を加えずに、ネットなんかで発表し続けても構わないのか?」

『だから何度も言っているでしょう? そもそもすべての大本たる「(エル)あく」の一端末にして全知全能の「多世界の住人」たる夢魔サキュバスである私には、この世のすべてがお見通しなんだから、この秘密実験場の支配者であるあなたのお父上の真の目的なんて先刻承知なのであり、こうして学園内の各生徒における異能イベントの詳細な有り様を小説化することは、むしろ学長を始めとする「(エル)もん」のお歴々にとっては願ったり叶ったりの状況なの。だからあなたはもうこれ以上四の五の言わずに、とにかく私の言う通りにSF小説さえ書いていればいいのよ!』

 そう言い捨てるや、それっきりうんともすんとも言わなくなる、ブルーベリーのスマホ。

 そんな一連の騒ぎの中にあっても、微塵も反応を示すことのない、ベッドの上の少女──僕の実の妹、神楽かぐらのん

 ……何であんな性悪な夢魔サキュバスなんかに、取り憑かれることになってしまったんだろう。

 僕は心の中でそんな今さらせん無きことをつぶやきながら、すでに過ぎ去りし日々へと思いを馳せるのであった。


   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑


 僕がどんな願いでも叶えてくれるという謎の超常的存在『(エル)あく』に対して望んだこととは、原因不明の奇病で瀕死の状態にあった最愛の妹の延命であった。


 そう。まさしくその時の僕は見えすいた誘惑の罠に嵌まり、自分の魂と妹の身体をむざむざと、狡猾なる悪魔に売り渡してしまったのである。


 僕のたった一人の妹である神楽かぐらのんは、幼い頃から何かと病気がちでたびたび長期入院を繰り返すこともあるという、非常に身体の弱い子供であった。

 いや、正直なところ、病気がちとか身体の弱いなどといったレベルではなかった。

 別に五感に異状があるわけでもないというのに、生まれつき対人コミュニケーション能力というものをほとんど有さず、まさしく人形そのままの疑似的な三重苦状態にあったのだ。

 しかも最低限の生活能力すらも備わっておらず、そのため学校に就学することもなく、日中は通いのお手伝いさんに面倒を見てもらい、夜から翌朝にかけては兄である僕が食事に始まり着替えから入浴に至るまで、身の回りの世話をずっと見なければならなかった。

 それでは両親──特に母親は何をしていたのかというと、僕自身幼かったので記憶は定かではないのだが、彼女はおそらく歌音の出産のためと思われる長期間の留守以来、歌音のほうが無事に出生し僕らの家へと来て以降も、二度と帰ってくることはなかったのだ。

 こういった場合、出産時における何らかのアクシデントが原因で亡くなってしまったものと思われるところだが、母の葬儀が行われた記憶はまったくなく、当然疑問に思った僕は何度も父に事実を確認したものの、なぜか彼は明確な答えを返すことはけしてなく、それどころか僕に母のことを話すことを一切禁じる有り様であった。

 それでは父自身の歌音に対する態度はどうかというと、こっちのほうはもはや実の娘に対するような親身さなぞ微塵も無いものであったのだ。

 一応は物理面──特に金銭面に関しては病弱の娘に対して十分な処置を施し、病状が悪化すれば速やかに病院に入院させたりはしてくれるものの、極日常的な場面においては不幸な身の上の我が子に対して親身に世話をするどころかその存在自体を完全に無視し、稀に言葉をかけたかと思えば、「……この役立たずの出来損ないが」などといった、とても血を分けた肉親に対するものとは思えない辛辣極まるもののみであった。

 元々名門(きゅう)大学の誇る量子物理学部の主任教授にまで昇りつめた研究の鬼である彼は、「かつて量子論によって滅ぼされた『悪魔』を、この現代物理学が支配する世界で甦らせてみせる」をモットーにするような奇人であったが、その天才的頭脳は誰もが認めるところであり、学内はもちろん国の内外を問わず物理学系の研究者からの信望も厚く、長年の研究上のパートナーである妻共々研究室にこもりきりとなりほとんど家には寄りつかず、歌音のみならず僕のことすらも放ったらかしにしていたので、こちらとしても成長するに従って両親──特に父親に対しては、反感を募らせていくばかりであったのだ。

 そのため同病相憐れむというわけでもなかろうが、僕としては俄然不憫な妹の世話に熱中していくことになり、学校においてもクラブ活動等を行うどころが友人をつくることもなく授業が終わればすぐさま帰宅し、進学のための最低限の勉学と趣味のネット小説作成以外はすべてを歌音の面倒を見ることだけに充てていた。

 別に、それでも構わなかった。

 そう。もはや僕には『妹さえいればいい』のであって、『友達が少ない』どころかまったくいなくても別に問題はなく、十分に満ち足りて幸せだったのだ。

 しかし好事魔多しとはこのことか、何ともうすぐ十二歳の誕生日を迎えようとしていた歌音の持病が急に悪化して、瀕死の状態に陥ってしまったのである。

 元々原因不明の奇病であったために、かかりつけの病院で診てもらっても、「情けない話ですが、我々では手の施しようがありません。不謹慎な物言いで恐縮ですが妹さんの現在の御容体は、まるでこうなることがあらかじめプログラミングされていたみたいに、むしろ粛々と体内の各機能が劣化を進めておられるのです」などと、どこかの三流SF小説の読み過ぎみたいなことを言い出す始末であった。……うちの妹は『不稔性種子型農作物』かよ?

 しかもこの期に及んですらも父の態度は相変わらずのままで、いくら僕が歌音の窮状を訴えても少しも動じず、自分の研究に没頭するばかりで大学から帰宅することさえなかったのであった。

 せめて僕だけは側にいてやろうと受験も終わり高校進学も決定していたので学校にも行かずに、自宅のベッドに寝かしつけた歌音につきっきりで看病をしていたのだが、そんななかにも彼女の病状がどんどんと重篤化していくのを、何もできずにただ手をこまねいて見ているしかなかったのだ。

 ああ、お願いだ。神でも悪魔でも構わない。僕の命と引き換えに、歌音を助けてくれ!

 無力な我が身を嘆きながら、とうとう神頼みに走ってしまった、まさにそんな時であった。

 ネット上で、奇妙な噂がささやかれているのに気づいたのは。

 何でも『(エル)あく』というネット上のサイトが妄想癖気味の思春期の少年少女たちの間で評判になっていて、非常に難易度が高いけれどサイト独自のSF小説的なノベルゲームをすべてクリアできれば、謎のサイト管理者である自称『悪魔』が望むがままに超常の力をもたらして、どのような願いでも叶えてくれると言うのである。

 いかにもネットにありがちなうさん臭い話であるが、そこはさすがはSF小説やライトノベル等ですっかり洗脳された夢見がちかつ現実逃避傾向の強いちゅうびょう罹患者たち。ほとんどの挑戦者が途中で音を上げた課題ゲームを見事にクリアし、すでに悪魔とやらに望みを叶えてもらった僕同様の中高生の少年少女たちが少なからず現れ本当に異能を手に入れて、この現実世界の中でSF小説やライトノベルそのままの尋常ならざる騒動を起こすようになったと言うのだ。

 もちろん僕だってこんな眉唾物の話を、頭から信じているわけではなかった。

 しかしそれでも、歌音のことを救う確率が万に一つ──いや、億に一つでもあるのなら、たとえどんなにうさん臭い話であろうとも、すがりつかずにはおれなかったのだ。

 それに与えられた課題が、サイト上のSF小説的なノベルゲームをクリアすることだったことも、僕にとっては幸運であった。

 何せこちらは以前からネット上オンリーとはいえ、実際にSF小説を創っていてそれなりに世間様から評価を得ているといった腕前なのである。ノベルゲームのような選択肢分岐型ゲームならほとんどのパターンは十分熟知しており、寝る間も惜しんでスマホに取り付きゲームにいそしんでいるうちに、結構な量のあった課題ゲームも何の苦もなく順調にクリアしていけたのである。

 そしてついに最後の選択肢を自信を持ってスマホの画面上でタップし、すべての課題ゲームのクリアを成し遂げた、その瞬間。

 スマホから鳴り響いてくる軽快なファンファーレと、どこか機械的な幼い少女の声。

『コングラチュレーション! 課題ゲームがクリアされました。全知全能なる「Lの悪魔」の名において、あなたのどのような願いでも一つだけ叶えて差し上げます。さあ。文字テキストあるいは音声ボイスどちらでも構いませんので、お手元のスマホに入力してください』

 ──っ。噂は本当だったのか⁉

「僕の願いはただ一つだ! この命と引き換えにしてもいい! 妹を──歌音を、どうか助けてくれ! おまえが本当に悪魔というのなら、できるはずだろう⁉」

 もはや文字通り藁にもすがる思いで、そうわめき立てた、

 まさにその刹那であった。


『おっけ~。その願い、確かに聞き届けたわあ』


 スマホから聞こえてきた、先ほどと同じ少女の声。

 しかしなぜかそれは、幼なくもどこか人のことを小馬鹿にするかのように尊大に聞こえたのだ。

「……誰だ、あんた」

『何言っているの? もちろん悪魔に決まっているじゃない』

「悪魔って、つまり『Lの悪魔』サイトの管理人ってことか? あんたみたいな子供が? ──いや、そんなことよりも。何であんたのほうからこうして僕にアクセスしてくることができるんだ⁉ しかもサイトとのやり取りには原則関係ないはずの、音声通信を使って⁉」

『そりゃあ私が、正真正銘悪魔だからに決まっているでしょう? 何せネットそのものが私にとっては、自分の領域みたいなものなのですからね』

「はあ?」

『とりあえずそんなことは、どうでもいいじゃないの。それよりもあなたの望みは、妹さんを救うことなんでしょう?』

「……あ、ああ。もちろんそうだけど。本当にできるのか、そんなことが?」

『ええ、もちろん。伊達に悪魔の眷族はやっていませんからね。その代わりに、命とは言わずあなたの()()()をいただくことになるけど、構わないかしら?』

「もちろんだ! 僕なんかどうなってもいい! どうか、妹を助けてくれ!」

『おっけーおっけー。これにて契約完了! ──ほら、ベッドのほうを見てご覧なさいな』

「へ?…………………って。なっ⁉」

 振り向けば何と、今し方まで身じろぎ一つせずにただひたすらベッドの上に横たわっていた最愛の妹が、上体を起こして僕のほうを見上げていたのである。

「か、歌音!」

 そう叫ぶや矢も盾もたまらず駆け寄り、すっかり痩せ細った身体をぎゅっと抱き寄せる。

 相変わらず何の表情も浮かべず、反応も一切示さなかったものの、そんなことなどどうでもよかった。

 こうして最愛の妹が息を吹き返したこと以上に、喜ぶべきことなぞないのだから。

「……ああ、よかった。歌音、本当によかった!」

 僕が涙をとめどもなく流しながらそうつぶやいた、その時。


『──感動のシーンに水を差すようで悪いんですけど、話を続けてもいいかしら?』


 文字通り冷や水そのままに投げかけられてくる、不粋な自称悪魔の眷族の声。

 とはいえ何と言っても相手は、最愛の妹の命の恩人なのである。いったん歌音の身体を優しくそっとベッドに横たわらせるや、再びスマホへと向き直る。

「ええと。それで、話の続きって?」

『もちろん契約内容の確認──特に、交換条件についてよ』

「こ、交換条件って……」

『あらあら。こうして妹さんを生き返らせるなんて破格の望みを叶えてもらえたんだから、あなただってまさかただで済むとは思っていないでしょう?』

「へ? いやでも、悪魔であるあんたから願いを叶えてもらえるのは、『Lの悪魔』サイトの課題ゲームをクリアすること自体が交換条件じゃなかったのか?』

『本来ならね。でも今回はあまりにも特殊なケースだから、追加条件が必要となるわけなの』

「特殊なケース?」

『あなたが私についてどんな噂を聞いていたかは知らないけど、普通は願いを叶えるといっても、私のほうは課題ゲームクリア者が望む異能をスマホにおける特殊機能等として与えるだけで、実際に願いを叶えるのはゲームクリア者自身てことになっているの』

「あ」

 そうだ。そういえば、そうだったっけ。

『それが今回は人一人の命を救うってことで私自身が直接手を下す必要が生じただけでなく、これ以降もずっと妹さんに張り付いていなくてはならなくなったってわけなのよ』

「ずっと歌音に張り付いていなくてはならないって、何で?」

『詳しいことは省くけど、いくら悪魔だって命を与えるなんてことはできるはずもなく、妹さんを()()()()()()()()()()()()ことで、一人二役的に妹さんの肉体をあたかも遠隔操作するかのようにして動かしていくことになるの』

「分身として指定したって……」

「分身と言ってもいわゆる多世界解釈量子論における「多世界同位体」のことで、つまりこれには量子論における世界をまたいだ量子同士の干渉シンクロ作用を利用しているのであり、悪魔の眷族であり夢の世界こそを己の領域セカイとする夢魔サキュバスである私が、まさしく「多世界の住人」ならではの量子コンピュータそのままの多世界間シンクロ能力で、あなたの妹さんをこの現実世界における自分の多世界同位体に指定して、心身共に同期シンクロしたって次第なの』

「……ええと。つまり、どういうことなのでしょうか?」

 何が何だかわけがわからず言葉に窮する僕へと向かって、驚天動地の台詞を突きつけてくる、自称夢魔(サキュバス)

『つまり私はあなたの妹さんの命を繋ぎ止めるために、肉体のみならず精神においても量子レベルで完全に一体化シンクロしたってことよ。よってこれからはこの私こそがLの悪魔の一端末たる夢魔サキュバスであるとともに、あなたの妹御神楽歌音そのものでもあるというわけなの』

 な、何だってえ⁉ 言うなれば僕の妹が悪魔になったわけ? それ何てラノベ?

『………何か若干嬉しそうなところが気になるんだけど、とにかく話を続けるわ。それで追加の交換条件のことだけど』

「あ、ああ。それもあったよな」

 ……最愛の妹の命を救ってもらったとはいえ、いったいどんな難問をふっかけられることやら。

『いやだ、そんなに構えないでよ、「お兄様」。言ったでしょ? 今や私は、あなたの可愛い可愛い歌音ちゃんでもあるんだから、愛するお兄様に対して、むやみに無理難題を突きつけたりはしないわよ。──交換条件と言っても、むしろあなたにとっては得意中の得意なことなんだから、何の心配もいらないわ』

「へ? そ、それって……」


『私の願いはただ一つ、あなたに「SF小説」を書いてもらうことだけなの』


 ……………は?

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