287話 おっさん少女と一息の冬休み
チラチラと雪が降ってくるのが、窓の外を見ると見える。ふんわりと柔らかいベッドからふわぁ~とあくびをして起床をするレキ。
周りを見渡すとキングサイズのベッドに一人で寝ており、豪華であるがセンスのよい客室が目に入る。絨毯も家具も一目で高価だとわかる代物だ。
「………眠いです………」
眠い。冬の寒さの中で温かい布団でぬくぬくと寝る。部屋は身体を震わすほどに寒く、布団はポカポカと暖かい。この差がいつも以上に眠気を誘うのだ。
これ以上の贅沢はあるだろうかと思いながら、ぼさぼさの寝ぐせをさせて、再び可愛く小さなお口を開けながら、ふわぁとあくびをするレキ。たぶんレキ。可愛らしいからレキ。
「ん……おはよう、妹よ……」
一人ではなかった。布団の中からもぞもぞとレキの姉を自称するリィズが出てきて眠そうな声音で朝の挨拶をする。
レキが挨拶を返そうとしたところで、リィズはクイクイとレキのパジャマの袖を引っ張りながら、うにゃうにゃと眠そうな声音で言う。
「これからリィズは瞑想の修行をする。妹も一緒に修行をするべき」
「わかりました。お姉ちゃんの修行を妨げるわけにはいきません。私もお付き合いします」
きりりと眠そうな目でリィズを見ながら、レキは重々しく頷きリィズも一緒に頷く。
「うむ、妹よ、まずは瞑想の準備、布団に入って体を伸ばし緩やかな体勢をとる。そして、ゆっくりと目を瞑り無心になって瞑想へと入る」
「わかりました、こうですね」
コテンと寝っ転がり、抜け出たはずの布団に再び入るレキとリィズ。ゆっくりと小柄な身体を横たえて目を瞑り、すぐに二人はすやすやと可愛らしい寝息をたてはじめた。さすがは瞑想のプロ、あっという間に無心へと入った二人だ。
二人の美少女が身体を寄せ合いスヤスヤと寝る姿は極めて可愛らしく、美少女のおやすみタイム生写真として売れそうな予感もする。とりあえず銀髪メイドは買うのに並ぶのは確実だ。
そのままお昼までスヤスヤと寝ていたかったレキというか、惰眠を貪ろうとする遥であったが、そうは問屋がおろさなかった。
トントン
寝室のドアが叩かれて、可愛らしい少女の声が耳へと入る。
「リィズお嬢様、レキお嬢様、朝となりました。そろそろ起床しませんと」
「スヤスヤスピスピ」
二人の美少女は瞑想しながら、その声に反応して寝息で返す。わざわざ寝息を声にするアホっぷりと練習もしていないのにお互いの声を合わすあたり、本当に姉妹みたいであった。
とくにアホっぷり。
その寝息というか、寝ていますアピールを聞いて、あらあら可愛らしい寝息ね、もう少し寝かせておきましょうという優しきメイドではなかった。
バタンと扉を勢いよく開き、メイドの環がニコニコ笑顔でズカズカと入ってくる。
入ってきたことを感じ取り、二人はうにゃうにゃと布団を握りしめ深く中に入り込み瞑想を続けようとする。だって修行なのだから仕方ない。邪魔はしないでと。
「は〜い。起こしちゃいま〜す」
よいしょぉっと、布団を情け容赦なく剥ぎ取る環。
「きゃー! 今は瞑想中だったのに! 環さん、あと一時間、一時間は瞑想の時間をください」
「ん、妹のいうとおり! 今日は瞑想の修行をするから学校は休む! おやすみ、環」
剥ぎ取られた布団を取り返そうとグイグイと引っ張りながら抵抗をする美少女二人だが、ひ弱なる二人の力では常日頃力仕事もしている環には敵わなかった。
「今日の瞑想はおしまいです。だから昨日はあんまり夜ふかししないように言ったではないですか」
哀れ、掛け布団はたたまれて、起床を促される遥とリィズであった。ついついアホっぷりから遥へと名前がチェンジされるのは仕様であるから仕方ない。
「はぁ〜い、おはようございます、環さん」
「ん、おはよう環」
メイドさんにおはようと挨拶をして、二人はベッドから降りて、ねぼけ眼でぽてぽてと歩いていく。
「ご飯を食べたら身だしなみを整えますからね〜」
環の言葉に、あい、と可愛らしく頷き食堂へと二人が仲良くぽてぽてと歩いて向かうと既に席にナナはついていた。
「おはよう、レキちゃん、リィズ」
起きたばかりなのに、既に身だしなみを終えて元気そうなナナである。というか、ナナは朝の練習をするためにもっと早く起きている。
もはや早朝練習なんて、おっさん少女の辞書からはデリートされており、ナナは凄いなぁなんて感心しながら言葉を返す。
「おはようございます、ナナさん。もう雪が降り始めたみたいですね」
「ん、ますます寒くなる。おはよう、ナナ」
クスリとナナが笑うと、厨房から朝食を運んできた小山内母娘が挨拶をしてくる。
「おはようございます、リィズ様、レキ様」
「おはよ〜、レキおねーちゃん、リィズおねーちゃん!」
母の信恵がコトリとお味噌汁を食卓へと並べ、娘の幼女な恵もお手伝いとして、んしょんしょと海苔を置いている。
純和風な朝食が食卓へと並ぶ。白米にワカメと豆腐の味噌汁、甘い卵焼きに海苔と納豆とあじのひらきを焼いたものである。
朝食からこんなにたくさん作るのは実際は面倒くさいんだよなぁと思いながら、遥は全員が席に座ったので食べ始めるのであった。
いただきますって、異世界転生小説だと主人公がよく言うけど、実際は現実世界でも言わないよねぇと思いながら食べ始める。
納豆は辛子をたっぷりと入れて食べると美味しいんだけどなぁと、辛子をたっぷりと入れないとあんまり好きじゃない納豆をチラチラと見ながら考える。
でも辛子を入れることはできない。オデンにて辛いのはレキは苦手であると判明しているので。
でも、あれから私もパワーアップしたので辛子も大丈夫なはず! もはや辛子も敵ではないねと、チューブのからしをとりゃぁとたくさんいれる。
「あ! レキちゃん、それは入れすぎだよ、凄い辛いよ?」
ナナが辛子をたっぷりと入れたおっさん少女へと注意をしてくるが
「大丈夫です、ナナさん。辛子をたくさん入れると美味しいって聞いたので」
たぁっと覚悟を決めて納豆を口に入れて
「からひっ! からひです〜! おみじゅをくらはい〜」
パワーアップしても子供な舌は変わらなかったようである。ちっこいおててで口を抑えてバタバタと足を動かして、涙目になるのであった。
「はい、お水」
クスクスと笑いながら、環がお水を手渡してくるのでありがとうございますと答えて、んくんくと飲み干すのであった。
「ふへぇ〜、酷い目に合いました。もっとパワーアップしてからではないと無理みたいですね」
どんな強敵よりも辛子は強敵ですと思うアホの娘である。
「むぅ〜、中学校が復活したのは面倒くさい。働いていたほうが良い」
朝食が終わり、ブツブツと文句を言いながらリィズが中学生の制服を着ているのを、ボケ〜っと見ながら遥は環に髪を梳かして貰っていた。下着姿になるリィズを見ながらなのでおっさんならば逮捕間違いなしなのだが、美少女なので問題はない。たぶん問題はない。
そうして、なんでこんなことになったのだろうと回想を始めるのであった。原因はなんだったんだろうと。
たぶんすべての原因はあれにあるのだろうと。
空中戦艦ホットケーキにて、国家設立宣言も終わり、ナナシの仕事も終わりだねと偵察が終わったので帰ってきましたよとナナへ顔を見せた時である。
住んでいるお家を見せてとお願いされたのだ。当たり前であろう。なにしろナナはレキの生活環境を常日頃から気にしていたのだから。
もちろん良いですよと素直に答えて、豆腐の家に案内した。見かけは真っ白な豆腐である。
「これがレキちゃんのお家?」
ちょっと目を厳しくして尋ねてくるので
「そうですよ。見かけはあんまり良くないですが、中はまともですよ」
と、たしかに豆腐の家は変だよねと落ち込みながらも中へと案内をした。
内装はバッチリ任せてくださいとサクヤがふくよかな胸をぽよんと叩いて宣言したのでお任せしたのだ。なぜ学習しないのかと遥の頭を開いて覗きたい今日この頃である。
しかし、中に入った遥たちは普通に感心した。玄関は豪邸のように広く普通な感じであった。もちろん初めて入る遥も感心した。なぜいつも事前に確認しないのだろうか。サクヤを信頼しているからと面倒くさいと同義語を使用したおっさん少女であった。
内装も上品でお洒落な感じで、毛の長い絨毯が敷いてあり、マホガニーのテーブルが置いてあり、高級だとわかるふかふかのソファ、チェストにはクリスタルガラスのグラスが並んでおり、お高いウィスキーもズラリと並んでおり、ワインセラーも地下にはある。
寝室もキングサイズのベッドがドテンと置いてあり、リビングルームと同じような絨毯や高価そうなタンスなどが置いてある。
なんと完璧じゃん! ボケを狙って白過ぎる内装でポツンとベッドが置いてあるだけという、よくアニメなどである無表情な強化人間が住むような無味乾燥な部屋では無かったので安心したものだ。
「お邪魔しま〜す」
ナナがきょろきょろと周りを観察しながら、中に入ると上品な雰囲気の銀髪メイドが丁寧に頭を下げて歓迎の挨拶をした。
「いらっしゃいませ、荒須ナナ様でいらっしゃいますね。私の名前はサクヤと申します。よろしくお願いします」
銀髪メイドと聞いて、今までの仕業をレキからというか遥から聞いていたナナはピクリと眉を動かすが、丁寧な挨拶をされたのでとりあえず様子を見ることに決める。
それぐらい上品な所作でしかも銀髪メイドは美女であったので、今までの捏造に近い仕業を確認しようとしていた。
そうして次々に部屋をおっさん少女共々案内をされたあとである。
リビングルームにて寛いで、サクヤが完璧なメイドとなりお茶を持ってきたりしたあとだ。どうも不思議なことがいくつかあるようで、首を傾げながらナナが尋ねてくる。
「ねぇ、いくつか疑問があるんだけど良いかな、レキちゃん?」
「はい、なんでも聞いてください、なんでしょうか?」
聞かれてもこの家のことはさっぱりわかりませんと内心で思いながらも、素直に聞き返す。
「まず一つ。このウィスキーとかワインセラーのワインとか高いんだけどなんで買ったの?」
え? と冷や汗をかく。たしかに内装は完璧だ、お酒が棚に並んでいるが見た目が良いと満足していた。
だがたしかに少女がこんなにお酒を並べているのはおかしい。どうしようと考え込む中でサクヤが口を挟んできた。
「あれは私のお酒です。やっぱり高価なお酒は美味しいのでして」
おぉ、ナイスサクヤ、まさかサクヤに助けられるとはと感動する中でナナがピクリと眉を動かして話を続ける。
「……こんなにたくさん貴女のなんですか?」
「えぇ、お酒を並べていて格好良いとレキ様は満足。私も高級なお酒を飲めて満足というわけです。ウィンウィンな関係ですね」
にこやかにできるメイドの感じを見せてサクヤが答えるのを、さらにナナは追及する。
「……えっと、そのお酒代はどこから出てるんですか?」
「もちろん、レキ様のお財布からです。なにしろこれだけのお酒を並べるのは大金が必要となりますので」
「……えっと、お酒は誰が飲んでいるのかな?」
「私ですよ? レキ様は飲める歳ではありませんので」
フンスと鼻を鳴らして、得意気な表情で答えるサクヤ。
ほうほうとにこやかな笑顔になるナナ。
「……えっと日常的にこういう買い物をしているのですか?」
「はい! レキ様は格好良さを! 私は実利を貰うという完璧な関係ですね!」
アホなメイドが得意気に語るので、口を挟まずにジト目でさっきの感心した時間を返品する遥であった。
そして、サクヤをいたいけな少女を騙して、お金を使い込んでいるとナナが怒り出すのは次の瞬間であった。
「はぁ、まぁ冬の間は動きたくないですし、別に良いかな」
回想を止めて遥は目の前のリィズへと視線を戻す。
ナナは横領罪として、サクヤを国家設立第一号の犯罪者として新しく作られた警察へと受け渡した。めでたくサクヤは犯罪者第一号として名を連ねることになったのだが、まぁ、すぐに出てくることは確実である。
レキの金を横領していたという証拠はないでしょうと訴えて無実をつかみとる予定のサクヤ。サポートキャラが犯罪者第一号として捕まるというのはどういうことだろう? アホなのかな? いや、アホなことはわかっていたか。
それでもナナはレキの生活環境が整うまでは、私が引き取りますと自分の家におっさん少女を連れてきたのが今回の顛末である。
まぁ、ナインがサクヤのアホな発言を聞いて苦笑しながらなんとかしておきますといったので、冬の間だけナナの家に泊まることになったのだ。
冬休みと思ってゆっくりするかなと遥も諦めたのだが……。
ゆっくりとできない。お昼まで寝ていることができない。好き放題ご飯やお菓子を食べることができないとナイナイ尽くしなので驚愕してしまった。
何ということでしょう。ここにいたら健康的な生活を送ることになってしまうと。
とりあえずはリィズは復活した中学校へと通っている。おっさん少女も通うようにナナからは強く言われているが、既に飛び級レベルの学力はあるのでと断っている。
常日頃のアホな発言で知力は無いと皆が認めているが、学力は別である。知恵と知力は無いが学力はあるのだ。
だれにも見られないウィンドウ越しの別ブレインのナインという学力があるので大丈夫だと答える遥である。
そうして疑うナナへ証明するためにテストを受けたところ満点であったので、うぬぬと悔しがるナナ。これを機会に普通の生活へと入れこもうとしているのは明らかだ。そして満点とは凄すぎる学力である。さすがはナイン、サポートキャラとして、犯罪者として連行されたどこかの銀髪メイドとはひと味どころかふた味もさん味も違う。
というわけなので、とりあえずは防衛隊のお手伝いや気になったら中学校か小学校に行こうと言われている。
そういえば自分の歳は誰にも伝えていないかもと思い出す。ナナはいったいおっさん少女が何歳だと思っているのだろうか? 隠しきれないダンディズムが見られているかもと思う。それならばきっと大学生ぐらいには見えるんじゃないかな? なんで中学とか小学になるんだろうか? レキは可愛らしいから仕方ないのかも。
まったくアホな行動に自覚がないおっさん少女は首を捻りながら疑問に思う。
でも、冬の間はこの生活なんだから仕方ない。
さて、私もお出かけしようかなと、てこてこと外出するおっさん少女であった。
まずは防衛隊のお手伝いをするとしよう。冬の間でも東日本を攻めるんだしと。




