18話 裏切り
◇ 裏切り ◇
翌日、橘彩に木村の話を伝えた。
橘は最初から最後まで黙って聞いた。「わかった」と言った後、二時間後に「博打場の男を追い払う方法を考えた」と戻ってきた。
橘の案は、役所に告発することだった。転移者を違法な賭博に引き込んで奴隷商人に売ると脅す行為は、ガレンの法でも違法らしかった。証拠の問題はあったが、役所に動く理由を与えられれば動く可能性があった。
「ただし時間がかかる」と橘が言った。「今すぐ木村を守る方法にはならない」
「その間に奴隷商人に売られたら」
「対策が必要だ」
二人で話していると、外が騒がしくなった。
足音が複数。建物の周囲を囲む音がした。
誠は立ち上がる前に、橘が窓から確認した。「外に四人いる」と橘が言った。静かな声だった。
「正面の出口は使えない」と誠が言った。「裏口は」
「一人いる」
「一人なら突破できる」
誠は後ろのドアに向かいながら、中にいる他のメンバーに手振りで伝えた。静かにしろ、こっちに来い。四人が動いた。
裏口のドアを蹴破った。外に一人いた。男が驚いた瞬間に誠が走り込んだ。ぶつかって男が倒れた。立ち上がれないうちに走り抜けた。橘と三人が続いた。
路地を走った。曲がった。また曲がった。声が後ろで上がった。
二十分後、別の路地に滑り込んで息をついた。
全員いた。怪我はなかった。
誠は呼吸を整えながら、頭の中で整理した。
「どこで居場所がバレたんだ」と橘が言った。
「一人しかいない」と誠が言った。
橘が誠を見た。「木村?」
「木村だ」
誠には確認する必要がなかった。男たちが自分たちの建物の位置を知っていた。自分の部屋の番号まで。それを知っている人間は、メンバーの中にしかいなかった。
「証拠は」と橘が言った。
「ない」
「でも決めてる」
「決めてる」
その後しばらく黙って、二人は路地の石壁に背を預けていた。
誠は木村のことを思った。賭博で負けた。追い詰められた。「一つだけ方法がある」と博打場の男に言われた。誠の情報を渡せば借金を帳消しにしてやる——おそらくそういう流れだった。
木村は断れなかった。
断れなかった木村を、誠は責める気持ちになれなかった。それが問題だった。
怒りがないわけではなかった。ただその怒りより大きいものが、別にあった。
「次はどうする」と橘が言った。
「明日の朝、木村と話す」と誠が言った。「話した後で、俺たちはここを出る」
橘は何も言わなかった。




