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コンクリートジャングルオブハザード  作者: バッド
18章 国を建設してみよう

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286話 天空からの国家宣言

 冬も近く、人々が着ている服装も暖かい格好が増えている。枯れ葉が地面に積み重なり、足早に歩く人も増えている。


崩壊したあとの初めての冬では関東圏内であるのに、大雪となり苦労したことを覚えている人々は服屋にて暖かい服を買い込み、コタツを設置し始めている者もいる。


 冬が近づいて、忙しなく冬ごもりの準備をしているその姿は崩壊前では考えられない。ひっきりなしにエアコンを使い、どこに行くにしてもエアコンが家をビルを店を暖かくしていたので、事務職の人間などはあんまり冬という感触を得なかっただろうが、今は雪も降りしきり、吐く息は白く手は凍え厚着が必須となっていた。


 その為、秋も終わる傍らで冬の準備をしていた人々であったが、今日だけは各所に設置されたモノリス状のモニターの前へと集まっていた。


 これほど集まっていたのは若木シティが若木コミュニティと呼ばれ、大樹傘下となると宣言された時以来である。


 そして今若木シティに住んでいる人々は当時の比ではない。


 ラッシュ時のように人々がモニターの前へと集まり固唾を飲んで待っていた。


 那由多代表による国家設立宣言を。


「いやいや、すごい人だね~。こんなに人が多いんじゃはぐれて迷子になる子供もいるかもね」

「これほどの人々が集まるのは最初で最後なんじゃないか?」

「日本が良かったけど、時代が許してくれないんだろうね~」


 それぞれが隣と話し合う中で、モニターに映る内容は変わっていく。


 大統領記者会見のような部屋にて那由多代表が百地若木シティ代表と話し合いが終わり、正面に向き直ったのだ。


 それと共に、驚いたことに巨大なホログラムが若木シティの上空に浮かぶ。この日を見逃さないようにと。そして強大な技術に裏打ちされた自信のある態度を見せるために、那由多代表が映し出される。


 そうしておもむろに口を開く那由多代表。相変わらずの鋭い眼つきと、鷲鼻で不敵な笑みを口元に浮かべている。


「まずは最初にお礼を言おう。諸君、崩壊後に復興に邁進してきた諸君。今この立場に私が立っているのは他でもない、諸君らの復興の力によるものだ。感謝をこめて言おう。ありがとう」


 那由多代表にしては、低姿勢な態度であるがこれからの宣言を考えると当たり前かもしれないと人々は思う。


「そして、これからは君たちは新たなる国家の一員となる。その国家の名は大樹。企業国家大樹となる。企業運営を基礎とした国家である。国旗はこのような形となる!」


 片手を振り上げて那由多代表が合図をすると、ナナシと呼ばれた男が持っていた布を広げる。


 そこには深い緑色を背景に半透明なクリスタルでできているように見える大樹が描かれていた。


 おぉ~と人々は感心する。名前の通りに大樹をシンボルとするらしい。


「これからはこの国旗の元に国家を運営していこうと思う。これからの人々の生活を豊かにしていくことを私はここに誓おう」


 周りを見渡すように那由多代表は顔を動かして、そのあとに告げる。


「ここに大樹国が設立された! 今、この時より! 諸君らは大樹の国民となる! これからの大樹に繁栄を!」


 その宣言と共に見ていた人々は、おぉ~と叫び始める。もう根無し草の生存者というわけではないのだと。


「本日は国家設立日として祝日とする。それと以降は祝日を含めた新たなる暦法で扱われる。最後にこの時から大樹元年として暦を改めることとする!」


 おぉ~と益々人々は驚きの声をあげる。祝日は日本の物はすでに使用されていなかった。たんに土日が休みとなっていただけだ。だが、それに加えて新しい暦法が作られるらしい。そこには祝日も加わるだろうことは間違いない。


 そして一番の驚きは西暦を止めて新しい暦とすることであった。


 その中で同じようにモニターの前へと集まっていた二人。


 織田椎菜と不破結花はお互いの顔を見合せた。


「西暦は終わりかぁ~。椎菜はどう思う?」


 人々が予想外の内容に騒ぐ中で、結花が椎菜へと声をかける。


 う~んと少し悩んだ椎菜であったが、ケロリとした表情で返答する。


「カレンダーも全部大樹元年となったら、気にしなくなるんじゃないかな? 崩壊前と崩壊後できっちりとわかる感じもするし」


 両手を頭の後ろにそえて、結花はふんふんと頷く。


「たしかにそうだね~。周りが使っているから西暦を使っていたけど、誰も使わなくなったら新しい暦になるもんね。でも自分の年齢を数えるのが面倒くさいかも」


「大樹元年に生まれる子供はその点、楽だよね。というか崩壊前の出来事を伝えてもおとぎ話にしか聞こえなくなるのかもね」


「そんな日が来るのかぁ~。たしかにそうかもしれないね。それなら私たちは旧世代の人間になっちゃうね。なんかお婆さんになった気分でちょっと微妙~」


 ふふと椎菜は結花の言葉に笑う。旧世代、たしかにその響きだと一気に自分がお婆さんになった感じがするから不思議なものだ。


「でも、私たちはまだまだ10代だよ? 若さを満喫しないと」


「むふふ、その通りでございますな、椎菜様。そんな椎菜様にお伝えしたいことがあります。あそこに生クリームたっぷりのクレープ屋さんが見えるよ! 行こう、今日はお祭りだよ!」


 結花がグイグイと椎菜の手を引っ張り、クレープ屋まで連れて行く。本日は恒例の祭りとなり、格安すぎる食べ物を屋台が軒を並べて売っているのだ。


「あははっ。も~、結花ったら、お腹を壊すほど食べちゃダメだよ?」


 クレープ好きは相変わらず変わらないと笑顔で結花へと注意をして、椎菜はクレープ屋まで向かうのであった。




 国家設立宣言は各所にて祝杯をあげていた。


「かんぱーい! 新しい国家に!」


 水無月シティでも、祝杯があげられて人々が笑顔で料理を食べながらこれからの将来について話し合う。


「う~む………。まさか儂が生きている間に国家設立の日を迎えるとは考えてもいなかったな」


 水無月当主、水無月志朗は唸りながら酒をあおる。


「そうですね、お爺様。こんな日が来るとは崩壊前の私が聞いても信じることはできませんでした」


 お淑やかな声音で、穂香が志朗のグラスにお酒を注ぐ。


「ふふん! そんな国家でお爺ちゃんは重要人物だね!」


 快活に晶が胸をはって話に加わる。


「ふん、もはや儂も歳よ。息子にあとは任せる時も近い」


 志朗の息子はここにはいない。今は大樹本部へと百地たちと共に行っている。


「そんなこと言って、まだまだ元気な癖に~」


 うりうりと志朗の頭をつつきながら、晶がからかいをいれるので苦笑いを浮かべて答える。


「国家か………。落ち着くまでは儂は目を光らせていくつもりだ」


 大樹の傘下になったときと同じような言葉を言う。


 そんな、水無月志朗の言葉に、苦労人だなぁ~と周りは苦笑して、宴をますます楽しむのであった。




 若木シティの中央ビル屋上にて、モニターの前で国家設立宣言を聞いた後に移動した昼行灯とコマンドー婆ちゃんたちはゆっくりと酒を飲んでいた。


「いやいや、ついに国家設立ですか。たいしたものです。このまま大樹の勢力が広がれば世界支配もできるかもしれませんね」


 昼行灯が酒を飲みながら呟くように言うと、頭をスパンと叩くコマンドー婆ちゃん。


「なんだい、本部へと行けていないじゃないか? 普通に爺たちが行っちまったよ。これからどうするんだい?」


 コマンドー婆ちゃんがグイグイと酒を飲みながら不機嫌そうに尋ねてくるのを、昼行灯は肩をすくめて表情と答える。


「これから本部へと若木シティの面々が行くことも増えるでしょう。その中で紛れ込みたいのですが、対抗勢力を見つけたいですよね。必ず那由多代表と違う派閥があるはずです。どんな勢力でも3人以上集まれば派閥ができますからね」


「派閥ねぇ。アタシが苦手な分野だね、武器を振り回して戦っていた方が全然マシさ」


 嫌そうにコマンドー婆ちゃんが言って、周りの爺ちゃんズも同意の頷きをする。


「いえいえ、これからは私たちは国家の軍隊です。東日本の制圧に動くという噂ですし、活躍の場はいくらでもあります。そして活躍をすればするほど対抗勢力の派閥も私たちを気にするでしょう」


 昼行灯の言葉にコマンドー婆ちゃんは凶暴そうな笑みを浮かべて


「そうかいそうかい。ならアタシたちはこれからも頑張っていこうじゃないか。精々化け物たちを倒す際に目立つとしようじゃないか」


「あぁ、死なないでくださいよ? 私の計画が狂ってしまいますので」


 口元を曲げて静かに笑い昼行灯たちは酒を飲みながら、これからの計画を話し合うのであった。





 関東地区であれば、那由多代表の巨人と思わせるホログラムは映って見えた。


 そしてそれほどの大きさであれば、関東地区からではなくとも、双眼鏡でも使えばその姿は見えた。


 木のてっぺんにフードを被って顔が見えない人物が見えた。木のてっぺんに立っているにもかかわらず、枝は折れることもなく、またその重みで軋むことも弛むこともない。


 それだけで異常を感じる姿であったが、周辺にも数人フードを被った人物がいた。それらは空中に浮いており、中心の人物を護衛するように囲んでいた。


「いやいや、凄いね。あんなでっかいホログラムを作れるなんて彼らは未来から来たのかなぁ?」


 感心しきりの言葉は中心に立っている人物から出された。まだ年若いような声音で楽しそうに言う。


「創造主様。あれは所詮人間が作ったものです。我らの力には遠く及びません」


 すぐそばの人物がぼそぼそと不機嫌そうな声音で中心の人物、創造主と呼ばれた人物へと声をかける。


「力はたしかに君たちの方が全然上だろうね。僕が感心しているのはあの技術さ。人間がまさかこんな短時間で復興をして、まさかあんな技術を開発しているとは思いもよらなかったよ。やっぱり映画とかと違うんだね」


「たしかにおっしゃる通りです。生存者は細々と我らの目をかいくぐって生きていき、その先には絶望しかないと思われましたが、まさかこんなに急速に復興をしているとは」


 他の者が同意をするのを楽しそうに創造主と呼ばれた人物は聞く。


「ルセルカが死んだのは天狗が裏切って殺したからだと思って、北上してみればこんな街ができているとはね………。未知の技術を開発する人物………。彼らはこのような楽しい世界になることを予想していたんだね」


「人間などは相手にもなりません。どれほどの兵器を持っていようと、片手間で片付けることができるでしょう」


 誇らしげに言う他の者へと創造主と呼ばれた人物はちらりと視線を送る。


「それじゃぁ、このフィールドには入れる? どうやら関東圏内は全部このフィールドに覆われているみたいだけど」


 裏切ってルセルカを殺したのだろう大天狗へと罰を与えようと北上してきた創造主と呼ばれた人物たちはここで足をとどめた。なぜかというと未知のフィールドが関東圏内に張られていたからだ。


 ううむと唸り、視線を向けられた者は苦しそうに答える。


「このフィールドは強力です。打ち破るとしたらかなりの力を使うでしょう。試してみなければわかりませんが………」


 このフィールドへと足を入れた途端に、焼けたのだ。どんな高熱にも核の炎で焼かれても燃えないだろう体があっさりと燃えた。


 その強力なフィールドの力に驚愕して暫くは様子を見るためにとどまっていたのであるが


「相手は随分の自信家だね。あのホログラムを見なよ、自信たっぷりで自分の行いは常に正しいと考えている才能あふれる人間だよ。………僕の大嫌いなタイプだよ」


「ご命令を頂ければ、すぐにあの男の首を取ってきますが?」


 他の者がその言葉を受けて提案をする。だが、創造主と呼ばれた人物はかぶりを振って拒否をして困ったような表情を浮かべた。


「これほどのフィールドを張れる技術を開発した者だよ。君たちでも負ける可能性があるとしたら、なんとか彼らの隙を狙った方がいいよ。アニメや漫画みたいに、力を見せつけるために敵本陣へと入り込み、無様に負けて、相手には警戒を与えて自分たちは戦力ダウンとかしていられないしね」


「………たしかにこのフィールド内での戦闘はかなりの力を抑制されるでしょう。本来の力を出し切れることができないとすれば、我らでも敗れるかもしれません」


 その言葉を受けて、クスクスと笑い創造主と呼ばれた人物は口を開く。


「良いね。そこで我らの力なら楽勝です! とか言って敵へと突撃するような無能なら解体して新しく作り直すところだったよ」


 まるで玩具を新しいのに変える程度の言い方で言う創造主と呼ばれた人物の言葉に、多少なりとも緊張感が空気を覆う。


「当然です。さすがに身体が燃えながら戦闘をするのは、自殺行為ですからな。ならば、このフィールドを破壊することから考えますか?」


「………いや、僕たちは南下しよう。さっさと強くなりたいし、ここで彼らと戦う必要もないだろうしね。ただ、情報は欲しい。やれやれ、少しずつ南下をしていたツケが来たね。関東にはどうせ話を聞かない強力な化け物しかいないだろうとスルーしたのは失敗だった。他の化け物たちは我が強すぎてほとんど僕たちの話を聞きはしないし………。とりあえず情報収集と取引がある名古屋の化け物へとこの情報を流すとしようじゃないか。きっと近い将来に戦闘になるよ」


「はっ! では情報収集は誰に?」


 頭を下げる周りの者へと、余裕ある態度で創造主と呼ばれた人物は答える。


「人間にやらせよう。彼らはお金と自分の命がなによりも大切だからね。きっと金に目がくらんで教えてくれる人間はいるはずさ。その情報を僕たちは集めればいいだけ。簡単な仕事だろ?」


 ケラケラと楽しそうに笑い、これからの計画を考える。


「南下を防ぐ化け物たちとの話し合いは最低限にしよう。ムカつく相手との話し合いは終わりにして、縄張りを潜り抜けて南下だ。貴重な素材や力を手に入れることができなくなるけど………。相手の情報がわからないから、少し距離を取っておいたほうがいいしね」


 慎重に行動をしようと考える。アニメや小説みたいに、部下を次々と倒されるわけにはいかない。派遣している者たちは契約を結んでいるので今さら仕方ないが。


「ルセルカをどうやって倒したのか興味はあるけど、まずは南下だ。今日は楽しいイベントを見れて満足さ。さぁ、移動を開始するよ」


 そうして、キシッと僅かに木々が揺れたと思った時には、すでに木上には誰もいなかった。


 最初から誰もいなかったようにユラユラとただ木が揺れているのみであった。


 遠くでは人々が国家設立の祝杯を喜びの声をあげている中であった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大物ぶってるけど、どうせこのやり取りもしっかり大樹側に観察されてるんだろうなぁ、と思った。 大物ぶってる奴って、なぜか無条件に自分は違う、と思ってるんだよね。 あいつはやられたようだが、…
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