【番外編1】カディル・テレシアとその婚約者
カディル・テレシアは次期伯爵として学園を卒業し2年、テレシア伯爵家にて父クラウスの補佐をする日々を送っていた。
それは次期当主としての教育の一環であり、数年後には彼が伯爵家当主となる予定である。
彼にはシャーロット・ウェンサーという婚約者がいる。
近々二人は結婚する予定であり、シャーロットは次期伯爵夫人としてテレシア家の別館にはいり嫁入り修行をしていた。
二人の仲は良好であり、昼食後のひと時は交流のための時間を設けている。
「来年、リリアは学園に入学されるのよね?」
「礼儀作法の先生からも、基礎教育の先生からも、魔法の先生からも合格をもらっているから、心配はいらないとよ」
「えぇ、それはわかっているの。リリアは立派な淑女よ。でも心配なのよ」
「何が心配なのかな?」
カディルは手のしていたカップを戻す。
今は気軽な二人だけの茶の時間である。
だがそれは、ただ婚約者との仲を深めるための茶の時間ではない。
現状の確認、結婚式の段取りの進捗の共有、そして将来の伯爵家についてのこと、その日その日の会話で互いに誤解を生まぬよう誠意をもって意思疎通をするため時間だ。
特に、シャーロット・ウェンサーはウェンサー伯爵家の出で、港町を持つウェンサー伯爵家と王都近くにあり交易都市として名高いテレシア伯爵家との窓口でもある。
彼女の嫁入りは、ウェンサーで陸揚げされた交易品の関税や管理など諸問題に対して、互いに有利な条件とし、より利益を上げるための政略があってのものだ。
当然二人ともそのことは理解したうえで信頼関係を築いてきた。
「特殊な魔力をお持ちなのはわかっているけれど、やはり伯爵家で一属性というのは周りの目が気になってしまうのよ」
シャーロットは素直に胸の内を伝える。
二人だけの時間で貴族的に言葉を繕い、あまつさえ誤解を与えるような言い回しをする必要はない。
十二歳で婚約した二人はすでに六年の仲である。
「一般的な考えならそうだろう。でもテレシア家はリリーのことを心配していないよ」
「亜空間魔法は便利だとは聞くけれど、攻撃はできないと聞いているわ。やはり攻撃魔法が使えないというのは伯爵令嬢として瑕疵にならないかしら?」
「そこは大丈夫。夏の終わりの狩猟会でリリーの実力を示せると思うよ」
「何か秘策があるの?」
「ある、リリーは攻撃魔法が使える」
カディルがにやりと笑うと、シャーロットは目を点にした。
リリア・テレシアが亜空間魔法 ”しか ”持たないという事は知っていた。
伯爵家に生まれたのに ”一属性しかない” というのは高位貴族として外聞が悪い。
それは本来 ”一属性しか持たないと魔物を倒すための攻撃魔法がつかえない” というところからきている。
攻撃魔法が使えないというのは、いかに政治的な統治能力が高くとも領地を魔物から守ることができないというレッテルが貼られる。
ゆえに、領地を持つ上位貴族は二属性が必須というのが一般的な考えだ。
だが、一属性でも攻撃魔法が使えるとなると話は変わってくる。
魔物を倒すことができるなら、一属性であろうとも伯爵家の人間として何も恥ずかしくはないのだ。
「一属性でも攻撃魔法が使える……確かにそれだけ聞けば侮られてもすぐに見返すことができますわね」
「そうさ、仮に学園で馬鹿にするようなヤツがいたとしても、実地訓練で黙らせることができる。何も心配はいらないよ」
カディルの言葉にシャーロットは一応は納得した。
とはいえ、やはり伯爵家に生まれたにもかかわらず1属性しか持たないというのは何とも不憫だと彼女は思ってしまうのだった。




