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26-2 どうや、ちゃんとした目標があるやろ?

 それにしても引っかかるのは獣戦神が死に際に放った言葉。


『貴様は必ず敗れる。無敵の謎を解き、自惚れた貴様を討ち滅ぼす。最後に勝つのは我らだ』


 最後に勝つのは『我ら』か。薄々感じてはいたけど、どうやら相手は一人じゃないみたいやな。あー、いつ出会えるのか楽しみやな。


 こっちはなんとか片付いたけど、敵拠点ではまだ騒動が続いている。ヤタガラス衆は食事に夢中だし、これは自分で状況を確認したほうがよさそうやな。


 光る触手をウネウネと伸ばしていく。まずは味方の安否が最優先。


 博霊隊の三人は無事だ。トロール達はわずかに犠牲が出ているか。敵の数は残り少ない。現地調達と思われる森エリアモンスターは逃げ出していて、残りは城エリア級のみ。


「ちゃちゃっと終わらせるか」


 触手で残党を狩る。一瞬で戦闘終了。これで補給ポイント拠点一つ陥落だ。


 博霊隊とトロールを集めて休息を取った。今は一匹でも多くトロールが欲しいため、仲間の死骸をキングに集めさせて死者蘇生する。


 トロール達は泣いて喜んでいる。こっちの気分はそんなに良くないんだが。まさか期待していた先輩使者が手応えもなくやられていくなんて思わんかったからな。


 トロール達はより一層俺への忠誠を誓うらしい。数日も経てば恩を忘れるだろうから適当にあしらう。


「ごめんなさい。何人か倒せず逃してしまいました……」


 三人によれば城エリア級を何匹か逃したそうだ。脱走兵は塊で行動していたらしく、トロールとは交戦せずに砦と逆側の方角へ逃げていったそうだ。


 砦から拉致されたトロールを集めたいというこちらの狙いは、従属していたトロールが反旗を翻した時点で気づかれているだろう。脱走兵が無事に他の拠点まで辿り着いて、情報が敵に広まったら面倒だ。


 でも、まぁ。逃しちまったもんはしょうがない。こっちは先輩使者をやれたんだ。それでおあいこだろう。


「よく追撃をやめたな。偉いぜ。深く追えば返り討ちに遭う危険性もあった。生き残ることが第一やからな」


 トロールは何匹死んでもええけど三人に死なれたら困る。初めてこんなに長く続いてるんだ。この三人になら日本とダンジョンの未来を任せられる気がする。俺の後継者として。


 それに三人の俺を見る目が最初と比べて暖かくなった気もしてな。


 情をかけすぎるのは危険だけれども、込み上げる喜びを大事にしたくもある。


「三人には無茶な命令ばかりしとるが、ちゃんと全部こなしてくれとる。指定モンスターとなった暁には褒美として最強の指輪を渡すことを約束しよう」


 三人の反応は良好。目標と報酬があるだけで人はこれほど笑えるのかってくらい明るい表情をみせた。


 気持ちとしては今すぐ渡したいけども、国のことを思うと簡単には渡せない。せめて指定モンスターとして認められるまでは責任が取れない。取りたくもない。



 休憩中に野営地をまわって捕虜を集める。どうやらエルフの女と子どもばかりを収容していたみたいで男の捕虜はいなかった。


 見たところ捕虜のエルフに汚れはなく、身体状態はいたって健康なことから捕虜は献上品と思われる。


 流石に捕虜をこのまま解放するわけにはいかない。ここは敵のテリトリーの中心だからだ。


 放置すれば捕虜の身柄は再び敵の手に渡るだろう。そうなれば、ここで何が起きたかのかを知られてしまう。

 脱走兵を出した時点でもう遅いかもしれないが、情報漏洩は少ないに越したことはない。


 エルフの扱いは面倒だから手放したいが、連合軍本陣まで捕虜を送り届ける余裕はない。敵が来る可能性を考えれば、ここに置いていくわけにもいかないし。



「ネズミばっかで腹減ったやろう。トロールには褒美にエルフをやる。全部食っていいぜ」


 トロール側から歓喜の叫びが響く。エルフ側からは悲鳴が上がった。怒りの込もった命乞いがあちこちから聞こえてくる。


 捕虜の命乞いに心を打たれたのか、博霊隊の三人が異を唱えた。


「先生! ダメ! 殺しちゃダメ!」

「ドン引きだよホントに。エルフにかける優しさは無いのかね」

「その決断は酷いと思います!」


「でも言っちゃったもんは引っ込めないしなあ。

 あーあ、ほら見ろよ、トロールが落ち込んでるぜ。このまま逃しても捕虜は助からないんだからさ。こいつらに食わせたほうが士気も上がるってもんよ。なあ!」


「「「おおおおー!!!」」」


「捕虜を助けるならそれだけのメリットを提示してもらわねえと。捕虜を介護するために俺らはここまで来たわけじゃねぇんだからさ」


「「「おおおおー!!!」」」


 トロールの熱気に三人がおされている。トロールはよほどエルフを食べたいらしい。しかし、まだ手をつけないところを見ると空気は読めるようだ。


 エルフ達は博霊隊の三人の側に逃げた。ヨダレを垂らすトロールと怯えるエルフが真っ向から対立する。捕食者と被食者の構図がはっきりしていて面白い。


「まず最初に言っておきたいことがある。おめぇらは俺に絶対服従を約束させられている。やから命令違反があれば処分せんといかん。それはわかっとるな?」


 三人は肯定の意を示す。若干怯えてるけど意見を変えるつもりはなさそうだ。三人は固い意思を持って反抗したに違いない。


「俺がおめぇらに『捕虜をトロールに食わせろ』と命令することはないから安心しろ。無理強いして禍根を残すような真似はしたくないけんな。

 ただこのまま向かい合ってちゃ時間の無駄や。お互いに納得のいく結論を出す必要がある。

 純粋に気になるんやけど、どうして捕虜を食わせたくないんや。ハナマルくん」


「だってエルフですよ。しかも助けたばかりの女性と子どもを餌にするって胸糞悪いじゃないですか」


「ユーキちゃんは?」

「オラも最後まで面倒みる」

「サキさんは?」

「アタイもそう思う。女子どもにすることじゃない」


 他の二人もハナマルくんと同意見のようだ。言葉は違えど共通するのは『女子どものエルフを餌にするのは気分が悪いから助けたい』。


「要するにおめぇらはエルフを人間として扱ってるわけね。でも違うよな。エルフはエルフ。人間は人間。トロールはトロール。せやな?」


「「「おおおー!!」」」


「人種は違くても同じ人間です!」

「そうそう!」「そうね」


「トロールはそう思ってるんかな。キングは人間か?」

「チガウ! ニンゲン! 食ウ!」


「「「おおおー!!」」」


「いや人間は食わせねぇから。エルフはどうや、人間か? 捕虜の代表出てこい!」


 ざわざわと捕虜が代表の押し付け合いを始めた。誰もやりたがらない役目のなすり合いは見ていて楽しい。


 献上品と仮定すれば高貴な者もいるはずだ。立候補しようとくすぶる者は少なからずいるが、行動に出ようとはしない。


 喧騒に変わりつつある空気を払うように手があげられる。唯一、仲間からなすり合いの攻撃を受けずにいた女エルフが名乗り出た。


「私はエルフェン国第四王女アリルレ・エルダース・カンモリ・エルフェンである! その問いには私が答えよう!」

「アリルレ様! いけません!」


 なんか出た。侍女の反対を押し切って出てきた。しかも割と大物が出てきてしまった。やばいな。王族と舌戦とか俺のトーク力じゃ無理やぞ。


 殺すか。


「人間とは! 神に背いて悪虐の限りを尽くし、過去を省みず愚かな行為を繰り返す淫らな短命種のことだ! 我々エルフは人間ではない!」

「そうよな!」


 よかったぁ。エルフ側から否定してくれたぁ。エルフの王族に同じ人間と主張されたらたまらんわ。


 人間がめちゃくちゃ非難されてるけど。一瞬、地球人のことかと思ったよ。俺はまだこっち側の人間を良く知らないんだけど、やっぱり似てるのかな。



「エルフの王女がこう言ってるんや。人間扱いするのは侮辱。エルフの誇りを傷つけられるくらいなら、トロールに食われたほうがマシってもんよ」


「それは違う! トロールの餌にされるのは我らにとって最大の侮辱! 末代に渡って笑われる恥だ!

 そこの三人のお方々。使者様のお連れの者とお見受けします。エルフの味方をしてくださるのなら、どうかあなた方の代わりに、私めが使者様とお話をしてもよろしいでしょうか」


 異種属とはいえ民の上に立つ者。下々の俺らとは纏っている空気が違う。


 負けるなみんな! エルフのために俺と口論してくれ! 俺を王族と戦わせる気か!?


「どうぞどうぞ」


 王女が放つ上品なオーラに気圧されたのか、三人は引き下がった。


「ちくしょう。こんなことになるならさっさと捕虜を殺しとくんだったぜ」


「使者様に殺されるのならば本望です。どうぞ殺してくださいませ。助けてもらった手前、なんの異論もございません。

 しかし、生かしてくださるのであれば御恩を無駄には致しません。必ずやお役に立ちますことを私の名において約束します。我らの身体をお使いになりたいならば喜んで捧げます。

 ですからどうかトロールどもの餌にはしないでください。使者様の下で働かせてください」


 土の上に直に座り、平伏するアリルレ王女。後ろのエルフ達も王女に続いて平伏した。


 王族ともあろう者がなんたる様だ。衣の隙間からチラリと胸を覗かせるとはけしからん。そんなことで俺は屈しないぞ。


「三人の前で俺が殺せるわけねぇだろ。わかって言ってるな。おめぇらエルフの忠誠心なんて信用できねぇの。どうせその場しのぎの嘘で俺を騙そうとしとるんやろうが」


「決して嘘ではありません。我々は命をかけてお仕えします」


「証明できるんか? おおん?」

「証明できます」


 突然立ち上がり、衣装を脱ぎ始めるアリルレ王女。続くようにして捕虜たちも裸になった。王女ひとりだけに恥をかかせまいと必死だ。


 目の前に広がるのは雪のように白い肌色の景色。思わず写真を撮ってしまったほど美しい。


 相手がモンスターとはいえ俺もモンスター。ロミ少佐を遥かに上回る非の打ち所のない造形美をこんなにも沢山見せられたら、ほら、ね。そりゃあ勃つ。


「サイテーだ」「先生のエッチ!」

「わぁ……」


「うっさい! こいつらが勝手に脱いだの!」


「失礼します」


 アリルレ王女はそう言って、ハナマルくんの双剣を片方奪った。


「私の命で証明します。他の者も気持ちは同じです。そうですね?」

「「「はい!」」」


「ですからどうか餌ではなく戦場で死なせてください。お願いいたします」

「アリルレ様! アリルレ様!」


 裸の侍女が飛び出し、アリルレ王女の喉元にあてがわれた剣を止めた。


「さがれオリビア! 召使いの分際で逆らうな!」

「使者様! どうか私の命でお許しください! アリルレ様は皆のまとめ役に必要です! どうか! どうか!」


「許すも何も勝手にやっとることやろうが。俺の気持ちはまだ変わっとらんぞ」


「わかれオリビア……これからは私ではなくエルフェンの未来のために忠義を尽くせ」

「アリルレ様……」


 侍女オリビアの力が徐々に失われ、最後にはだらりと肩が垂れ下がった。


 後ろですすり泣くエルフ達の反応を見る限り、まとめ役であったことは間違いないらしい。


「しかとご覧あれ! これがエルフェンの忠義でございます! さらば!」


 アリルレ王女は自らの喉元に刃を押しつけ、横に引いた。


 瞬きのあいだ鮮血が咲き、割れた首から大量の血が滝のように流れ落ちる。アリルレ王女は自らの血に溺れながら逝った。



「あっぱれ!」

「いやああああああああ!!!」



 なんと潔い死に方か。現代ではありえないようなシーンに気持ちがたかぶる。

 まるで劇の登場人物にでもなったかのような高揚感が俺を満たしてくれる。全ての責任から解放されて羨ましいとすら思う。


 ダンジョン内政はまだ政治家が入ってこない領域。これをきっかけに差別問題とか引っ張ってこられたら、国際社会からだけでなく三人からも非難されるかもしれん。

 絶対に政治家と会わせたくないエルフ第1位になるところやった。解決して良かったです。


「その遺体をトロールに食わせてやってもええか?」

「貴様あああああああああ!」


 オリビアめっちゃ怒るやん。笑。


「冗談や、冗談。アリルレ王女に免じて捕虜の身柄は博霊隊で請け負うことにする。異論は受け付けない。トロールどもはその辺に転がったオークの死骸でも食っとけ」


 俺の興味はトロールからエルフに移った。エルフという種族は閉じたコミュニティで姑息にのんびり生きる種族と思っていた。だが、これほど勇ましい者がいるとなると認識を改めなければならない。


 残された捕虜の目を見ればわかる。あのアリルレの勇気が感染したのがよくわかる。

 なかには数名怒りに染まっているが。


 勇気も怒りもどちらも危険だ。どちらも怠惰と恐怖を上回る強い心であり、そしてどちらも伝染しやすい。

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