バラ園
知世はバラが好きだ。おじいちゃんの家に行くとここのバラ園ほどではないけど、いろんなバラがあった。なかでも、玄関のアーチに巻き付けてある蔓バラが知世のお気に入りだった。いいとこのお嬢様になった気分がするから。
バラの甘く優美な香りが知世の鼻を刺激する。
優弥との口げんかの応酬のあと、バラの香りに誘われて、知世はバラ園に向かった。
優弥はついてきてはくれない。そりゃそうだ。子供じみたけんかをしたんだから、しばらくは離れていたほうがいいだろう。
(そう、あのときも・・・)
知世の古い傷が痛む。
あのとき、美優は言った。あのときとは、美優とは会えなくなるその前日だった。
「知世は私より優弥が好きなんでしょ」
「うちに来ても、いつも優弥のことを見てた」
図星だった。優弥のことは小学校のころはなんとも思っていなかったが、中学2年くらいから意識するようになっていた。
一緒に生徒会の役員をするようになってからだった。頭がよく、なよなよしていながらも、仕切り上手な優弥は生徒会長から重宝がられていた。
中3になって、優弥は案の定、生徒会長になり、男女問わず人気だった。運動もそこそこできるし、顔もそこそこいいほうなので、女子からは生徒会長が司会をするたびに、黄色い声援が飛ぶほどだった。
知世は、中3では生徒会役員にはならなかったものの、優弥に会いたいばかりに美優の家に行っていた。
美優の弾くピアノの曲より優弥の弾く曲をずっと聞いていたかった。優弥の後姿を見ていたかった。
そう、美優の最後のセリフを聞いたときも、バラが咲いていた。




