事後処理 -ゲイル目線-
翌日、俺は王宮の廊下を急ぎ歩いていた。
今日は、昨夜の事件の報告と事情聴取だ。
俺は、突き当りにある会議室の扉を叩く。
「どうぞ。」
中から侍女が扉を開け、私は入室する。
室内には大きな楕円形の会議テーブルがあり、上手にシルビア、その向かいにランス、クレール、ビスターが座っている。
俺が最後の入室者のようだった。
席に座るシルビアに簡易の礼を贈ると、シルビアは「いいの。時間が惜しいわ。」と俺の礼を解かせ、席を勧める。
俺はランスの隣を一つ分空け、腰を下ろした。
俺が席に着くのを見届けると、シルビアが顎を引いた。
「さぁ、始めましょう。フォード次期侯爵、この事件を最初から話して。」
シルビアに話を振られたランスは、立ち上がった。
「昨夜、サヴィニオン公爵邸の夜会にて、賊が侵入。ラフィニア=コンタージュ侯爵令嬢とマリエッタ=サヴィニオン公爵令嬢が拉致されました。主犯は、ダビニオン=ソルベール。元次期侯爵だった男です。その他の賊は26名。」
「…全員捕えたのね?」
「はい。現在、王都近郊の牢獄に捕えてあります。」
「…この件で、私に言わなくちゃいけないことはない?」
シルビアの目がランスを見据える。
「ないです。」
ランスの瞳に嘘はないように見える。
それでも、シルビアは最後の尋問とも言える言葉を口にした。
「貴方が計画していたこととは、別?」
「はい。俺が用意していた計画は、実行する前にダビニオン達が現れてしまい、実行せず。昨晩の事件になったので。」
「そう。」
ランスの言葉に今度こそシルビアは質問を止め、俺を見た。
「コンタージュ次期侯爵。ジョビニア次期公爵。彼女たち2人の様子は?」
俺はクレールを見た後、お前が先に言えと頷いた。
すると、クレールは頷き返し、シルビアに向き直った。
「マリエッタ=サヴィニオンは、昨晩のうちに送り届けました。現地で主治医への連絡もさせていたので、自邸に到着してすぐ手当を受けさせました。診断結果は、数か所の擦り傷のみ。目立った怪我はありませんでした。」
「そう。では、コンタージュ次期侯爵。」
「ラフィニアも、昨晩のうちに自邸に帰宅。同じように主治医に診せた。…こちらは、全治1か月。全身に打撲と数か所の切り傷だ。」
「そう。分かったわ。」
シルビアはため息をつき、テーブルに両手を出し組む。
「…ビスター=エタローン次期侯爵。」
俺達の一番手前に座っていたビスターは、話を振られ顔を上げた。
「えー…国王陛下へはお伝え済みですが……。ダビニオン達賊の件です。昨日彼らを討伐した後、尋問を担当しました。まず、ダビニオンですが、薬物反応が出ました。うちの国で違法で入手も難しい薬物です。少しの摂取量で、強い催眠効果と狂暴化、カオス化を引き起こします。彼の身体を隈なく調べ、摂取し始めたのは最近ということが分かりました。そして、彼に手を貸した賊たちですが、全員、敵連合国の者達でした。」
一息に言い終えたビスターの眼は真剣だ。
言いたいことは分かる。ダビニオンの事より、厄介な事態だ。
賊はこれから一戦交える敵国。
この国は、他国の者を裁けないのだ。
敵国だろうと、引き渡しが鉄則。
「…厄介ね。」
ビスターの報告に頭を軽く振り、俯くと組んだ手を額に当てている。
「この件で、国王陛下はなんと?」
ランスには珍しく緊張した声を出した。
「…ダビニオンの父親、ソルベール侯爵と朝から話をしているわ。薬に精神を犯され、貴族として人間としてあるまじき行為を行った。しかも、公爵・侯爵令嬢を誘拐、危害も加えている。極刑かしら……。出来れば、被害に遭ったご令嬢たちにもお話しを聞きたいところだけど…。」
「「無理です。」」
クレールと珍しくハモった。
俺達の反応は想定内だったのだろう、シルビアは頷き、俺を見た。
「…分かってるわよ。彼女たちには、自身の怪我を治すことに専念させてあげたいわ。…この事件は、陛下も動いているから、近日中に処理を終わらせる。あ、因みに、賊の密入国を許したフォード侯爵家には、厳しい処罰を考えているって。汚名は、この戦いで返上せよと仰せだったわ。」
「ぅわ……畏まりました。」
シルビアは、俺達に話し終えると立ち上がった。
ランスは両手で大げさに嘆いている。
俺はビスターへ目配せすると、奴は頷いた。…後でダビニオンに関することで話をしたいからな。
そして、クレールに視線を送ると、奴も気づいて小さく頷いた。
そのまま立ち上がり、クレールと共にシルビアへ腰を折る。
「殿下。折り入ってお話しがあるのです。」
シルビアは俺達に向き直ると、まだ円卓に座るランスとビスターを見た。
「聞きましょう。ランス=フォード、ビスター=エタローンは退席を。この部屋の周辺の人払いもさせて。」
「「はい。」」
そして、大人しく退室していく2人を見送り、扉が閉じるのを確認したところで、俺は立ち止まったままのシルビアに口を開いた。
「ラフィニアの件だ。」
「私も、マリエッタ嬢の件です。」
「話して。」
先を促すシルビアに、俺達は失礼を承知で、話す距離を縮めた。
まず、話しておかなくてはいけない。
俺は、シルビアに慎重に話し始めた。
「まず、妹たちの名誉は守られている。安心して構わない。」
「そう。良かった。本当に。」
シルビアは一番心配していたことだろう。明らかに安堵している。
こんな話、よく知ったランス、ビスターの前でもしたくなかったから、安心してしゃべれる。
「ただ…。」
瞳に陰りを見せ割って入るクレールに、俺も俯く。
「マリエッタは、男性を怖がっています。そして暗闇にも、強い拒否反応を起こします。まだ事件から間もないこともあり、興奮状態だからとは思いますが……。心のケアが必要です。」
「ラフィニア様は?」
「……目を覚まさない。」
「「え?」」
マリエッタ嬢の事も大事ではあるが、俺はそれよりも妹の方が大事だ。
俺の話に驚きを隠せない様子の2人。
俺は額に手を添えた。
「主治医が言うには、強い精神的ショックを受けると、人間は防衛本能で2~3日深い眠りにつくことがあるそうだ。昨日の今日だからな。様子を見ることになっている。」
「…心配ね。」
「あぁ。」
シルビアの声には心配の色が混じっている。彼女は俺の肩を叩くと、長いはしないというように「では、2人とも事態が何か動いたら知らせて。」そう言い残すと踵を返して、部屋を退室していった。
「ラフィニアが目覚めないというのは…本当ですか?」
シルビアの退出を見送っていると、俺の横にいるクレールが動揺しながら言葉を発した。
奴の両手を見ると、力が入って震えている。
俺は感情的にならぬよう、自身を落ち着かせながら言葉を選ぶ。
「…あれだけのことが起こったんだ。仕方ないだろう。それに、ラフィの怪我は絶対安静が必要だ。眠っていた方が治りも早いだろう。」
だから、心配すんな。とクレールの肩を叩くと、
「お見舞いに!」と、強い力で肩を捕まれた。
「だから、起きてないんだっての…。迷惑だ。」
クレールは、こんな反応をする奴じゃなかったように記憶している。
真剣な色を帯びたクレール。
「…何かせずにはいられないです。」
「……はぁ。お前ってこんな奴だったか?…分かった。目覚めたらすぐ連絡する。それまではお前の仕事をしてろ。いいな?」
最後は俺が折れる形で、クレールに言い含めると、まだ納得しきっていない顔はしていたが、「この話はおしまいだ。」と断ち切ると、一足先に、部屋を出ていく。
廊下を歩き角を曲がると、ランスとビスターが壁を背に、待っていた。
俺に気づいたビスターは背を壁から離し、俺にゆっくりした足取りで近寄ってきた。
「話は終わりました?」
「あぁ。……俺はビスターしか用はないんだが?」
この場に未だ留まるランスを睨むと
「俺も、ビスターに話があったからな。お前もダビニオンに関することで、こいつを待たせてたんだろ?」
……俺は自分の考えを晒すほど馬鹿じゃない。俺は、眉を顰め眼鏡を押し上げた。
こいつに今は構っていられない。
話を進めることにした。
「ビスター、賊のところへ連れてけ。」
「俺も行くぜ。」
俺達の只ならぬ雰囲気を感じ取り、すぐ回れ右をするビスター。
「……一応言っておくぜ?…殺すなよ?」
そのまま前を歩きだすビスターに、俺は口角を上げる。
「殺さなければ、ナニしてもいいだろう。拷問って、いいよな…。ワクワクする。」
「そーだな。骨の一本二本。全身複雑骨折でも、根性ありゃ生きてるさ。」
「あーーーーあーーーーー聞こえないぃーーーーー!!」
俺達の囁きを、ビスターは全力で両耳を塞いで大声あげて逃げてった。
軍人の2人ですから、それはそれは得意分野でしょうね。
ラフィニアさんは目覚めるでしょうか?
≪注釈≫
ゲイルがこの国は、他国の者を裁けない。敵国だろうと、引き渡しが鉄則。と説明し、又、シルビアも「厄介ね。」と話しています。
→狼藉が無罪になる法ではありません。この国の法で裁かず、その罪人の国で裁きを受けさせるということです。これは、もし罪人の刑が、無期懲役刑若しくは罰金刑(支払能力のない場合、労働を強いる)になった場合、その者をこの国が預かることになってしまうからです。強制護送する際には、外交貴族(国王代理交渉人と検事が合わさったような人)が同行。この国での罪を示し、見合う刑を受けさせるようします。又、この時、外交の手札としても使われることがあります。
今回の場合、近日中に戦争が起こります。今の時期に引き渡しなどは出来ません。しかも、戦いが始まれば終戦まで賊の身柄をこの国で拘束する義務が発生してしまいます。しかも、終戦後、捕虜等の外交交渉があった場合、この件は後付けでの処理となり、事件の重大さや問題性を知らしめることが困難になります。その為、“厄介”なのです。
ただ、ゲイルとランスは言っていました。どのような状態でも“生きていればいい”と。“敵国だろうと、引き渡しが鉄則”だが、虫の息だろうと、瀕死状態でも、その罪人が生きていればいいのです。
更に、このことは他国も知っているので他国から舐められたり、やりたい放題を許してはいません。




