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ひとつの光路 三つの星命  作者: 慧ノ砥 緒研音


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第22話 眠る女王(明暗の面 : リュシア編)


 エルディア城、女王の間──

 リュシアは、深い眠りの中にいた。


 夢の中でリュシアは、もうひとりのリュシアと対峙していた。


 『我の邪魔をするでない! この小娘が!』

 「あなたは誰! わたしから出て行って! カレンさんやレオンさんに、あんな酷い事をして……」

 『黙れ! 我はリュシアの本当の姿なるぞ! 出ていくのはお主じゃ!』

 「違うわ! 私は貴方のような事をする人を許さない! あなたには負けない! 私がリュシアよ!」

 

 ターコイズブルーの瞳のリュシアと、赤い輪郭の瞳のリュシア。お互いが、夢の中で剣を抜ぬいた。


 ふたりのリュシアによる剣戟が響き渡った……

 そのたびに、寝ているリュシアの体がわずかに動く……


 * * *


 エルディア王国、城内の軍通信センター。

 

 上空の漆黒の偵察機から通信が届いた。

 『リュシア陛下と謁見したし』


 サディス「どこの国の船だ?」

 通信士「分かりません。 突然、衛星エレーネの影から現れたようです」


 軍隊長サディスは、しばし思案した。

 「リュシア女王は病でせっている。──という事にしよう。 これ以上、面倒なことにならぬといいが……」


 * * *


 エルディア王国の丘の上に、漆黒の船が静かに降りてきた。

 兵士を10名ほど引きつれて、サディスが出迎える。

 サディスが呟く「見たことのない船だな……」


 船からは背の高い操縦士。そして、小型のアンドロイドが降り立った。

 背の高い男性に手を取られ、最後に女性が降り立つ。


 「オーホホホ! はじめまして~エルディアのみなさーま。 わたくしはー、はるか遠き星から旅を続ける惑星ケーゼの女王トルテでーす!」


 「これは、これは、こんな小さな国にわざわざ足をお運びいただき光栄です」

 サディスが首をかしげながらお辞儀をする。


 眼鏡を外して、ツインテールを下ろし、奇抜なメイクをして、派手なドレスで変装した、ミレイは続ける。

 「旅の途中で~、貴国では新しき女王が着任されたと聞きまして~、せっかくですのでお祝いにと…」


 「トルテ女王、ありがたき幸せ。 しかし、あいにくですがエルディアの女王リュシアは現在、病に臥せっておりまして……」


 変装したユリスのメガネがずれる。

 メガネをあげながら、ユリスがアドリブを利かした。

 「それは、ちょうどよかった。 この小型アンドロイド は、我が国の英知を集結した最先端医療ロボットです。 一度診察してさしあげましょう」


 真っ黒ボディに塗装されたファランが重厚な声を響かせる。

 『わ、私にお任せください』


 サディスは困惑する「そ、それは……」


 ユリスが付け髭を抑えながら畳み込む──

 「一刻も早く診た方がいいです! これも何かのご縁でしょう! さあ、さあ! 案内をお願いします」


 サディスは、城に招くしかなかった。

 「そうですか……では、王宮医局の立会いを条件に、診察を許可します」


(王家の空位は混乱を呼ぶ。 医師を立ち合わせ…体制は守らねば…… 何かあっても…… そうか!……それはそれで…… 次の国王には、ワシが……)

 そんな事を考えながら、サディスは城のサロンに三人を案内する。


 待っている間、変装したミレイとユリスは、ティーカップをカタカタ音を立てながら口に運ぶ。


 ファランが小声でしゃべる。

 『ユリス様、私は医療ロボじゃありませんよ!』

 『ああでも言わなきゃ、会わせてもらえない流れでしょ』

 ミレイがチーズケーキを頬張りながら、ファランを急かす。

 『はやく、この場で医療用語データをダウンロードして。 とりあえず、それらしい言葉をならべればいいから。 しかし、本当に病気なのかしら…… 古代文明の話は聞けないかもね……』


 『医療プロトコルと診断語彙を臨時ロードします………… 完了しました』

 ミレイ「あら……いつもより3秒早いわね」


 ミレイがチーズケーキのおかわりをしようとしていた頃……

 三人は女王の間に通された。


 大きな扉を開けると、エルディアの医師達に囲まれて少女が眠っていた。

 

 ミレイ達は、眠る女王に深々とお辞儀をした。

 女王は、ベッドの中で時々うなされていた。しかし、翡翠色の髪の毛は輝き、近寄り難い程の美しいオーラを放っていた。


 ファランは、それらしく青のランプを彼女の頭の先からつま先までゆっくりと照らす。


 その時、ファランの別の青ランプが瞬いた。


 ファランの動きが一緒止まる。

 ファランは声に出さずに、ミレイとユリスのイヤホンに信号を送る。その信号はセラフィム号で見守るソフィアやカレン達にも共有された。


 『リュシアの脳に超小型ドローンが入っている』


 それは、惑星リュミエールでのソフィア暗殺未遂事件。容疑者の脳に仕込まれたドローンと同型だった。

 何者かの遠隔による干渉波にて、その超小型ドローンは容疑者の脳で爆ぜた。


 ソフィアは、モニター越しに見た、あの容疑者の最後の顔と言葉を思い出していた…… 


 『エルディアの血を断つのだ…』


 ソフィアが青ざめる 。

 『また、遠隔で起爆されるかも…… ファラン!どうにかならない?』

 ソフィアの言葉は、ミレイ達のイヤホンにも届く。

 ミレイがタブレットで文字を送る……

 『通信が遮断されたところに移動させるか、妨害電波をファランから発信し続けるか…』

 ソフィア『今、この瞬間も起爆信号が届くかもしれない。 ファラン、その場で妨害電波を発信して!』


 『了解しました。 妨害波は半径三十メートル。王宮機器に軽度の誤作動が出る可能性があります』


 ハヤセ「しかし、このままファランを置いて妨害電波を出し続けるわけにもいかない…」

 レオン「リュシアを誘拐しよう。セラフィム号まで運べれば、何か他の方法も見つかるかも…」


 カレンも頷く「操られてたのね…… リュシア…… あんなにいい子だったのに…… 原因がわかってよかったわ。 お姉様、リュシアを助けて!」


 レオンは、カレンの目を見つめる。

 「本当にいいの?カレン。 リュシアはカレンを殺そうとしたんだよ」

 「うん…… レオン…… 憎むべきは、リュシアでは無いわ…… リュシアを洗脳している黒幕よ」

 レオンとともに、ソフィアも頷いた。


 ソフィア「決まりね…… ミレイ! そこからリュシアを連れて脱出できそう?」


 ミレイが端末で返信する。

 「強制的な誘拐は難しそう…… ターゲットが危険だわ」


 ──窓から地面までは、距離がありすぎる。 黒の偵察機を遠隔操作して窓の外に待機させても、眠っているリュシアを抱えて窓から外に出ること。 もしもの銃撃戦になる事も想定すると、ユリスが居るとは言え危険──


 「なんとか無傷で出られるように考えてみるわ」


 その時、ファランの妨害電波により干渉波が途切れたせいだろうか、リュシアが目を覚ました。

 瞳の赤い輪郭がほどけ、リュシアの睫毛が震えた。

 「うぅう…うん?…… な、何あなた達!」


 サディスがなだめる。

 「陛下は、深い眠りについておりました。 病かと思い、医者を呼んだ次第です……」


 「そ、そうなのサディス隊長……ありがとうございます」

 その素直な返答に、安心して額の汗を拭うサディス……


 * * *


 それは、リュシア女王が目覚めて数分しか経っていなかった──


 城壁の外に、微かな高周波の音が近づく。妨害波に反応して、何かが “探り返して” いるように……


 夕暮れ迫るエルディア城の正門を叩く音がした……


 そこには、黒装束に黒い仮面をつけた背の高い男が立っていたのだ。






 フフフ……こんばんは。我は真の女王リュシアなるぞ。

 いつも、応援してくれて感謝する。

 “おとなしい方の私”は、まだ眠っているようじゃ。代わりに、少しだけ話してあげよう。

 

 人はよく言う。光があれば、闇もあると。

 けれど、違う。

 闇があるからこそ、光は形を得る。

 我は、その闇。光を照らすための影。


 そなたは、影を恐れるか?それとも哀れむか?

 フフフ……どちらでも構わない。

 恐れも、哀れみも──どちらも同じ影の色をしておる。

 そう……所詮、光の中に立つ者ほど、闇を欲しているのだから。

 ……次に目を覚ますのは、どちらの“私”か。

 その瞬間を、見逃すでないぞ。




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