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婚約破棄同士ですね。  作者: もっちりワーるど
34/50

花束 -マリエッタ目線-


事件から3日たった昼下がり。

私は、足と右腕に擦り傷を作ったけど、体は元気だった。

だから、自分の部屋にいるのも飽きてきて、最近は自邸の中を散歩することが多い。

今日も元気に自邸を歩き回っていた。



「マリエッタ様、お部屋に戻った方が…。旦那様に怒られてしまいますよ?」



困り顔の侍女を後ろに控えさせながら歩き回る。

だって、本当に運動不足なのよ。この2日、食べた分の運動をしていないわ。

お陰でなんとなく顎の下がたるんできたようなんだもの。

足も重い気がする。肉が付いたわよ絶対!



「このままお父様の言う通りに過ごしていたら、本当に嫁の貰い手がない、残念令嬢になっちゃうじゃない!」



お父様はあの事件以降、私を部屋から出したがらない。

私は何にも悪くないのに、何で閉じ込められなきゃならないわけ?

そりゃ、あの事件で攫われた廊下を見ると、背中がぞくっとして足がすくんだりするけど、そんなのあの場所を通らなきゃいいだけ。見なきゃいいのよ!

今、家の者達にあの場所を壁紙からすべて変えさせているから、場所の雰囲気が変われば何も心配いらないわ。

そんなことより、私が“太る”方が大問題!

醜くなったりしたら、今度こそ本当にクレールに嫌われちゃう。


侍女を連れて、私は一階から二階とグルグル屋敷の中を歩き回る。

一人だと飽きるから、侍女に何でもいいから話をさせて、話しながら歩く。

程よく体が温まり汗をかき始めた頃、廊下の向こう側からもう一人の侍女が走ってくる。



「お嬢様っ!マリエッタお嬢様ー!大変です!クレール様がお見えです!」


「クレールが?!」



クレールが来るなんて、あの事件以降初めてだわ。

でも……

今の私は、汗を掻いていてすぐには会えそうもない。



「すぐ着替えるわ。クレールを応接間に通して。彼を一人にはしておけないから、誰かホストに回してよ。」



すぐ着替えようと、自室に戻ろうとすると、伝えに来た侍女は複雑そうな顔をしている。



「いえ、それが…旦那様が今お話しされているようです。」


「お父様が?」



父は今日、王宮へ行くと言っていたのに、もう帰ってきた?

私は不思議に思いながら、「分かったわ。すぐ行く。」と侍女に言い、自室に戻った。


お気に入りのローズピンクでAラインドレスを侍女に持ってこさせた。

袖はパフスリーブで、リボンが揺れる可愛いデザイン。

私は満足に頷き、素早く着替えた。




廊下を急ぎ歩き応接間の扉まで来ると、ノックをしようとして手を止めた。



「では、こんなひどい目に遭った、マリエッタより、ラフィニア様を選ぶというのか?!」



父の怒声が漏れ聞こえてきた。

私はノックを止め、ドアに耳を付ける。



「私はすでに、マリエッタ様と婚約破棄しています。そして、ラフィニアと婚約している以上、復縁は致しません。」



クレールの声が父よりは小さいけれど、はっきりと聞こえた。

しかも、クレールの言葉の響きは取りつく島もない感じだ。


…お父様、私とまた婚約するようクレール様を説得している?



でも、私はあの時の夜を思い出していた。


ラフィニア様は私に言ったわ。

自分の気持ちを正直に言って、分かってもらえばクレール様は戻ってくるかもしれないって。

そうなったとき、ラフィニア様はクレール様と何も憂いなく別れることは出来るって。


私はドレスの裾をぎゅと握り、覚悟を決めて扉をノックした。



「誰だ!!」


「……私です。そんなに怒鳴ったら血圧が上がりますわ、お父様。」



私は扉を開けながら、ソファーに座る父を睨んだ。

対するクレールをちらりと見ると、彼は入ってきた私を見て腰を上げた。



「マリエッタ嬢。これ、お見舞いです。」



彼は私の顔を見ると、サイドテーブルに置いていた花束を持ち上げ、私に差し出してきた。

ピンクのマーガレットとかすみ草で、それを黄色のリボンで束ねた花束だった。



「……綺麗ね。」



私は、久しぶりに彼から貰うプレゼントを嬉しく思いながら受け取った。

花束を腕に抱きしめて、父の横のソファーに腰を下ろした。

私が座ったのを見届けて、クレールも向かいの席に腰を下ろす。



「その後、お身体はどうですか?」



彼は相変わらず優しい雰囲気で、私を気遣った言葉を使ってくれた。



「……変わらないわよ。ただの怪我なのに大げさなのよ。」



私の口は相変わらず憎まれ口しか叩かず、自分自身が嫌になる。

クレールも私の言葉に、眉を下げ苦笑いをしているし。



「そうですか。なら、良かったです。何か不安に感じたり、身体に不調を感じたりしたら知らせてください。この件を処理している者に報告致しますので。」



そういうと、クレールは立ち上がろうとする。


私は慌てて、一緒に立ち上がった。



「クレール。私が貴方を送るわ。お父様、いいでしょ?」



父に許しをもらうと、クレールと一緒に応接間から出た。

もう少しで夕方になろうとしている時間。

彼の後ろを花束を抱えて歩く。


あっという間に、一階エントランスに着いてしまい、クレールに「ここまでで結構です。」と断られてしまった。

言うなら今しかない。

私は、貰った花束に勇気を貰いながら、深く息を吸う。



「クレール。」



私が呼ぶと、彼は片眉を上げて私を見た。

彼の緑色の両目が綺麗で、肩に力が入っていくようだ。

言わなくちゃ。



「私は貴方がっ……好き…です。私が至らなかったのなら、努力する!だから、戻ってきて。私を見てください。お願い………クレールの傍に居させて。」



絞り出す声がどんどん震えてくる。

私は堪らなくなって、彼にもらった花束に顔をうずめ、俯いてしまった。

すると彼は私の前に立ち、目線を合わせた。

エントランスで、見つめ合う。


こんなに近い距離で見つめ合うなんて、久しぶり。


頬が赤くなっていく。

すると、彼は包帯が巻かれた大きな手で私の頭を撫でた。

びっくりしていると。



「ごめんなさい。私はマリエッタに戻る事はない。」



きっぱりした否定だった。

その言葉に、頭を撫でられている嬉しさも吹き飛んで、彼の胸に飛び込んだ。



「こんなに頼んでるじゃない!!何故よ?!戻ってきて!」


「…私は、今心から思う人がいるんだ。」


「“心から思う人”…ラフィニア様?」



私がラフィニア様の名を口にすると、彼は目元を細めてはにかんだ。



「うん。彼女と出会って、話をして共に過ごした。本当に短い時間だったけど、私の中で彼女は本当に大きくなっていて、大事なんだ。」


「………でも、ラフィニア様は言ったわ。私が貴方に気持ちを伝えて受け入れられたら諦めるって。………貴方が思う程、彼女は貴方を愛していないのよ?それでもなの?私の方が貴方を好きなのよ?」



私の言葉を聞いて、彼は若干狼狽えたようだった。

その瞳は少し寂しそうで悲しそうだったから、彼に縋る手に力を入れた。

しかし、彼はゆっくり瞳を閉じて開けると、私を両手で優しく押し返した。



「それでも、私はラフィニアを選ぶよ。困ったことに、どんな彼女でも私は好きになってしまうみたいなんだ。彼女が私の事を、それほど好きじゃなくても構わない。」


「そんなの詭弁よ!きっと耐え切れなくなる!だって……だって、私がそうだったもの!」


「?」



不思議そうに頭を傾げた彼に、私は睨み見上げた。



「私、クレールが私の事好きじゃないって気づいてた。それでも私は貴方が好きだったから、『いつか気づいてくれる。』『いつか私を好きになる』って、自分に言い聞かせてきた。けど、貴方は全く私と向かい合ってくれなかったじゃない!ラフィニア様だって、きっとそうなるわよ?」



私の言葉を聞いて、クレールは私の身体を今度こそ離した。

すると、口に手を当て、ボソッと呟いた。



「君も、私と向かい合ってくれなかったけどね。」


「はぁ?!」



今なんて言った?聞き逃さないわよ?!

私は令嬢に有るまじき、口を大きく開けて、不満を示した。

すると、クレールは当てていた手を離し、首の後ろに手を当てた。



「異性の友達なんていなかったし、周りも男兄弟ばかりだったんだから、君にどう接していいかなんか分からなかったんだよ。会えば不機嫌な顔をされたし、プレゼントを贈っても喜んでくれたのは最初だけだったから。」



聞き捨てならない話に、私の中のうっぷんが一気に爆発した。



「そんなの知らないっ!不機嫌って何よ?!ずっとほっとかれて、プレゼント贈れば満足なんだろ?って態度が気に食わなかったのよ!!」


「やっぱり気に食わなかったんじゃないか!」



クレールは私に食って掛かった。



「気に食わないわよ!私があの時喜んだのは、貴方が来たこと自体が嬉しかったの!プレゼントを催促したのだって、プレゼントを要求すれば、貴方がそれをもって私に会いに来てくれると思ったからなのよ?!」


「そんなの伝わらないよ!君は不機嫌で私と会っても、ニコリともしなかったじゃないか!」


「緊張してたの!好きな人が目の前にいるんだから、当然でしょ?!」


「当然なんかじゃないって。」



あーいえば、こーいうの口喧嘩を始めた私達は仕舞いにはゼーハーと息を切らしていた。

言い合ってお互いすっきりしたのか、しばらくすると口元に自然に笑みがこぼれてきた。



「はは…。初めからこうすれば良かったんだね。」


「ふふ…そうね。」



私達は、エントランスの真ん中でクスクス笑いあっていた。




「随分楽しそうな話し合いだったね。マリエッタ。」


「!っお父様!」


「サヴィニオン公爵!」



声がしたのは私の後ろ、二階に続く階段の上からで、お父様が下に降りてくるところだった。

クレールは腰を折り、私も気まずく両手を組んで明後日の方を見た。



「言いたいことを言い合ってこその婚約者だろう。クレール殿。戻っておいで。」



父の眼は公爵としての厳しい態度だ。

私は、クレールがどのように答えるのか、ちらりと見る。

すると、彼はすごくさっぱりした顔をしていた。



「いいえ。お断りします。…ラフィニア嬢には、きっと私が必要だから。」


「……君が私の申し出を断ると、ラフィニア嬢はあの事件のせいで困った立場になるだろう。あの事件の発端は彼女だからね。」



父の言葉に、対峙する彼は両手を握り、真剣な眼で言葉を返した。



「…では、貴方と全面対決致しましょうか?彼女の名誉を守る為に。」



私は、父に堂々と言い返したクレールに戸惑い、彼を凝視した。

そこにいたのは、あの弱気だった私の婚約者ではなかった。

さっき思いをぶつけ合った彼も、私の知っている彼じゃない。

私の知らないクレール。

自分が好きだった彼より、さらに素敵になってしまったクレールだった。


でも、彼をそうしたのは私じゃない。


私は、その事実が堪えようもなくつらかった。



これはもう………ダメなんだな。



私は、自分の胸の痛みを堪えながら、貰った花束を待機していた侍女に任せ、父を見た。



「お父様。もういいですわ。私、彼にずっと言いたかったこと全て言ったら、すっきりしちゃいました。…もう、ジョビニア次期公爵に、未練はありませんわ。」


「しかし、マリエッタ?」


「いいの。ジョビニア次期公爵、お元気で。」



父を制止し、彼に今まで、14年間の中で一番綺麗な礼を彼に贈る。

足を折り、スカートを広げ腰を下げる。頭は背中と真っ直ぐに……。


立派な公爵夫人になる為、沢山の家庭教師に習った。

貴方と夫婦になる為に頑張った、最高の礼。



「…さようなら、マリエッタ=サヴィニオン公爵令嬢。公爵、失礼致します。」



クレールは、最後に別れの言葉を口にして、そのまま玄関へ向かう靴音が響く。

玄関の扉が開いて閉まる。



パタン…



「マリエッタ?」


「さてと、そのお花、花瓶に活けなくちゃ。……最後の贈り物だもの…。」




心配を含む父の声を無視して、私は侍女に預けた花束を受け取り、階段を登る。

自室に戻り、侍女には花瓶も持ってこさせる為退室させた。




「綺麗ね…。」




花束を抱きしめて、力なくその場で膝を着いた。

マーガレットの花に水滴がポタポタと落ちていく。

頬を濡らし、嗚咽が漏れる。






マーガレットの花言葉… 希望 常に前進

かすみ草の花言葉… 幸福






 “貴女の歩む道が、幸福で希望ある道であることを願っています。”






最後の花束の花言葉は、作者が知る花言葉でした。

もしかしたら、他に違う花言葉があるかもしれません。お許しを…


ここから、どんどんスッキリしていきましょう!!

作者も暗いの苦手です…(書いてる張本人が言っちゃう系)←あ…

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