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婚約破棄同士ですね。  作者: もっちりワーるど
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国王への報告 秘密の作戦-シルビア目線-


それは日も暮れ、今日最後の執務処理をしている時だった。

部屋のノックと共に傍付きの侍女の一人が、入室してきた。



「コンタージュ侯爵邸より、早馬です。」


「コンタージュ?…ゲイルは領地だから、ラフィニア様から?」



私は執務机から顔を上げ、入り口に立つ侍女に視線を送ると、侍女は「はい。」と答えた。

私は片手を彼女に差し出し、手紙を受取ろうとした。



「受け取るわ。」


「それが…コンタージュ家伝令がシルビア様へお目通りをと待機しております。」


「伝令が?…いいわ。通して。」



ラフィニア様自身の用事なら、わざわざ伝令を使わないはず。きっと、何か…領地に関すること。又は、この戦争に関することだと察しがついた。ここは侍女と無駄な質問を繰り返すより伝令に会ってしまった方が早いと判断する。

私は今日最後と思っていた執務業務の書類を早々に目を通し、サインを施すとそれを脇に置いた。

それを待っていたかのように、執務室の扉がノックされ、「どうぞ。」と返事をする。

すると侍女に促されて入室してきたのは、ゲイルより少し年上、体つきはランスの様にガッシリとしていて、金髪目がブルーの男だった。



「お初にお目に掛かります。コンタージュ侯爵家伝令のウィル=カイゾンと申します。コンタージュ領主からの手紙と、ラフィニア様からの手紙をお届け致します。」



彼はそういうと片膝を床に付き、最上級の礼をとる。

私は頭を上げるように言うと、彼は手紙を私に差し出した。

それを受け取り封筒から便箋取り出し文章を確認すると、予想外に悪い事が書いてあり、眉を寄せた。



“シルビア様


まず、このような急なお手紙を届けることをお許しください。

兄ゲイルが領地へ帰還しており、コンタージュ家の名代としてペンを取りました。


シルビア様へお願いが2つございます。

1つ目は、これから起こります戦争の件で、コンタージュ領への兵士増員する許可をお願い致します。

増員する兵は、コンタージュ領にほど近い貴族領の兵を希望しております。王宮からの許可を迅速に発行頂ければと思います。

2つ目は、明日緊急貴族招集を掛けて頂き、私ラフィニアの同席を許して頂きたいのです。

このコンタージュ領への緊急兵士増員のお願いを、国王陛下より命令としてお願いした場合、国王陛下のお立場もコンタージュ侯爵家としての立場も悪くしてしまうものでしょう。

なので、この増員のお願いは私ラフィニアが、兄の名代として行いたいと考えております。

女の身でありながら、貴族招集の場へ立ち入る許可をお願いしたします。


最後に、今はこの国の平和と繁栄の為、国を守る侯爵としての責務を優先させて頂きます。

何卒、宜しくお願い致します。


ラフィニア”



最後の一文は、“あの事件の事”に触れないで欲しいと言うことだわ。

私は、ラフィニア様の手紙をもう一度読むと、待機しているウィルを見た。



「ウィル。何かことづかっているのではなくて?」


「はい。この件を、国王陛下へもお耳に入れて頂きたいと。」



ウィルが胸に片手を当てて、真摯な声で答えてくれた。

私は顎に手を添え、床に広げてあった大判の地図をちらりと見ると、頷いた。



「…そうね。戦争に関する事だから、至急国王陛下へ通さなくてはね。他には?」


「この件は、ジョビニア次期公爵様もご存じです。明日はラフィニア様と共に王宮へ参上すると申しておりました。」


「…分かったわ。因みに、この増員の条件としてコンタージュ領に近い領地からの兵士を希望している根拠は?」


「開戦に時間がないのです。当初の見解では、陸戦の開戦直後、海の開戦になると思われていました。ですが、領主の手紙のように、例の潮の流れを敵連合が狙っているとしたら、近日中に3方向からの攻められる可能性が高いです。」


「時間がないのね。…ゲイルはこの話を知ってるの?」


「…いえ。」


「…そう……。今頃領地に到着した頃ね。きっと、この話を聞いて珍しい顔してるんじゃないかしら。見たかったわね。ふふ。」



困った顔のゲイルなんて、そう何度も見れる顔じゃない。

私は、非常事態と理解しつつ、その顔を思い浮かべて微笑んでいた。

すると、横に控えていた侍女にコホン…とわざとらしい咳払いに、引き戻された。

いけない、いけない。



「承ったわ。別室で少し待っていて。貴方には、国王陛下の決定と貴族招集の有無をラフィニア様に伝えて頂きたいの。」


「畏まりました。」



彼の了承を頷いて聞き、私は部屋で待機していた侍女に目配せし別室に案内させる。

私は、ウィルが退室したのを確認して息を漏らした。

そして、父王への報告をするのに、少し考えはじめる。


この国の国王は、確かに私の父ではあるのだけど、本当に性質が悪い腹黒親父なのだ。

少しでも能力が低いと思わせてしまったら、貴族は平気で降格の候補にされてしまう。

コンタージュのこの緊急増員要請は明らかに、詰めが甘いとほくそ笑まれるパターンだ。

これがゲイルなら、貴族招集をする前に、領地周辺の貴族を動かすだけの弱みは握っているだろうから、それを使って他貴族を思うままに頷かせていただろう。

でも、この王都に残り動けるのはラフィニア様しかいない。彼女には、ゲイルのようなやり方は考えもつかないだろう。だから、正面きったやり方で私にお願いをしてきた。

ただ、この馬鹿正直せいきルートなやり方だと、他貴族にコンタージュが舐められてしまう。

本当は王族の私は、特定貴族へ肩入れなどせず、公平に動く立場だけど…。


ゲイルに任せてって言っちゃったしね…。この件で言ったわけじゃないけど。


私は侍女にランスへの言付けを頼むことにした。

ジョビニア次期公爵がラフィニア様の元に着いていたとしても、この件ではやはり軍を持つ貴族の彼が適任者だ。

彼もゲイルからラフィニアを託されている人間の一人だもの。明日の為の作戦会議をさせた方がいい。

私が考えたこれから父に話すシナリオをランスへ伝える為、便箋にすべて書き綴り、それを侍女に手渡した。

そして私は、父王がいるであろう国王の執務室に向かった。


廊下を足早に歩いていくと、一際重厚な扉の前で守る兵士が私に気づき腰を折った。

私は「国王陛下に至急会いたいわ。」と伝えると、彼は「お待ち下さい。」と礼をして室内に消えていく。


しばらくすると、部屋の扉が開かれたので私は迷いなく部屋の中へ入っていった。

すると、父の補佐官が私の入室を待っていたかのように、部屋の真ん中で礼をしていた。

この部屋の作りは少し特殊で、国王陛下の執務室へは、この補佐官室を通らないと行けないようなっている。

私は彼の礼を解かせると、「陛下に用があるの。」と伝えた。

すると補佐官は「はい。」と頷くと奥の扉まで行き、それを開けた。



「シルビア。至急とは珍しいな。」



室内には、私の父でありこの国の国王陛下が、執務机の上に両手を組みその手の上に顎を乗せていた。

私は父へ最上級の礼を取ると、父は早々に礼を解かせる。



「で、どうした。」



父の目が光る。

私の話に興味があるのがよく分かる。


父としての顔ではなく、国王としての顔だわ。


私は先ほど考えランスに伝える為に書いた手紙の内容を、父王に話し始めた。



「コンタージュ侯爵家より、緊急貴族招集の願いが着ました。」


「………ほう。ゲイルがか?」



父王は明らかに目を細ませた。あの顔はゲイルが何をするのかワクワクしている顔だ。

父王は自分の子供に男子が望めなかった為、私と同じ世代のゲイルとランスを特別気に入っている。

そして特に目に掛けているゲイルの話しは、父にとって胸躍る話であるようなのだ。

だけど、ここは別件として認識してもらわなくては。私は、首を振り否定した。



「…いえ。コンタージュ家からです。」


「開戦迫るこの時期に、コンタージュが貴族を集めて何をする気だ?」


「……この国に裏切り者がいないかを確かめたいのだそうです。」


「何?」



私の話しに、眉を寄せる父王。



「この前の令嬢誘拐事件。あれは、敵連合国の人間とこの国の貴族が関わっていたものです。他の貴族にも敵と通じている者がいるかもしれません。それを確認したいと。」


「あの件では、サヴィニオン公爵の娘とコンタージュ侯爵の娘が被害者だったな。」


「はい。あのような事件に敵国も関わっていたとなると、他に内通者がいないとも限りませんとの事。」


「…ただゲイルは領地に帰還したと聞くぞ?誰がそれをする?」


「ラフィニア様です。あの事件の被害者ですので、一番の適任者ですわ。」


「貴族の娘ではあるが、貴族招集での会議室に女を入れるのはな…。」



ラフィニア様は当事者で、彼女の参加は絶対だと刷り込むが、父王は渋い顔をしている。

ただ、私は引くつもりはない。あの会議室で行うより印象的に且つ圧倒的に貴族を動かしたい。

私は何でもないような雰囲気で、父王を見返した。



「謁見の間でではいかがでしょうか?それなら、女性を入れるのは可能ですよね?…お父様も私も同席出来ます。いかがですか?」



私の本当の狙いを父王に悟られないよう、細心の注意を払って話し終えると、父は目を閉じて考え始めた。

そして、目を開けたかと思うと私の心の中を読み取ろうとでもいう顔で、



「……何を企んでいる?」


「…何も。」



国王の睨まれているようにも感じる目に、動揺しそうになりながらも否定すると、「……分かった。補佐、貴族達の緊急招集を掛けろ。明日、謁見の間に全員集めよ。」と父王は、部屋の隅で控えていた補佐官に指示を出した。

私は、第一関門を通過したと、ホッと胸を撫で下ろしたところで、



「……シルビア。安心するのは、明日の貴族招集が無事に済んでからじゃないのか?…お前たちの狙い通りになればいいな。」


「…何のことです?では、私はこれで失礼いたします。」



これ以上ボロが出ないようにと、急ぎ過ぎない速度で父王の執務室から出た。

続き間の補佐官室も通り抜けると、扉を背に閉める。



…後は、明日ね。ランス任せたわよ。



身体の力を抜き扉に身体を預けると、顎を上げた。

口元を引き締め目を閉じると、明日の作戦が上手くいくように祈った。




すみません。風邪ひいてしまい、寝込んでしまってました。

シルビアの作戦は、この後の話で明らかになりますので、待っててください。

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