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婚約破棄同士ですね。  作者: もっちりワーるど
40/50

行き違った手紙 -ラフィニア目線-


クレール様と共に公園から自邸に帰ってくると、屋敷の脇にある馬屋へ連れて行かれていく2頭の馬に気づきました。

茶色の馬と、グレーの斑の馬です。

お客様でしょうか?でも、何処かで見たような気もするのです。どこでしょう?


私は、馬車の中から馬をじっと見ていると、



「どなたかお客様でしょうか?」



クレール様も気が付いたようで、馬車の窓から窺っています。

私もこくりと頷くと、馬車は館の玄関前で止まりました。

先にクレール様が降り立ち、中にいる私に手を差し出してくださいます。

私はその手を取って馬車から降りると、家の中から、執事のノックスが慌てた様子で迎えに出てきました。

いつもと様子が違うノックスに、私は首を傾げると、



「領地の先代様より、早馬で知らせが届きました。」


「早馬で知らせ?先代って、おじい様ね。誰宛なの?」


「ゲイル様です。」


「お兄様宛?」



ノックスは私にお兄様宛の手紙を差し出すので、私は早急に差出人を確認しました。

確かに、おじい様の字です。

お兄様宛の手紙を見るのは気が引けますが、早馬ということは何か緊急の用件ということ。

兄の代わりにこの手紙を開けられるのは私しかいないので、仕方ありません。


しかし…


手紙の中を確認しようとして、私の横にクレール様がいることを思い出しました。

この手紙の内容は、婚約者のクレール様でもお見せできません。

きっと領地に関する事だと思うのです。

私は、手紙をそっと背中に隠すと膝を折り、私の気持ちを伝えようとしますが…。

今日の出来事を思うと、彼にどんな言葉を伝えていいのか分かりません。

“ありがとう”も“ごめんなさい”も、正解であり違うような気もします。

選ぶ言葉選ぶ言葉がすべて、的を得ていないようで、膝を折って固まってしまいました。



「…あの…えっと…。今日は、なんて言ったらいいのか。…この気持ちをどう表わしたらいいのか、難しくて…。」


「いいんです。それより、その手紙。気になりますね。ゲイルは、もう領地でしょう?」


「……はい。きっと、もう領地に近いところまで行っていると思うのですが…。行き違いになってしまったのだと思います。」



後ろに隠していた手紙をクレール様に指さされ、私はそっと手紙を前に出しました。

ゲイルお兄様への帰還催促だけなら、何も問題はありません。

きっと、今頃領地の近くには着いているはずですから。

でも…お兄様への王都任務があった場合、私では遂行出来ない可能性があります。

戦争を控える領地からの任務の場合、戦略に関することかも…。

不安に瞳を揺らすと、クレール様が私の肩をポンと叩きました。



「…貴女がその手紙を確認するまで、一緒にいていいでしょうか?ゲイルが確認しなくてはいけなかった手紙というのが、気がかりです。」


「……でも…。」



クレール様の意図が分かりません。だって、これは侯爵家の問題。

コンタージュ家ではないクレール様に見せていい内容とはとても思えません。

私は、弱って玄関先で待つノックスを仰ぎ見ました。

彼もどういう判断をしていいのか、分からないようです。

すると、



「久しいな、ラフィニア嬢!ゲイルと行き違っちまった!」


「…ウィル!?」



玄関から、ガッシリとした体格で赤みの強い金髪、目はブルーのウィルが歩いてきました。

私は、久しぶりに会った領地の友に、目を輝かせて微笑みます。



「……ウィル?」



すると、クレール様の若干低い声が彼に反応するように、ウィルの名を呟きました。



「元気だったか?ラフィニア嬢。」


「そうね…。うん、もう大丈夫。あ…クレール様、こちら、ウィル=カイゾン。コンタージュの伝令です。ウィル、こちらクレール=ジョビニア次期公爵。お兄様のお友達なの。」


「そして、ラフィニアの婚約者です。」



紹介する私との距離を詰めたウィルは、幼い頃のように私の頭を撫でようとしたのか、片手を上げました。

すると、その手を空中でクレール様がキャッチしました。

私の頭の上で、ウィルの腕とクレール様の手があります。



「あの……?」



2人の行動にきょとんとすると、ウィルは片眉を上げてクレール様を見返しました。

そして、この状況があまりいい状態じゃないことも気が付いたのか、



「あー、ジョビニア次期公爵様。失礼いたしました。どうか、手、離してくれません?」


「…あぁ。」



お互い妙な距離感で会話をして手を離すと、クレール様は私の腰に手を回しエスコートの体制を取りました。



「ク、クレール様?」



私が戸惑って近くなったクレール様の顔を見上げると、にっこりしたクレール様がいます。



「やはり、私も一緒にいます。」


「え?でも…?」



手紙の内容を彼に知られてしまうかもしれないので、いい案とは言い難いです。

私はなんとかお断りをしようと、口を開くと、私達の会話を聞いていたウィルが口を挟みました。



「ラフィニア嬢。ジョビニア次期公爵様にも居てもらった方がいいかもです。」


「…?何故?」


「コンタージュ侯爵令嬢である貴女でも、失礼ながら、この手紙の内容は一人ではどうにもならないかと。」



伝令であり隠密もこなすウィルの言葉に、眉を顰めます。

やはり、兄への帰還命令だけではなかった。

私はクレール様を一瞥し、ノックスに指示をしました。



「応接間にお茶の用意をお願い。…ウィル、手紙の補足をしてくれるのでしょ?読み終わったら聞くから、待機していて。」



そういうと、玄関先で待機していたノックスは、一番先に屋敷の中に入り、ウィルもその後を追うように入っていった。

そしてその後ろ姿を見送った後、私はエスコートしようと腕を回したクレール様の手に、片手を添えました。



「…クレール様。………貴方を本当に巻き込んでしまう。引き返すなら、今です。」


「…巻き込んでください。きっと役に立ちます。」



真剣な響きの彼の声に、私は顎を引きました。

そして、精一杯の感謝をこめて彼を見上げました。



「ありがとうございます。」







----------------------------




屋敷の中に入り応接間の扉を開けると、ウィルは椅子に座り、ティーカップに口を付けていた。

控えている侍女も、私達の入室に合わせてティーカップにお茶を注ぎ込んだ。



「クレール様、どうぞ楽になさっていてください。」


「…はい。」



クレール様に席を勧めると、彼はゆっくりとその席に座った。

彼が座ったのを見届けて、私は手にしていた手紙を開きました。

手紙はやはりおじい様のもので、内容に目を見開きます。



“ゲイル


敵連合軍が狙っている場所が分かった。潮に守られていたあの海岸線だ。数十年に一度、潮の流れが変わり流れ込むあの場所。あそこから攻め込む気らしい。砦を守る軍を、今二分するのは拙い。兵の人数が足りない。急ぎ他領の人員を確保しろ。  ”




コンタージュの納める領地は、海に面した海岸地帯です。

どこの領地よりも細長く縦に長い領地は、守るのが困難と言われているのですが、それを可能にする自然の助けがあるのです。

それは、潮の流れ。

この領海の潮の流れは決まっており、絶対に港としている2か所にしか、船が入港できないようになっているのです。

その流れに逆らい別の場所へ船を着けようものなら、港を砦のように守っている崖に撃ちつけられて、沈没するのです。


ただ、数十年に一度、潮の流れが変わる日があります。

まだ調査中で、どうして流れが変わるのか解明出来ていませんが、数十年に一度、その潮の流れは確かに変わります。

その予兆と言われているのが、気温の変化と嵐の大きさです。

春と夏の間の時期に、気温がぐっと下がる日が続き嵐が港を直撃すると、その可能性は高いとされています。


確か前回、その現象が起こったのは、私が生まれる前、おじい様が次期侯爵として軍を指揮していた時と記憶しています。

ということは、約30年前になるのですね。

兄や私は、その潮の流れを伝え聞いてはいますが、体験はしたことがありません。

そして、お兄様はこの話を知らない。

領地に帰りついた時、知る事になるでしょう。

それでは遅い内容…。




私は、手紙を畳んで頭を抱えてしまいました。


どうしましょう。思った以上に非常事態です。


どうするのが最善なのか、私は額に手を添えながら頭をフル回転させていると、クレール様がいつの間にか私の傍にいらっしゃいました。

私はクレール様を見て、どうしようかためらいます。この手紙を彼に見せるべきなのか。

ただ、私一人では確かにどうにもならない内容です。

次期公爵であるクレール様に助言頂いた方がいいのかもしれません。


私は、そっと彼にその手紙を渡しました。


クレール様は手紙を受け取ると、文を読み、眉を寄せて拳を口元に添え考える素振りを見せました。

そんな彼を見上げた後、私は待機しているウィルを見ると、口を開きました。



「この手紙の補足をして。」


「…。現在、海軍の戦艦は、二港で交戦に向け迅速に用意を開始しています。砦での武器物資搬入も滞りなく順調。しかし、明らかに、潮の流れに変化が生まれているのです。間違いなく、近いうちに潮の流れが変わります。あの潮の流れですと、領民の居住区に敵船の侵入が予想されます。」


「居住区への侵入を許さないように、兵士を置くのね?」


「居住区なので、本当なら陸に兵士を置くのではなく、海岸線に戦艦を置きたいのですが、潮はまだいつもの勢いを持っていますし、敵船にこの動きを知られるのもまた不利になります。先代様と当主様の見解で、兵士を増員した方がいいという判断です。」


「……お兄様、きっと明日にも領地に到着される…。潮の流れはいつ最大に変わるのか、予測は出来ているって?」


「早くとも後、1週間以内には。」


「…時間がない…。」



絶望的です。

お兄様ならこんな無茶な任務も、なんとかこなしてしまうのに…。

王都に残った私は、こんなにも無力…。

どうしたらいいのか、視線を彷徨わせていると、



「確かに時間はありません。まず、王宮にこの事態を報告しましょう。ノックスさん、王宮へ伝令を。事態を知るウィルさんが届けた方がいいでしょう。宛先は…シルビア様へ。シルビア様から国王への方が近道です。明日にでも貴族を緊急招集してもらうようにします。」



私の傍に立つクレール様は、今出来る最前の方法を口にしていきます。

私はそんな彼を見上げ、頼もしさを感じて、又私に出来る事を考え、立ち上がります。



「私もその貴族招集に参上出来るよう、シルビア様へお願いします。…これはコンタージュの任務ですから。」


「…では、私は少しでも上手くいくよう傍でサポート致します。」



明日、この事態を早急に解決するため、私はクレール様と向かいあい頷きあいました。





しばらく1日置き更新になります。

申し訳ありません。

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