031:地底トンネルと冷蔵庫の見極め
大岩が無くなった場所には、ぽっかり大穴が開いていた。縦横三メートルくらいの穴の縁から下には、歪んだ階段めいた段差が下へ向かっていた。
プリンスが一番手で穴の中に降りた。
次に晶斗が、続いてユニスも穴へ入り、階段状の段差を降りた。
階段は十五段あった。
いびつに形が崩れる前は、人工的に整えられていたらしい。一つ一つの段差はほぼ同じだ。ただ、ユニスには一段の高さが高すぎた。
プリンスと晶斗は危なげなく降りていったが、ユニスは一段降りるだけでも足が届きにくくて一苦労した。三段を降りたときに、見かねた晶斗が戻って来て手を貸してくれた。ユニスは、ありがたく好意を受け、残りの階段は晶斗に頼って、半分くらい跳んで降りた。
「けっこう深いですね。この辺はまだ新しいから、強盗団が広げたのでしょう」
プリンスが壁に触った。土が崩れないように、新しい木の板が張ってある。いかにもありあわせの材料を使った、雑な板壁だ。
「地下十メートルくらい下だよな。天井もそこそこ高いし、空気の流通も悪くない。たぶん、空気の通り道も計算して掘ってあるんだろう」
晶斗が手をかざしている。
「はい、質問。それって、どういうこと?」
ユニスの質問にはプリンスが応えた。
「ここは、トンネルの構造を理解している専門家が設計して作られているということです。少なくともコルセニーの使徒と名乗るような馬鹿な連中には作れないでしょう」
入り口から差し込む光で内部の様子が見てとれた。
高い天井はコンクリートで固められていた。
片隅に銃の入った木箱が一つ、反対側にはぐしゃぐしゃの寝袋だの食料品だの、人間が生活するのに必要な、雑多な物が散らかっている。
通路は、晶斗とプリンスが並んで余裕のあるほど広く、奥へと続いている。
ユニス達は進んだ。
穴の入口から差し込む陽光がまったく届かなくなると、急に気温が下がって肌寒くなった。奥へ入り込むにつれ、寒さはだんだんひどくなる。
ユニスとプリンスは透視ができるので暗闇でも不自由は無い。透視の出来ない晶斗は暗視機能付きのサングラスをかけた。
突き当たりに行き着いたら、真冬のような冷気に包まれていた。
ユニスはポンチョの中で固く腕組みした。
指先が冷えて氷のようだ。
ユニスは、シェインで体感温度をコントロールしようとして、右手で左手の指先を掴んだ。そこであることに思い至り、シェインを使うのを留まった。
皮膚表面にシェインでバリアを張り、寒さを遮断するのは簡単だ。
しかし、そうすると皮膚感覚が普段よりも鈍くなる。
ちょっとした環境の変化や、危急の事態になった時に、察知するのが遅れるかも知れない。何が起こるかわからないこんな場所で、それは避けたかった。
「とても寒いわね。まるで氷室みたい」
昔の人びとは冬の池や湖に張った氷を切り出して運び、地下に掘って造った倉に保存して夏に取り出して使ったという。それは歴史書か何かで読んだ知識だ。
「よく知っていましたね。たまに発見されるこういった小さな洞窟は、古代人の冷蔵庫だったという説もあります」
「うちの故郷の村に、似たような古い氷室があるの。今でも夏用の野菜とかを冷やしておくのに使われているわ」
「そういえば、あの村にはありましたね。……晶斗は、何をしてるんですか?」
センサーを使って環境測定をしていた晶斗は、結果を見て首を傾げていた。
「気温は冷蔵庫だが、歪みはないな。寒いけど、どこにも氷も無いし。シェインの反応も無い。肝心の古代理紋はどこにあるんだろう?」
「隠されているんでしょう。私にもわかりません。これといって危険は無いようですが……ユニス、何か視えますか?」
瞑目していたユニスは、目を開けた。
「見えるものはないけど、視えないものがどこかにあるわ」
すると、プリンスと晶斗が、困惑気味に眉をひそめた。
ユニスも、妙な言い方をしてしまったと反省した。照れながら言い直す。
「歪みの中の歪みよ。普通に透視しても、何も無いようにしか視えないの。迷宮の中の迷宮と同じ理屈よ。単純なズレは、ズレているのがわかる。でも、それがもう一度動いて、本来の方向に戻ったようなズレ方をしていたら、空間は正しい位置に戻されているように見えてしまうわ」
「なるほど、迷図と同じ構造ですか。迷図は私でも発見しにくいのですが、よくわかりましたね」
プリンスにもわかりにくいものを先に見つけたと褒められて、ユニスはちょっぴり嬉しくなった。
「遺跡と迷宮の歪みを視るのは得意だもの。そういうとこに限って、珍しい宝物が隠してあるの。二重の隠し金庫みたいにね」
「さすがは盗掘の第一人者……いでッ!?」
空中から出現した拳大の氷塊が、晶斗の後ろ頭にぶち当たった。晶斗は頭を抱えてうずくまり、プリンスは黙って視線を逸らした。




