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トランスpt.  作者: 夢のもつれ
第2章 旅は道連れ
10/14

10.ポールサイモンはアメリカを探して福井まで来た

 バス乗り場に向かおうとすると黒百合が肘を引く。

「駅まで歩いて行ったらどれくらいかかる?」

「1時間くらいかな。歩きたいの?」

「うん」

 暗くなりかかってたけど、ひんやりした森の空気が気持ちよくてOKする。森とか林の香りをずっと嗅いでなかった。不便な田舎から離れない理由なんて本人だってわかんないだろうけど、この香りじゃないかって密かに思ってる。


 恐竜博物館の感想を弾丸トークしてくるかと思いきやなんかひっそりしてる。それもいいだろうと思ってぼくも黙っている。鴉の鳴き声が聞こえる。やがて黒百合が静かにつぶやく。

「あたし、自分自身にずっと違和感があって。学校の同級生も、教師も親もそんなことなさそうなのに……」

 そういうことが言いたくて歩こうと言ったのか、歩いてるうちにふと言いたくなったのか。

「それって自分の見た目と中身との違和感とか?」

「あ、やっぱりわかります? おねえさんもそういう人かなって思ってた」

 けっこう当てずっぽうに言ったんだけど、正解だったか。誰でもそうだよ。いや、違うかな。多くはないか。マイノリティか。ぼくは元々が内と外で違和感のある人間だったのが脳移植なんてされたからぐちゃぐちゃだよ。あれ? そうでもない?

「今は違和感は違和感のままで、問題自体はかえって整理されてるような」

「大人ですね」

 あまりお勧めできない整理方法だよ。

 この子はたぶんずっとこのまま。元のどうしようもない自分がそうだったように。


「そういう人かなって、どうしてそう思ったの?」

「時々自分の中を見てるような目をするから」

 即答かよ。

「どうして目を押さえてるんですか?」

 この目はぼくのじゃないって思ったらつい(まぶた)を押さえてしまった。

「目って脳に直結してるよねって思って」

 それをちゃんと繋いで目に表情まで宿すようにした鮫島は確かに天才かも。

「おねえさんって変わってますね。あたしが言うんだから間違いないです」

 そういうご指摘は貴重なご意見として承っておきますが、謹んでスルーさせていただきます。

「ホントに暗くなってきた。東京じゃこんな暗闇は到底味わえない」

「大船もそうですよ」

 

 またちょっと間が空いたからスマホで『勝山』を検索する。

「越前大仏って近くにあるけど、行ってみる?」

「行きたいんですか?」

 ぼくは一般的にって言い方も変だけど、観光地には一般的に興味がない。どこも似た感じがするから。

「ううん。大きいらしいけど、観光大仏って感じだし」

 観光大仏なんて言葉があるのかどうか知らないけど、ニュアンスはわかってもらえるだろう。直截に言うのもあれだし。考えてみればもう閉館か。

「あたしもです。遠足とかで行く観光地って好きじゃなくて。でも、恐竜博物館はパワーを感じました。ロックです!」

 それからしばらく恐竜博物館とロックを熱く語っていた。元気がないような気がしてたのが杞憂みたいで、ほっとした。ぼくもロックの歴史を語りたい衝動を押し殺した。Queenはともかく、ジャニスジョプリンやマークボランはまずいだろう。ぼくよりずっと若くて、黒百合の年齢より10歳ちょっと上で死んでしまったロックレジェンドなんて。


 三日月に灯がともり、シリウスが姿を見せた。カーブを抜けたところで、急にはらはらと涙をこぼし始めた。お腹が痛いわけじゃなさそうだ。

「おねえさん、あたし自分がわからなくなって」

 え? 3拍子系のギターが響く。

  "Kathy, I'm lost", I said,

  Though I knew she was sleeping.

 サイモンとガーファンクルの「アメリカ」のキャシーにまさか自分がなるとはね。こういうことはベッドの中で言って欲しかった。寝たフリして聞き流せないじゃないか。

「そういうことあるよ。……人生においてはそれが必要だったりするんだよ。たぶん」

 もちろん涙を止めることはできない。だって心って時々理由もなく痛むんだから。

「でも、空しくて、苦しくて……」

「うんうん、どうしたらいいかわかんないよね」

  "I'm empty and aching and

  I don't know why."

 歌詞は不思議なほど彼女の気持ちをなぞっている。肩をさすってあげるとひっく、ひっく言ってたのが落ち着いていく。

 何十年も経ってるのにポールサイモンにまた助けられた。ジョンレノンだって言う人もいるだろうし、ボブディランって言う人もいるだろう。彼らの詩は言葉だけじゃなく、彼らの歌やギターがあるからこそ心に留まっている。

  All come to look for America.

 それにしてもぼくらの『アメリカ』は何だろう。どこにあるんだろう。みんなが探しにやって来るものなんて今どきあるんだろうか。


 勝山駅が見えてきた。誰か立っている。若い女性だ。

「美原さん、探しましたよ!」

 駆け寄るようにして叫ぶ。すごくうれしいけど、ちょっと気まずい。

「梯さん?!」

「おねえさん、この人誰?」

「この子誰ですか?」

 突然の修羅場だよ。女性3人だけど、ぼくの直感に間違いはない。ぼくはラノベやアニメの主人公みたいに鈍感じゃないんだ。誰?なんてモテ気だよ。たぶん。

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