8.テレシア伯爵家の狩猟会
夏の終わりごろはどこの領地でも領主主催の狩猟会が行われます。
領内の貴族の交流会であり、秋の終わりから始まる王都での社交シーズン前のテレシア伯爵家につかえる下位貴族たちとの整合会といった側面が強いです。
場所は領内のテレシア樹海で行われます。
樹海と人が住む領域の境目は人の手が入っていて、領内で使う木材の生産を担っており、シカやイノシシといった野生動物のほかに、弱い魔物がいます。
弱い魔物であれば、魔法が無くても倒すことができるため、普段は猟師たち狩りをし肉を市場に卸していますし、こうして貴族の娯楽の一つとして狩猟会が行われます。
もともとは冬に向けての保存食確保のほかに、食べ物が少なくなる時期に魔物が人里に降りてこないように間引く意味合いもある伝統的な行事です。
集まったのはテレシア伯爵に仕える子爵家3家と男爵家16家、伯爵領を支える貴族たちで、大きく子爵が領地のうちテレシア家直轄地以外の地域をそれぞれ分担して、代官として領地経営をサポートしてもらっていて、その下にそれぞれ4家の男爵家が連なっています。
男爵家の多くは文官や兵団長であり、テレシア伯爵家を支える者たちです。
この狩猟会は政治色が強くて、父をはじめとした男性陣が狩猟中に、茶会を開くお母さまとお兄様の婚約者のシャーロット様たちが、男性陣の代わりにある程度の交渉を進めて、夜にお父様たちで本決定するための晩餐会を開くといった感じです。
私たちに直接的な政治のかかわりはまだありませんが、私の場合これから行く学園での地盤固めという意味合いがあって、とても重要な場なのです。
両親には、私の実力を示して未だ私が一属性であることを侮り、学園入学時に私に従わない可能性のある令息や一部令嬢たちを黙らせるという意味合いもあって、狩猟会に参加します。
十二歳になるとテレシア伯領では狩猟会やお茶会に出ることができるため、今日初めてこの狩猟会に来る子供たちも多いのです。
「今回は狩猟会にリリア様がご参加になるらしい」
「特殊属性とはいえ一属性であろう?カディル様がしっかりと二属性の上級魔法を扱えなければ伯爵家が危ないところだったな」
私は騎士服に身を包み、軽装な革鎧を付けたいでたちで狩猟会が始まるのを待っているのですが、私の後ろでお兄様と同じぐらいの世代の人たちが私のことを侮る発言をしています。
聞こえないとでも思っているのでしょうか?
次期当主であるカディルお兄様の評価は皆が次期当主として認めているようですが、伯爵家の娘であるにもかかわらず特殊属性とはいえ一属性しか持たない私は ”政治的な価値” が低いと考える大人たちがいることは分かっていました。
だからその次期当主たちも同じような考えになってしまっているのでしょう。
その言葉は私を少なからず傷つけました。
「お兄様……」
「大丈夫だ。リリーは強力な攻撃魔法が使える。この狩猟会でその実力を見せれば大人たちを見返すことができるさ」
「……はい、お兄様」
「じゃあ僕は向こうに行くよ」
そういってカディルお兄様は私を励ましてから大人たちの集まりへ向かっていきました。
今年すでに成人しているお兄様は、大人たちと一緒に狩猟会です。
私は長く息を吐き胸のどきどきを抑えます。
何を心配することがありましょうか! 私は攻撃魔法が使えるのです!
魔法の先生にも何も問題なく魔物を倒せるでしょうと言われたのですから大丈夫です。
この狩猟会で私を侮る奴らを見返してやります。
私は伯爵令嬢として何の問題も不自由もない教育を受けさせてもらったし、両親にもちゃんと愛されています。
私は今まで教育された内容を思い出しながら姿勢を正します。
「では、狩猟会を始めます」
テレシア家の家令が号令をかけて旗を振る。
大人たちは馬を進め森の奥へと入っていきます。子供たちは森の手前、普段猟師たちが狩りをする場所で獲物を探します。
私は魔法を使えるので手ぶらですが、令息たちは自分の得意な武器をもって参加しています。
剣や槍、弓などを持ち、軽装な革鎧を着けていますね。
「武器も持たずに狩ができるのか? 女の子ならお茶会に参加していればいいのに」
「伯爵家の生まれで女だからといって、一度も狩猟会にでないのもまずいからだろう。でも一属性しか持っていないんだろ?武器も持たずにどうするつもりなんだ?」
年の近い令息たちが遠巻きに私を見ながらこそこそ話している声がちゃんと聞こえます。
でも気にしません。
魔法を使うときはしっかり集中する。先生の教えを思い出しながら獲物を探します。
森に入り周囲を見回しながら進みます。
私たち子どもが狙う狩猟対象はウサギやキツネ、鳥などの比較的小さい動物がメインです。
とはいえ逃げ足が速く、簡単に捕まえられる獲物ではありません。
私には関係ないことですが……
『ウサギだ……よく狙って……』
声を出さずウサギを見据えて魔法を行使します。
二段階に発動した亜空間魔法で、最初にウサギの頭が飲み込まれた後で、体を丸ごと亜空間に移動します。
私が行っている魔法は首を亜空間を使って切断し、体だけを別途 ”収納” しています。
これが私が練習していた攻撃魔法です。
はじめのうちは余りの倒し方に私自身もおののきましたが、もう慣れました。
むしろ一緒についてきてもらったうちの護衛達がやる狩のほうが自分で刃を立て首を切ることを考えると残忍な気がします。
私のやり方なら血はほぼ出ませんから。
同じように道中見つけた弱い魔物である角ウサギやウォーカーマッシュルーム、オオコウモリも同じ方法で倒します。
森の中の浅い場所で出会う事がある強い魔物といえばスライムで、粘菌状のボディーはコア以外に物理攻撃が効かないので慣れていないと倒すのが大変です。
攻撃魔法が使えれば簡単に倒せてしまいますし、動きが遅いので倒せないようなら逃げてしまえば危険はありません。
でも私にかかれば、そんなスライムも一瞬で狩れます。
コアを直接亜空間で切断してしまえばいいからです。
「まじかよ……リリア様がス、スライムを倒したぞ」
「目につく獲物は全部狩られちまう」
だんだんと令息たちの顔が青ざめていくのが見えます。
これで私のことも見直してくれるでしょうか?
一般的な魔法と違って、私の場合は無詠唱でこれだけのことができるのですから、二属性を使っての攻撃魔法とそん色ないでしょう?
狩猟の時間が終わり、皆で獲物を見せ合うとなったとき、大人たちを含め、茶会をしていた女性陣も私が狩ってきた獲物にとても驚いていた。
すでに血抜きされきれいな毛皮のウサギ、血の汚れや傷のないキツネの胴体、他にも首だけを切断された小型の魔物と、真っ二つにされたスライムのコア。
亜空間から次々と取り出した成果を見た人たちは、私に向かって一属性だからなどという言葉を二度と言わなくなりました。
大人でも攻撃魔法が使えないと手間取るスライムをいとも簡単に倒したことも影響しているようですけど、私の狩りの仕方に恐怖したみたいです。
狩猟会が始まる前に私を侮る発言をした令息のセリフが忘れられません。
「俺は、あんなふうになりたくない。しっかりリリア様をささえる」
なんだか相当な恐怖を与えてしまったようです。
領地の統治方法について補足
伯爵=県知事 子爵=市長 男爵=町村長 なイメージです。
さらに、男爵の中には騎士団を取りまとめる隊長の役職の人が居たり、伯爵家の家令も男爵位をもっていたりします。




