↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/2

葡萄

戦闘が発生したりしません。戦闘を見たいという方は無理して読まなくても大丈夫です。

静かな店内。

壁にかけられた時計の短針は12を示していた。

時折、ワイングラスの中で紅の色をしたワインが揺れ、ほのかに匂いが立った。

ワイングラスの縁に唇をつけ、少し傾けながら口の中へと流し込む。

静かな店内に小さくかけられた音楽以外にワインが動く音が混じる。

飲み終わり、空となったワイングラスをテーブルにコトリと音を出しながら置いた。

弱くつけられた照明によってグラスが柔らかく反射し、部屋の隅を照らした。

今日も客は俺だけだ。

こんな辺鄙なところにあるバーなんか来るはずもないが。

静かな雰囲気でうまいワインが飲めるなら需要もあるだろうに、あいにくとここは高度の高い場所に位置し、機械人の格納庫まで存在するせいで人が寄り付かない。

「あぁそうだ。前回の依頼だが、依頼主から連絡が来た。聞くか?」

「聞かせてもらおう。聞かなきゃ何かを失いそうだ。」

情報は必須だ。特に、まともな情報機関も存在しない開発惑星においては自分の耳と目で見聞きしたものじゃないと信じられない。

それに、信頼関係というのは大事なものだ。

「前回の機械人三機の情報と引き換えに、あんたの機械人のカメラ録画をよこせだそうだ。」

「はぁ。」

前回の機械人三機…あのコックピットのなかったやつか。

おそらく、なかったことに気づいている前提で、それの真実のかわりに対価を払えということだろう。

実際、俺も気になっていたところだ。

それに、録画ぐらい渡したっていいだろう。録画によってわかった真実がこちらに伝えられることはないんだろうが。

「いいだろう。渡してやれ。」

「了解だ。こちらでやっておこう。後でお前の端末に共有しておく。」

それきり会話が途切れ、またも静かになる。

無駄な会話は不要だ。小粋なジョークやかる口程度は信用の証明や緊張の緩和のためにたたくが、ほかは別にいいだろう。

無理して手にしていようと引っ張るほどすぐに糸は切れる。

なら、いいだろう。

空になったワイングラスを手に持ち、カウンターの上段に置く。

ヤブ医者は置かれたグラスを丁寧に持ち、新しいグラスにワインを注いだ状態で同じ場所に置いた。

それを受け取り、少しだけワインをグラスの中で揺らす。

少し前に嗅いだ、ほのかな良い匂いが立ち上る。

その匂いはわずかに人を惑わせるような匂いだった。

葡萄の花言葉は忘却。

この瞬間だけは、人殺しであることと、今この瞬間も命の人形劇が起こっていることが忘れられた。

もう一度、その匂いをかごうとワインを揺らすが、さっきのような匂いは感じられない。

一時的な忘却はあとにある想起をつらくさせる。

[時間はすべての薬だという。だがそれは違う、時間は遅行性の毒にほかならない]

いつの日か読んだ小説の人物が言っていた言葉だ。

時間は過去の出来事を風化させ、やがて諦めさせる。

なら、忘却の時間にすがり、現状の毒をできる限り遅効性の毒に変えてしまおう。

そして、すべてを諦める。

過去の選択を後悔しているのならば、一時的にでも忘却し、時間をできる限り伸ばし、毒を遅効性の毒に変えてしまえ。

この紅に染まった液体を飲み干し、全身に酔いを回す。

葡萄の花言葉には酔いと狂気というものもある。

酔って、狂気になってしまえばいっそ楽だろう。

何も考えず、全てに刃を向けることができる。

遅効性の毒なんて関係ない。毒にすら気づかずに死ねるのだから。

それは、とてつもなくつらくないだろう。なんて素晴らしい。

だが、素晴らしいからといってそれが正しいだなんて限らない。

気づかずの間に毒に蝕まれた体は、酔いが冷め、狂気が終わった時。

その瞬間から、すべてを悔いてなお、辛いのだから。

読んでくださりありがとうございます。評価等お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。