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クールなアイツ  作者: 松茸
こんな日常
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第五話:あの日とその日

 時は少し戻る。


 ーーある日の放課後。


 俺は先生に頼まれ、山積みのプリントを一人、教室へと運ぶ。


 長い廊下。いつもよりも遠く感じる階段。


 面倒くさいとは思わないし、自分でやれよとも思わない。


 だが、思っていることがある。


 何故俺一人だけなのか。


 この量は協力者が必要なレベルでは?

 嫌がらせだと捉えてもよろしいか?

 よろしいね。なら俺も今度嫌がらせしよう。


 そう考え、教室にたどり着く。

 扉を開けようにも、両手は塞がっている。


 行儀が悪いが足で開けるしかない。


 足で開けようとしたその時、よく知るアイツが、一人、席に座っているのが見えた。


 何をしているのか、窓の外を眺めているため見ることができない。


 だが黄昏れているであろう、アイツを。

 邪魔するのは気が引けた。


 だから待つことにした。


ーー20分後。


 ………流石に一人で黄昏すぎではないだろうか。

 いい加減出てきてくれと思っても仕方ないのではないだろうか。


 というわけで失礼します。



ーーその日の放課後。


 なんてことはない。


 その日は帰りたくなかった。


 放課後なら、誰もいない。


 だから、帰らない。どうせ。



 延々とそんな事を考えて。


「失礼する」


 え…?


 この人は確か…。


「すまんな。このプリントを運んでてな。

 邪魔するつもりはなかったんだが、仕事だからな。

 そうだ。いないものとして扱ってくれ。

 ああ、返答は要らんぞ」


 なんて不遜なのだろうか。

 そんな不遜な男子がプリントを席に置き始め、やがてこちらに近づき、私の机に置いた。


 ……。本当に、何も言わないし聞かない。


 一つの束を配り終え、教壇で椅子に座り、もう一つの束を仕分け始めた。


 …って、え?そこで仕分けるの?


 ていうか、ほんとに何も言わないんだ。


 私はその時、この男子が気になり始めた。


「…何のプリントを分けてるの?」


「そうだなぁ、何の説明もされずに、名前が書いてあるから、席順にって言われたからな。

 内容を見た感じ、一人一人の課題っぽいな。

 先生って本当に面倒な仕事だよな…。

 見てみるか?」


「……それ、見ていいものなの?」


「はん。見ちゃ駄目なら最初っから生徒に頼んじゃ駄目だろ?

 今日、あんたがいたのは偶然だ。

 そんな衝突事故のことまで、対処できるか?

 答えはできない。だ。

 ほれ」


 三枚ほどプリントを持ってきて、見せてくる。


 その内容は3枚とも別の問題が書かれているプリントだった。


 科目は理科の田島先生のものだった。


 田島先生はかなり真面目だが、フランクな方でそれなりに人気がある先生だ。


「田島先生…」


「そうだな。

 もう少し手を抜けばいいのにな。

 まぁ手を抜いてなかったら俺に頼まんか。

 なんかあの人、俺にだけ、こういうの頼むよなぁ。

 腹立ってきたな。仕事するか」


 そして、3枚プリントを持ったまま、教壇へと戻る。


 …正直な人だなと思った。


 なんていうか、自分を大事にしているように見えた。


 その日から、私はこの男子を見るようになった。

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