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おまけ(バート視点)

※バート視点で、2話と3話の間です。






 静かな空間に、足音だけが響く。

 城の中には至る所に騎士の姿があり、ひどく緊張を含んでいるのが感じられた。

 けれど、この場を気にするよりも、頭の中を占めるのは説明もできないまま別れた彼女のことだけだった。

 不安そうな顔をしていたけれど、大丈夫だろうか。

 人のことをまるで自分のことのように考える彼女だから。

 そう考えながら歩き続けていると、開かれた扉の中から声が聞こえた。


「――久しぶりだな」


 聞こえた声に、奥底にあった記憶が蘇る。


「ああ、久しぶり。魔術学校のとき以来……かな」

「書店の店主なんかに収まっているらしいな」

「ぼくにとっては大切な場所だけどね」


 視線を向ければ国の紋章が入ったローブが目に入り、その集団の先頭に立っているということは、魔術団筆頭の立場にあるのだろう。


「ならば、その力を国のために使え。魔術書を解読するよう、国王陛下からの命令だ」


 広い部屋の奥には幕が張られており、その中に人の気配がした。

 姿は見えないけれど、その奥にいる人物がこの国の王なのだろう。


「城にも魔術師は大勢いるのでは?」

「つべこべ言うな。王命だぞ」


 痺れを切らしたような早口と共に、その後ろにいた魔術師たちが囲い込むように動いた。

 同時に、部屋の中の空気が震える様子が伝わった。

 体の周囲を目に見えないものが囲み、手足の動きが封じられる感覚を感じる。

 逃げられないようにして、魔術書の解読を強制させるつもりだろうか。

 分かりやすいやり方だ。

 けれど。

 そんなことに甘んじるつもりはない。

 拳を強く握りしめ、集中させた力を一気に解き放って、見えない鎖の拘束を砕いた。


「……っ!?」


 周囲のざわめきと共に、いっせいに距離が取られた。

 懐かしい、と感じる。

 昔もよく、持つ力に嫉妬されながらも怯えられて、周囲から一線を引かれていたあの頃。


「魔力を使って監禁しようという気なら、もう少し力のある者を連れてきてからするべきだ」

「おまえ……っ」


 同窓の苦々しい表情も懐かしい。

 魔力を持って生まれて、魔術学校に通っていた頃、この力に対する畏怖と嫌悪の目が嫌になって、魔術師の道を放棄し一人で魔術書を読むことを選んだ。

 何度も魔術師への誘いをかけられたけれど、興味も未練もなかったし、開いた小さな魔術書店は落ち着く居場所だった。

 そうやって何年も静かな生活を守ってきた。

 多少の陰口くらいは気にも止まらない。

 風に流せば良いことだ。

 一人の生活は気楽だった。


「けれど、守るものができたから、簡単に服従させられるとは思わないで欲しい」


 殻に籠るような生活にある日、突然差し込んだ外の光。

 急に雨が降り出した日、店の軒先に一人の女性が雨宿りに駆け込んできた。

 巻いたエプロンに書かれた名前は近くのパン屋のもので、手にパンを抱えていたので配達の途中だと見当がつき、傘を貸した。

 たったそれだけだったのに、お礼と共に傘を返しに来て、いつからか食事を忘れるぼくを心配してパンを持ってきてくれるようになり、自分のことでもないのに陰口に反論してくれたお人好しな彼女。

 約束もあるし、もう一日だって彼女の顔を見ないなんて耐えきれない。

 王命を断ると後々厄介になるだろうけど、自由を奪われて強制されるなんて真似に従っては、この先も良いように使われるだけだ。


「さて、魔術書の解読をしようか。早く帰りたいから、惜しみなく協力するよ」


 それなら、持てる力と知識の全てを使って早く片付けたい。

 国王や魔術団は魔術書を解読することに一ヶ月くらい予定していたらしいけれど、そんなに長い間会えないなど無理だ。

 不眠不休の末に十日で解読に成功した後、今後一切、魔術書店とソニアに関わらないことを約束させて、愛しい彼女に会うために城を後にした――。






穏やかな話し方のせいか逆に裏のあるヤンデレみたいになりましたが、何もしなければ無害で平和主義者のバートです。


ここまで読んで頂きありがとうございました!

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