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ラプラスの悪魔たち  作者: 881374
【短編連作その一】『ラプラスの悪魔たち』
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1/16

プロローグ&掲示板その1&本文その1&掲示板その2

(※本作は、前書きや後書きも本編に含まれるというトリッキーな多重メタ構造となっておりますので、本編だけでなく前書きや後書きのほうもけしてお見逃しなきよう、どうぞよろしくお願いいたします!)




 実は世界というものには、大きく分けて二通りの種類があるのだ。


 一つは、「タイムトラベルや平行世界などという非現実的なものなぞ、けして存在しない」とする、いわゆる『完全なる現実世界』であり、もう一つは、「ひょっとしたらタイムトラベルはいつの日か実現するかも知れないし、平行世界だって人知れず本当に存在しているかも知れない」とする、言うなれば『S(・)F(・)小(・)説(・)的世界』である。

 それでは、我々が現在存在しているこの世界は、完全なる現実世界なのかというと、さにあらず。

 実は何と紛う方なく、SF小説的世界なのである。


『小説的世界』と言っても、別にメタ的な存在というわけではない。むしろこれは物理学を始めとする科学的には、至極当たり前な世界に過ぎないのだ。

 例えばほんの百年前までは、月へ人間が赴くことはもちろんのこと、誰もが小型のコンピュータを携帯し一瞬で世界中の人々とアクセスできることなぞ、SF小説の中だけの夢物語でしかなかったろうが、何と現在においてはれっきとした現実の出来事なのである。


 つまりはこの現実世界においては常に、SF小説的な出来事が現実化する可能性が秘められているのであり、そしてそれらの実現を促すために人々への啓蒙の任を担っているのが、言うまでもなくSF小説を始めとする文字通り空想科学的な物語の数々なのである。


 何せ、まさしくかつてSF小説等の非現実的な物語に影響を受けることによって、フォン=ブラウンが月旅行の実現を目指したからこそ、アメリカの威信を懸けたアポロ計画は頓挫寸前の危機を乗り越えて成功したのであり、スティーブ=ジョブスが子供やお年寄りでも使えるコンピュータであるMacやiPhonを製品化したからこそ、現在インターネットがこれほどまでに我々の生活に浸透することになったとも言えるのだから。


 そう。まさにSF小説によって呼び起こされた飽くなきチャレンジ精神こそが、SF小説そのままの非現実的な夢物語を夢物語のままで終わらせずに、この現実世界そのものを変えていき、人類の文明をこれほどまでに高度かつ豊かに発展させてきたのである。


 SF小説を書こう!

 もっともっと、書こう!

 この我々の現実世界を、更に夢と希望に満ちあふれたものにするために。


       (小説創作系サイト『SF小(しょう)説《せつ》を書《か》こう!』開設の挨拶より抜粋)




『……てな感じで、何度読んでも、何とも御大層な文章ですこと』

『それはともかくとして』

『最近何かいい作品は、アップされた?』

『いい作品って、SF系で?』

『そりゃそうだろうよ。何せサイト名からして、「SF小(しょう)説《せつ》を書《か》こう!」なんだし』

『とは言ってもねえ。今週アップされた新作だけでも、百を超えてんだぜ?』

『おお。さすがは、SF小説創作系サイトの最大手』

『何せ完全に無料で、SF小説をいくらでも読めるし』

『そのお陰で、下手な新人賞作家の千何百円もする本なんか買ってられるかって感じで、SF系の本読みたちは誰もが暇さえあればこのサイトにアクセスしてくるし』

『作り手のほうも、入賞者が極少人数に限られている新人賞なんか相手にするよりも、自信作を一刻も早く大勢の人に読んでもらおうと、こぞって作品をアップしてくるしで』

『もはやSFなんて狭義のカテゴリィを超越して分類不可能な、傑作や怪作が山ほどアップされているって有り様なんだよな』

『何と言っても意図的に情報操作された業界主導の中身のない書評等の雑音に惑わされることなく、自分の目で好みの作品を選べるので、本当に面白い作品が正当に評価されるし、作り手のほうもやる気になるからね』

『今やこのサイト公認の掲示板の書き込みコーナーの信頼性は、ア○ゾンレビュー以上だって言われるくらいだしな』

『自画自賛し過ぎィwww』

『何せこちとら、サイトにアップされている作品は、全部目を通しているしよ』

『だったら、何かお薦めはないのかよ?』

『う~ん、そうねえ……』

『あ、だったら、あれはどうだ?』

『あれって?』

『ラプラスだよ、「ラプラスの悪《あく》魔《ま》たち」!』

『ああ、あれか!』

『何だよ、それ』

『おまえ、まだ読んでいないのかよ?』

『閲覧数も評価ポイントもうなぎ登りの、まさに今注目の新作なんだぜ?』

『へえ。それで、どんな内容なんだよ?』

『う~ん。一言で言えば、文字通りにこの世に悪魔が現れて、中《ちゅう》二《に》病《びょう》の少年少女たちに異能を与えて、ラノベばりの異能バトルを繰り広げさせるって感じかな』

『何だそれ、いかにもありがちィwww』

『いやそれがこの作品って、悪魔の実在は元より、作中に登場してくる様々な異能についても、そのすべてがしっかりと現実性《リアリティ》が守られているところが、とにかくすごいんだよ』

『は? 悪魔や異能の現実性《リアリティ》が守られているって……』

『まさしくこのサイトのモットーそのままにこの現実世界をSF小説的世界だと捉えることで、「多世界解釈量子論こそがすべてのSF小説にとっての福音なのだ」をテーマに、どんな超常現象も多世界解釈量子論に基づいて検証していくことで、現実的実現可能性を導き出すことに成功しているんだ』

『多世界解釈量子論って、確か量子論を真に論理的に説明するには、あくまでも概念上とはいえ、「多世界」という平行世界的な存在が必要になるってやつだっけ?』

『そうそう。つまりこの作品においてはすべてのSF小説的超常現象が、現代物理学によって現実性《リアリティ》が保証されているってわけなのさ』

『そいつはすげえな』

『それだけじゃないんだぜ。この作品はそんなたださえとんでもない偉業を、何と多重メタ構造のもとで成し遂げているんだ』

『多重メタ構造う?』

『おいおい。またメタ作品かよ?』

『このところ、食傷気味ィ~』

『つうか、もうメタはマンネリなんじゃ?』

『いやいや。この作品は、そんじょそこらのメタとは一味違うんだ』

『へえ。どこら辺が?』


『実を言うと、この書き込みコーナーそのものも、その「ラプラスの悪魔たち」って作品の一部なんだよ』

 【短編連作その一】『ラプラスの悪《あく》魔《ま》たち』



「……ふうん。一応今のところは、サイトの掲示板での評判はいいようだな」

 その時僕は、自作のネット小説作品『ラプラスの悪《あく》魔《ま》たち』に対する書き込みコメントが表示されているパソコンの画面を見ながら、ほっとため息をつきながらつぶやいた。


 去年新設されたばかりの学園の高等部の学生寮の、いかにも手狭な一人部屋。

 目に付く家具といえば学習机とベッド以外には小さな本棚くらいしかなく、思春期の青少年の部屋にしてはどうにも殺風景過ぎた。

 とはいえ、そこは開校したばかりの学舎の学生寮。建物そのものはもちろん、寮の一部屋ごとに完備されているキッチンからバストイレに至るまでそのすべてがピカピカの新品で、この部屋のいかにも乏し過ぎる生活感がむしろおしゃれなモデルルームであるかのようにも見えてくるといった有り様であった。

 しかし、収容人数五百名を超える学生寮におけるこの部屋ならではの最も奇抜な特徴は、そのようなありふれた点だけではなかった。

 何とまさに今この時、原則個室でしかも女性厳禁の男子寮だというのに、僕が座している学習机の反対側の壁際に設えられている簡易ベッドの上には、事もあろうに年の頃十二、三歳ほどの一人の少女がちょこんと座っていたのだ。

 しかも暦上は初夏とはいえ少々季節を先取りし過ぎた漆黒のノースリーブのワンピースに包み込まれた小柄で華奢な白磁の肢体に、長い黒絹の髪の毛に縁取られた日本人形そのままの端整なる小顔の中で艶《つや》めいている黒水晶の瞳に深紅の唇といった、絶世の美少女とも呼び得る容姿を誇りながら。

 ただしその愛らしい顔には感情の類いは微塵も浮かんではおらず、先ほどの僕の独り言にも一切反応を示さず、まるでゼンマイのきれたブリキのオモチャか下手したら屍体でもあるかのように、ただひっそりとうつむき続けるばかりであった。

 そうは言っても別に彼女はこの部屋に以前から居着いている、由緒正しき地縛霊といったわけでもなかった

 何度も言うようにこの寮は新設されたばかりであり、過去に居住者が変死した事実なぞなく、それに彼女がここに存在していることにも、まるで作り物の人形みたいであることにも、ちゃんとした理由があるのだ。

 そして今まさに、この物語の作者である僕がその理由を読者の皆様《あなたたち》にお教えしようとパソコンに向かって入力せんとした、その刹那。

 唐突にけたたましく電子音を鳴り響かせる、机の脇に置いてあった愛用のブルーベリーのスマートフォン。

 慌てて手に取り通話ボタンを押すや聞こえてきたのは、いまだあどけなくもどこか高飛車な、十二、三歳ほどの少女の声であった。

『はろー、響《ひびき》お兄様。小説作成の御調子のほうは、いかがかしら?』

「……何だ、またおまえか。ついさっき五分ほど前にも、話をしたばかりだろうが?」

『うふん。だってお兄様ったら、私がちょっと目を離したとたん、さぼってばかりなんですもの。今も小説執筆そっちのけで、サイトの書き込みコーナーでもご覧になっていたのではなくって?』

「──うぐっ。い、いや。こういった読者の生の反応《こえ》を確認しておくことも、創作者にとっては大切なことなのであって」

『またまたあ。少しでもきつい意見が書いてあったらへこんでしまって、その日はもう何も書けなくなってしまうくせにい。そんな無責任極まる他人の書き込みなんか気にしている暇があったら、一行でも新作のほうを書き進めたほうが有意義なんじゃないの?』

「や、やかましい。おまえなんかに、ネット小説オンリーとはいえ一応作家である、この僕のハートの繊細さがわかって堪るか!」

 慇懃無礼な口調で一方的に責め立ててくる幼い少女の声にとうとう我慢の限界に達し、大人げなくも本気で食ってかかっていく、自称ネットオンリー作家。

 それに対して返ってきたのは、もはや散々聞き飽きた彼女御自慢の、いかにも芝居がかった決まり文句であった。


『わかるわよ。だってこの私こそは、現代に甦りし古典物理学の申し子にして絶対予言を司る超常の存在たる、「ラプラスの悪魔」の進化形《ニューヴァージョン》なのであり、視えない未来《もの》なぞけしてないのだから』


   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑


 実は何と今からおよそ二年ほど前のある日、我々人類はついに神や悪魔そのままの全知全能なる超常の存在との邂逅を果たしたのであった。


 自らのことを文字通りに『悪魔』と名乗ったその謎の存在は、主に元々現実逃避気味で『小説の主人公』願望が強い中高生の少年少女たちに対して一定の条件の元で、彼らが特に好んで読んでいるSF小説やライトノベルに登場する超能力そのままの種々の特殊能力を授けてくれて、これまでは単なる中《ちゅう》二《に》病《びょう》的妄想癖に過ぎなかった者たちが与えられた異能の力を活用していくことによって、まさしく小説の登場人物そのものとなり、あたかもSF小説やライトノベルそのままの非現実的な現象を引き起こしていくようになったのだ。

 ただし神や悪魔そのままの超常的な存在との邂逅と言っても、何も天国や魔界や異世界への通路が物理的に開かれたり、不思議な力を授けられたからと言っても、文字通りのエスパーや魔法使いになれたわけではなかった。

 何せこれはあくまでも現実の出来事なのであって、SF小説でもライトノベルでも漫画でもアニメでもゲームでもないのだから。

 では具体的にはいったいどういったことが行われたかと言うと、まずインターネット上に突然『L(エル)の悪《あく》魔《ま》』というSFマニア向けのサイトが現れ、サイトに課題としてアップされている超難解なゲームアプリをクリアできれば、悪魔を名乗る謎のサイト管理者が現実世界で実際にSF小説やライトノベルの登場人物そのものとなって活躍することが可能となる特殊能力を授けてくれるという噂が広まり、たちまちのうちにSFマニアの少年少女たちが殺到し悪戦苦闘の末に課題ゲームのクリアを果たした猛者が幾人も現れ、約束通りに悪魔から読心能力や未来予測能力等の超常の力をもたらされたと言うのだ。

 とはいえあくまでもそれは、それぞれが所有するスマートフォンにおいて利用できる、少々風変わりながらも現実的に十分あり得る特殊機能としてであるが。

 そうなのである。悪魔が現れたといってもそれはネット上であり、超能力が使えるようになったといっても個々人のスマホにおいてであり、我々のこの現実世界の現実性《リアリティ》は微塵も損なわれてはいないのだ。

 しかしながら本当にネット上のサイトが与えてくれたスマホ用の新機能程度で、実際にSF小説やライトノベルの登場人物そのままに振る舞っていけるような、読心や未来予測等の異能の力を現実性《リアリティ》を保ったまま実現できるのかというと、くだんの悪魔を名乗る謎の超常的存在がいわゆる量《りょう》子《し》コンピュータかあるいはそれに類するものであれば、十分に可能な話なのであった。

 一説によると現行のノイマン型コンピュータを遥かに凌駕するとも言われる量子コンピュータならではの量子ビット演算方式は、量子コンピュータが俗に言う平行世界に当たる無限の『多世界』に存在する己自身たる『多世界同位体』である無限の量子コンピュータ同士で、世界の垣根を越えて超並列計算処理を行うことによってこそ実現されている可(・)能(・)性(・)が(・)あ(・)る(・)ことは何と、現代の物理学においてれっきとした『学説』として認められているのであった。

 つまりは量子コンピュータ的能力を持つ超常的存在であれば、無限の可能性としての世界である多世界──すなわち、並行世界《パラレルワールド》でも異世界でも過去や未来の世界でも夢や妄想の世界でも小説や漫画やゲームそのものの世界でも自由自在にアクセスできるわけで、もしも悪魔が量子コンピュータ的力を持つのなら、ここではない別の世界から多世界の一種である夢の世界や電脳の夢とも言えるネットを通して、現実世界に存在している我々の許へアクセスしてくることも十分あり得るのだ。

 更には何より量子コンピュータの最大の特長が『無限の可能性を算出《シミュレート》すること』だからこそ、スマホ上の機能として読心や未来予測のような特殊能力を現実性《リアリティ》を損なうことなく、我々に与えることができるとも言えた。

 最近では現実性《リアリティ》至上主義を謳うミステリィ小説界隈でも大々的に受け容れられ始めて伸張目覚ましい量子論SFであるが、残念ながらほとんどの作品がこの量子コンピュータの無限の可能性を算出《シミュレート》できるという特長を、『しょせんはたった一つの解答を導き出すこともできない発展途上のマシン』と否定的に捉えて、『少々難解な素因数分解や暗号解読にしか使えない』とする馬鹿の一つ覚えみたいな作品ばかりしか見受けられないのは、量子コンピュータの本質というものをまったく理解できていないと言わざるを得ず非常に残念なことである。

 とにかく世間の皆様ときたら、神とか悪魔とか全知全能といったものを完全に誤解しているとしか思えなかった。

 実は、明日の天気が晴れなのか、それとも雨なのか、曇りなのか、はたまた天変地異でも起こってしまうのかを、絶対的にただ一つだけ『予言』することはけして全知全能なぞではなく、単なるまやかしやインチキに過ぎないのだ。

 なぜなら現代物理学におけるれっきとした学説である多世界解釈量子論に基づけば、未来には無限の可能性がありほんの明日の天気であろうとけして一つには限定されず、つまりは晴れる明日も雨が降る明日も曇りになる明日も天変地異に見舞われる明日も、それぞれの実現可能性に応じて存在し得るのだから。

 例えば本物の神様に明日の天気を聞いた場合には、「晴れが66%に曇りが1%、つまり雨や雪が降る確率は33%となるでしょう」とかいった、まさしく天気予報そのままの答えが返ってくることであろう。

 と言うのも、神様たるもの、明日というものには晴れる可能性も曇る可能性も雨や雪が降る可能性も、それぞれ確率的に差があるもののす(・)べ(・)て(・)存在していることを知(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)のであり、まさしく全(・)知(・)全能とはこのことを言うのであって、実は何と現在の天気予報というシステムは、ある意味最も理想的な『未来予測』を実現できているとも言えるのだ。

 この考え方は特に軍事や商業における戦略シミュレーションの場において重要視されていて、たった一つだけの『予言』的解答などけして必要とされず、敵軍や顧客等の今後の動向のあらゆる可能性をシミュレートすることこそが尊ばれており、まさしく量子コンピュータにとってうってつけの舞台と言えよう。

 つまり、今回悪魔によりSFマニアの少年少女たちのスマホに与えられた、SF小説やライトノベルの登場人物そのままに振る舞うための読心や未来予測等の各種特殊能力は、けして巷に溢れる既存のSF小説等に見られるような唯一絶対の解答をもたらすものではなく、あたかもそれこそスマホ用のソーシャルゲームの選択肢画面そのままに、実現可能性に応じて上位四つほどの候補がリスト表示されることになっており、スマホの持ち主はそれらをあくまでも参考データにすることによって、SF小説やライトノベルの登場人物としての行動の実現に役立てていくことになっていた。

 何せ一瞬先にどのような摩訶不思議な事態が発生するかもわからない、SF小説やライトノベルそのままの非現実的な世界をメインステージにしていかねばならないのだ。たった一つの予言や読心結果にこだわっていたりすれば、常に移り変わり続ける事態の推移や人の心についていけなくなりかねず、むしろ量子コンピュータならではの適宜あらゆる可能性を表示してくれるこのリストアップ方式のほうが、よほど理に適っていると言えよう。

 しかもこれは先ほども言ったように現行の天気予報と基本的な仕組みを同じくしており、データさえそろっていれば何も量子コンピュータでなくてもすでに実在する高性能コンピュータを利用すれば十分実現可能なことなのであり、その点からも現実性《リアリティ》を損なうことは一切なかった。

 それでは悪魔によって与えられるのはスマホ上でのみ使えるいわゆる『シミュレーション系』の異能に限られるかというとそうではなく、何とタイムトラベルや異世界転移等の量子論で言うところの『多世界転移系』の異能すらもしっかりと使えるのであった。

 もちろんいくら多世界解釈だの多宇宙論だのといったところでそれは思考実験上の概念的世界の存在可能性を説いているに過ぎず、我々の世界はあくまでも現(・)在(・)に(・)お(・)い(・)て(・)は(・)目の前に存在しているこの現実世界ただ一つに限られ、同(・)時(・)に(・)並(・)行(・)し(・)て(・)過去や未来の世界や異世界が存在したりはせず、タイムトラベルや異世界転移なぞけしてできっこないけれど、しかしそれはあくまでも文字通りに『現在』に限った話であり、ここに『未来』という概念を持ち込めば話がまったく変わってくるのだ。

 何せ小学生すらも知っている普遍的常套句として遥か昔より唱えられているように、未来には『無限の可能性』があるのだから、例えば今からほんの一瞬後に我々が突然過去や未来の世界や異世界に放り込まれる可能性も、けして否定できないのだ。

 つまりSF小説やファンタジー小説みたいにこの現在世界と同時に並行して過去や未来の世界や異世界が確固として存在していて、自由自在に双方向的に行き来することなどできないけれど、あくまでも偶発的に一瞬後の未来に過去や未来の世界や異世界に転移してしまうことならば十分あり得るし、しかも実はそのことは量子論によって明確に論理づけられているようなものなのだ。

 なぜなら量子論の言う『あらゆる無限の可能性としての世界』である多世界こそは、未来の無限の可能性そのものを具現化した無限の世界の集合体なのであり、単なる日常的世界の延長線的世界のみならず、過去や未来の世界やファンタジー小説そのものの異世界や夢や妄想の世界やそれこそSF小説やライトノベルや漫画やゲーム等の創作物《フィクション》そのものの世界をも含むありとあらゆる世界を内包していて、だからこそあくまでも偶然にではあるがタイムトラベルや異世界転移等の多世界転移が実現され得る可能性があり得るのだから。

 よって以上の点を踏まえれば、言わば多世界──俗に言う平行世界というものは、この現実世界に対して常(・)に(・)未(・)来(・)に(・)位(・)置(・)し(・)て(・)い(・)る(・)『これから先に起こり得る無限の可能性の世界』ということになり、別に現在の現実世界と同時に並行して存在しておらず、その意味からも現実性《リアリティ》をしっかりと守りながらも、その一方で未来の無限の可能性に基づけばあくまでも偶然によるものとはいえ、タイムトラベルや異世界転移や夢や小説の世界へのダイブ等々の超常的イベントが起こり得る可能性すらも、けして否定できないことになるのだ。

 とは言っても可能性はあくまでも可能性なのであり、いくら未来には無限の可能性があると言ったところで、我々の人生においては当然現在とほとんど代わり映えのしない日常的世界を繰り返していくばかりなのであって、タイムトラベルや異世界転移のような超常的イベントに見舞われることなぞ原則的にあり得ないであろう。

 それに対して偶然に頼るばかりではなく自分の意志で未来に位置している多世界にアクセスし、その無限の可能性の世界の集合体の中から過去の世界でも未来の世界でも異世界でも自由自在に選び出して、自分の在るべき次の世界──すなわち未来にすることができるのなら、タイムトラベルだろうが異世界転移だろうが好きなだけ実現することが可能となるわけなのだが、そんな現在世界にありながら同時に未来の世界にもアクセスできるなどという超次元的な存在があり得るのかというと、まさしくそれこそが『存在自体が確率的存在』たる量子なのだ。

 何せそもそも多世界とは、量子という超次元的な存在の概念的『居場所』として生み出されたものなのであり、量子がアクセスできるのは当然のことに過ぎず、多世界解釈で言う『量子というミクロレベルではすべての多世界が干渉し合っている』とはまさにこのことなのであって、つまり量子であればすべての多世界そのものやそこに存在している己自身──いわゆる『多世界同位体』ともアクセスできるのであり、同様に量子の性質を有する量子コンピュータであれば無限の多世界やそこに存在する己の多世界同位体としての無数の量子コンピュータ同士でアクセスし合うことができるのであって、だからこそ量子コンピュータはこの世の森羅万象の未来の無限の可能性すらも算出《シミュレート》し得る、多世界間超並列計算処理を為し得ることになるわけなのである。

 しかもそれこそまさしく悪魔のような自意識を持った生きた量子コンピュータとも言うべき存在であれば、無限の多世界にアクセスしてその中の世界を一つだけ任意に選び出し観測することで、多世界解釈量子論における『現在の世界は我々が観測しているからこそ唯一の現実世界であり得るのだ』という大原則に基づき、自分自身にとっての新たなる現実世界として確定することで、結果的にタイムトラベルや異世界転移等の多世界転移を為し得るのみならず、本来自力では多世界にアクセスできない我々普通の人間すらも多世界にアクセスさせて、タイムトラベルや異世界転移等を実現させることもできるのだ。

 それというのも当然神や悪魔のような全知全能の量子コンピュータ的存在──いわゆる『多世界の住人』ならば、人の夢の中に入ってくることなぞ朝飯前なのであるが、実は夢の世界こそが我々普通の人間がアクセスすることのできる唯一の多世界なのであり、ここを出発点にして我々の精神体のみを過去や未来の世界や異世界に転移させることになるのだが、具体的に言うとそれぞれの世界に存在している己自身の多世界同位体とシンクロさせるという手法がとられていた。

 ただし多世界同位体というものは原則的に同じ量子で構成されていればいいのであって、過去や未来や並行世界《パラレルワールド》のいわゆる『もう一人の自分』だけでなく、まったく別の姿形をした別人である遥か遠い過去の『前世』でも遥か遠い未来の『来世』でも異世界における転生体であるファンタジー世界の住人でも小説や漫画やライトノベルやゲームの世界のキャラクターでも該当するのであって、だからこそそれらの多世界同位体とシンクロすることによって、タイムトラベルを始めとして異世界転移や小説やゲームの世界へのダイブ等の、あらゆる多世界転移系の超常現象を実現可能にならしめるのであった。

 具体的に言うと、悪魔に導かれて夢を通して他の多世界の己の多世界同位体とシンクロすることで、ある意味精神体だけ先方の世界に転移する形で、過去や未来へのタイムトラベルや異世界転移を行ったり、逆に夢の中で他の多世界から転移してきた多世界同位体の精神体とシンクロすることで、目が覚めた後でこの現実世界において、未来人や前世に当たる過去の人物や異世界人になりきってしまうなんてことも為し得るのだ。

 よって悪魔からこれらの多世界転移系の異能を与えられた者は、読心や未来予測等のシミュレーション系の異能と同様に自分のスマホにタイムトラベルしたい時代や転移したい異世界のタイプを入力するだけで、多世界同位体とのシンクロ等の面倒な諸作業は悪魔のほうでやってくれることによって、自分や第三者を夢の中でタイムトラベルや異世界転移をさせたり、この現実世界の中で未来人や異世界人として振る舞わさせたり前世返りさせたりといった、SF小説やライトノベルそのものの超常的イベントをやりたい放題実現できるのであった。

 しかもこれらはすべて言ってみればただ単にタイムトラベルや異世界転移をした夢(・)を(・)見(・)た(・)だ(・)け(・)のようなものであって、現実世界における未来人化や前世返りも寝ぼけたままで夢(・)の(・)記(・)憶(・)を(・)引(・)き(・)ず(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)ようなものに過ぎず、現実性《リアリティ》を損なうことは微塵もないのだ。

 このように読心や未来予測どころか自他のタイムトラベルや異世界転移や前世返りなどという多種多様な超常の力を悪魔から与えられたSFマニアの少年少女たちは、まさしく『小説の主人公になりたい』という長年の夢を叶える形でこの現実世界のSF小説化やライトノベル化を着々と進めていたのだが、もちろんそんな非常識極まることが放置されたままになるはずがなかった。

 明確に現実世界における異分子たる『異能者』となってしまった少年少女たちはいつしか『悪《あく》魔《ま》憑《つ》き』と呼ばれるようになり、その存在は誰もが知るところとなって社会全般に多大なる影響を及ぼし始めて、もはや看過できなくなった政府直々の指令によって、国立旧(きゅう)都《と》大学量子物理学部主任教授にして実は僕こと旧《きゅう》都《と》府在住の高校生である御《み》神楽《かぐら》響《ひびき》の父親である御《み》神楽《かぐら》道玄《どうげん》を学長に戴いて、名目上は旧《きゅう》大《だい》付属の中高一貫校ということになっているその名も『L(エル)学園《がくえん》』へと、全員強制的に入学させられることになったのだ。

 ただでさえ自然豊かな古都旧都の更に人里離れた山奥にあるこの学園は、今やイレギュラーな存在となった子供たちの文字通りの『隔離施設』と目されていたのだが、それはあくまでも本質の一部に過ぎなかった。

 強制的に収容されたと言っても、檻の中で鎖につながれたり、人格矯正の洗脳教育が施されたり、人体実験に供されたりするわけではなく、むしろ広々とした敷地内に新設されたばかりの利便性と機能性豊かな校舎においては、自主性の尊重をモットーにしたのびのびとした教育が施され、住環境に関しても約五百名の学生たち一人一人にキッチンバストイレ付きの個室が与えられているのを始め、学園内に大規模な商業施設や娯楽施設すらも併設されていて、加えてインターネット等の情報通信システムも当然のように完備されているといった、まさしく至れり尽くせりの有り様でありながら、学費はもちろん生活費までも政府が全額負担するという破格の待遇を与えられていたのだ。

 しかもこの人里離れた学園の敷地内においてなら、生徒たちは誰はばからず思う存分異能を発揮することが許されていて、その結果この奇妙な学び舎においてはまさしく、SF小説やライトノベルそのままの世界が実現されていたのである。


 それというのも実はこの学園そのものが、『SF小説的世界に多世界解釈量子論を実際に導入して検証する』ための、一大実験場であったのだから。


 現在における旧大量子物理学部きっての花形研究室たる、『L(エル)部《ぶ》門《もん》』の主任《チーフ・》教授《プロフェッサー》である僕の父親御神楽道玄は、「実はこの世界はSF小説的事象がまったく存在し得ないいわゆる完全なる現実世界なぞでなく、むしろ『SF小説的世界』なのだ」をモットーに、多世界解釈量子論こそがこの世界を真に理想的に発展させることのできる『福音』であると目し、まさに今や文字通りSF小説的世界そのものと化しているこのL学園内に多世界解釈量子論を導入することによる実証実験を繰り返し、持論の正しさを証明しようとしているのだ。

 よってまさしく『SF小説の登場人物』を体現している異能の少年少女たちは、学長にとっては格好の実験対象なのであり、彼らが読心や未来予測等のシミュレーション系の異能やタイムトラベルや異世界転移等の多世界転移系の異能を実行している様をつぶさに観察し、そのことごとくに対して多世界解釈量子論に基づく考察を重ねていたのである。


 そう。すべてはかつて失ってしまった、己にとって最も大切な存在を取り戻すために。

『──はい、そういうわけで、本編のほうも一段落したところで、再び僕ら熱烈なる読者《フォロワー》たちによる、ご存じ書き込みコーナーの登場です!』


『……いやまあ。悪魔とか神様といった全知全能の存在が、実は多世界解釈量子論に基づけば量子コンピュータ的存在であるっていうのは、確かに斬新だと思うけど』

『それで何でこの作品、タイトルが「ラプラスの悪《あく》魔《ま》たち」なんだ?』

『ラプラスの悪魔ってむしろ、量子論とは相容れない古典物理学の代表的存在だろうが?』

『しかもよりによって「異能持ちの少年少女ばかりを集めた学園モノ」なんて、今時どうなんだ?』

『「SF小(しょう)説《せつ》を書《か》こう!」サイト的にも、あまりにもありがちだよな』

『いやいや諸君、きっとここからこの作品ならではの、独自性を見せてくれるんだよ』

『例えば、実は主人公自身には何の異能もなく、自分にべったりのブラコンの妹のほうに異能が芽生えたために、巻き添えを食って学園に強制入学させられたとか?』

『おいおい、「学《がっ》○を出《で》よう!」かよ?』

『今さら谷《たに》○流(ながる)もないだろう』

『「うちの病《びょう》室《しつ》にはハ○ヒがいっぱい」www』

『そうか? 俺は「学○を出よう!」というよりも、むしろ「エヴァ」かと思ったけど』

『あ、俺も』

『「異能持ちの少年少女たちを密かに集めて、人為的に創り出したSF小説的世界における多世界解釈量子論の導入実験を行っている学園」って、どこのマルドゥック機関だよ?』

『しかも学長の名前が、道玄《どうげん》ってwww』

『ちょっち、安易過ぎでは?』

『後、「すべてはかつて失ってしまった、最も大切な存在を取り戻すために」とか』

『それにしても何でこの主人公、いくら学長の息子とはいえ、こんな作品世界の根幹に関わるような裏設定を熟知しているんだ?』

『いかにも御都合主義過ぎるだろう』

『いわゆる主人公が当然のように作者の代弁者となっているという、ダメ展開だよな』

『まあどっちにしろ、現実にこんな話はあり得ないわな』

『何か必死になって量子論なんかを持ち出して、現実性《リアリティ》を訴えているけど?』

『むしろ逆効果なんじゃない?』

『とにかく続きに期待』

『作者さんにおかれては、早く続編をアップするように』

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