第21話 赤の輪郭(明暗の面 : ソフィリュシ編)
衛星セレーネの上空──
白銀と漆黒の偵察機は、無事にセラフィム号に帰還した。
セラフィム号、格納庫前の通路──
扉が開くと、カレンが小さく息をのんだ。
「……お姉さま!」
次の瞬間、ソフィアも駆け寄り妹を抱きしめた。
互いの鼓動が伝わるほど強く。
言葉はなかった。ただ、長い別離が一瞬で埋められていく。カレンの頬を伝った涙を、ソフィアは静かに受けとめる。
「生きていてくれて……よかった……」
その一言が、確かな再会の証となった。やがて二人は、まだ濡れた瞳のまま並んで歩き出す。
待っていたのは、厚い隔壁に閉ざされた実験室だった。
ミレイとファランが、ソフィアの回収したビースト型兵器のコア部分を解析していた。
近況を共有した、カレンとレオン、そしてソフィアが見守る。
ファラン『メイン設計は、やはりエルディアの古代文明と同じコードが使われています。しかし特出すべき事項が発見されました』
ソフィアの目が見ひらかれる。
『エルディアの古代文明と、そこから派生したリュミエールの文明、いずれのコード配列とも違う記録があります』
ソフィア「どういうこと?」
『もうひとつ、エルディアの古代文明から独自に成長したと思われる文明が存在する可能性があります』
室内の空気が凍りついた。
ミレイは唇を震わせる。
「第三の……文明……?古代の伝説や歴史書には、エルディアの文明は、リュミエール以外に、その知恵が流れた履歴は見つからないわ。やはり盗まれたのか……」
ソフィアも低くつぶやく。
「存在しないはずの影が、ずっと私たちを見ていた……そんな気がする」
レオンも眉をひそめる。
「エルディアのリュシアが何か知っているかもしれない。ここ数年でエルディアの古代兵器を起動させたのは彼女とカレンだけだから。機動させる能力が無いと盗む事も出来ないだろう……」
カレン「でも…リュシアが、もしデータを盗んだとしても、それをこの衛星の兵器に流用して作りだすなんて……しかも、リュミエールで誰かを操作して、お姉さまを暗殺しようとしたのよね?」
レオン「うん、リュシアひとりでは無理だと思う。共犯がいるか…それとも、黒幕がいるか…」
ソフィア「リュシアと話をしないと進まないわね」
レオン「注意して。リュシアは危険だ。もともと、クーデターを起こすような子ではなかったのに……」
ソフィア「わかったわ。エルディアに降りましょう」
***
ソフィアとカレンが、ふたたび姉妹の再開を交わした、数日前……
エルディア王国、玉座の間──
新女王リュシアは、ひとり玉座の上で膝を抱えていた。
翡翠色の髪は、かつての輝きを取り戻し、王冠がなお一層と、彼女の髪とオーラまでをも輝かせていた。
しかし、そのターコイズブルーの瞳は暗く沈んでいた……。
「レオン様……寂しいわ……早く会いたい……」
その時、扉がノックされる。
女王リュシアは、両足を椅子から降ろすと膝を組んで座り直した。
その瞬間、ターコイズブルーの瞳に赤の輪郭が現れた。
エルディア王国、軍隊長のサディスが入ってくる。
「リュシア陛下、報告がございます」
「どうした!サディス!可愛い我が下部よ」
「謹んで申し上げます!隣国グラナディアより連絡。 新規資源の貿易交渉、並びに古代文明遺産の共同研究について。 再度交渉の打診がありました」
リュシアはつまらなさそうに、グラスを口に運ぶ。
「以前、魔女が女王だった頃、国交は断絶しました。 しかし、リュシア様が政権交代を成し遂げた情報を聞き、再度、国交を再開させたいとの申し出です」
リュシアは、グラスの液体を飲み干した。
「フフ……面白い……サディスはどう思う?」
「はい!グラナディアは、資源が豊富な国です。 噂では、まだ我々も発見していない未知の鉱石を発掘したとか…… 今後のエルディア王国の発展も見込める大変有益な話と存じます。 これも、リュシア様が女王になられた絶対的なお力のお陰かと…」
「……つまらぬ」
「え?」
「つまらぬと我は申しておる」
サディスの額から汗が流れてきた。
「サディス!交渉や貿易などは不要じゃ!」
「し、しかし…」
リュシアは、玉座から立ち上がると階段を降りながら、ひざまずくサディスの前に立って翠玉の剣を抜き放った。
サディスの喉もとに、冷たい刃があてがわれる……
サディスの顎から汗が滴り落ちる。
「フフフ、隣国グラナディアを攻めようではないか…… 我が下部のサディスよ…… 鉱石も、土地も、全てエルディア王国の物とする。 反発するグラナディアの国民は皆殺しにしてしまえ!」
「は、はい!仰せのままに…」
サディスは、逃げるように玉座の間を後にした。
* * *
翌日、エルディア王座の間──
「リュシア陛下! 報告いたします」
サディスが、二人の大臣を引き連れて来た。
「王国の有識者とグラナディア王国への侵攻に関し、戦略を整えています。 その途中報告です」
大臣が声を震わせながら報告する。
「グラナディア王国も軍備は弱くありません。 古代文明の研究も進めている情報があります。 叩くならば、友好を結ぶとみせかけて、奇襲攻撃に転ずるのが宜しいかと……」
大臣は、恐る恐るリュシア女王を見上げた。
リュシアは話を聞き終わると、ゆっくりグラスを口に運んだ。
そして開口一番。
「サディス軍隊長。大臣方。 いけません。 無駄な血を流す事はありません。 グラナディアとエルディア、両国の繁栄を目指しましょう。 この両国の発展は、惑星エルディアだけでは無く、全宇宙の平和への一歩となると、私は考えています」
その瞳はターコイズブルーのように澄んで静かに輝いていた。
唖然とするサディスと大臣達……
「しょ、承知しました。 陛下。再度検討してまいります!」
そそくさと、退出するサディス達…
* * *
ドアが閉まると、大臣とサディスはひそひそと話をはじめた。
「やはり、女王は気がふれている。 正常とは思えぬ」
「サディス殿、やはりリュシア女王も魔女に取り憑かれているのでは? 今こそサディス殿が真の王になるべきかと…」
「駄目だ。 リュシア女王は、古代兵器を扱う。 あの古代兵器には、我々軍隊が総力をあげて挑んでも、リュシア女王ひとりにも勝てぬ……」
「ならば……寝ている間に……兵器を起動させぬ間に殺してしまえば……」
サディスは、うなだれたまま自室に戻っていった…
* * *
その夜、リュシアはひとり女王の間と呼ばれるベッドで独り、うなされていた。
言い争いをするように、口が勝手に動いている。
時々、見開かれるその瞳は、左が赤に縁取られ、右の瞳は、深い緑青に輝いていた。
叫ぶリュシアの声を聞きつけ、侍女が部屋に入るとリュシアは気絶をするように、深い眠りに入った。
次の朝になっても、夜になってもリュシアが目覚める事は無かった……




