26-1 どうや、ちゃんとした目標があるやろ?
ロミ少佐がロシアのスパイとわかる前、実家の朝倉ピラミッドに一通の手紙が届いた。差出人は不明。
まず最初に嫌がらせを疑った。捨てようとしたが、俺に嫌がらせする度胸があるなんて考えたら逆に興味が湧いた。
封を切ると厚紙が一枚しかなかった。
一面は空白。裏返してみると、たった数行の文章が書かれていた。
『新人の君をゲームに招待する。君に死をプレゼントしてあげよう。鬼の城にて待つ』
読んだ瞬間にビビッときた。これは間違いなく果たし状だ。青春みたいでワクワクした。
鬼の城といえば、博多ダンジョンが思い浮かぶ。あそこまで到達できる実力者はそうそういない。
すぐに俺は各所に連絡を取った。俺がいなくなる旨を関わってきた中でも信頼できる人達にだけ教え、博多ダンジョンへの入場手続きを済ませた。そして予約のとれた入場日を待つ間、もしもに備えて身辺整理した。
朝倉ピラミッドの敷地は広く、周りに花畑があるため管理が大変だ。ピラミッド外面の真っ白な化粧石の清掃も人間には難しい。
現在ピラミッドの管理を俺の分身達にやらせているが、俺が死んだあともちゃんと動き続けるのか心配だった。
そのために元大学教授の一流エンジニアを呼び、分身の脳みそに今後の行動をプログラミングしてもらうことにした。
俺の分身をサンプルとして提供する話を聞きつけて、別の大学からも数人の研究者が訪れた。中には顔見知りの研究者もいた。
除染作業は続けているが、朝倉ピラミッドは今も放射能汚染区域だ。それを知って尚、訪れた勇気に敬意を表し、死にたがりの研究者たちを喜んで迎え入れた。
その情報が伝播して次々と勇気ある協力者が集まり、巨大なプロジェクトが動き始めた。
予算を巡る様々なドラマを全てカットするが、最終的にAI技術搭載型のバイオロボットが完成した。バイオロボットが完成した日には、全員でビールシャワーをかけ合うほど大盛り上がりした。
これらのバイオロボットの頭脳は随時更新される予定である。
これで何の憂いもなく死ねる。
財産は俺の分身とピラミッドだけだから、相続の手続きはスムーズに終わった。国へピラミッドを遺贈する遺言書を残すことを条件に、毎年政府から受け取るピラミッド管理費のほとんどを地方交付金に回してもらう約束をした。
手持ちの現金はダンジョン関係や慈善団体に寄付して空っぽだし、ほとんどの所有物は亜空間に収納している。最後に残ったのはゴミ箱程度だった。俺はミニマリストなんやな。
ロミ少佐が怪しい動きをみせたのは博多ダンジョン入場日の前日だった。
結局、予定が崩れてロミ少佐の監視をしたり、研修の講師になったり、離婚したり、ドタバタな数日を暮らした。やっと博多ダンジョンに入れたものの自由行動できず、チヤホヤされた勢いで博霊隊を作り、ついに果たし状を送りつけてきた関係者と対峙する日がきた。
ハナマルくんから教えてもらった天幕に足を踏み入れる。
魔王軍の旗や民俗的な調度品で飾られた室内空間。その空間と不釣り合いなスーツを着る化け物がいた。
獅子と鳥を掛け合わせたような頭をしている。見ただけでわかる。こいつは先輩使者だ。
失礼ながら真っ先にステータスを覗かせてもらう。
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【LV.測定不能】
【種族】獣戦神
【重さ】 測定不能
【戦闘力】 測定不能
【タフネス】 測定不能
【魔力】 測定不能
【スペック】 測定不能
〈スキル〉 測定不能
──────>
どうやらステータスを隠蔽しているみたいやな。俺はそんな小細工しねぇけど、戦いにおいて情報の秘匿は常識だから理にかなっている。
「許可なく個人情報を閲覧するとは無礼であるぞ」
獣戦神という種族の先輩使者は亜空間に手を突っ込み、黄金の手斧を取り出した。
「万死に値する」
「まあまあ待てって、神は決闘が好きやろ。名乗り合おうぜ。俺はケー」
「貴様に名乗る名は持たぬ。剣を抜け」
「俺はインファイターなんや。見たらわかるやろ、戦神なんやから」
「ちぇあ!」
挑発した瞬間に踏み込んできた。全然遅い。殺しに来たにしては手加減しているみたいやな。もしくは俺の実力を測りたいのか。ただの戦闘好きか。
まともに受けたら絶対痛いし、〖スーパー黄色人〗で強度を上げながら回避優先でいく。さらにイージーモードにしたいから、世界そのものを減速させて俺だけの時間にした。
どんよりとした時間の中でも獣戦神はどんどん加速してくる。やはり時空間制御には対応してくるか。
はっきり言って俺の戦闘技術は素人同然だ。無限の関節と腕力で技量をカバーしているが、ずっとニワカな戦い方で乗り切ってきた。
だからこそ歴史を築いてきた武術と対峙したとき、自分の弱さが浮き彫りになる。ルールに縛られた御前試合では人間相手に何度も敗北を喫した。
若者から、中年のおっさんから、年季の入った爺さんにまでムカつくくらい手も足も出なかった。
何度も無策に踏み込んで、俺は何度も地面を舐めた。
あー、今思い出しても腹が立つ。悔しい気持ちが蘇る。
不死身の使者となれば歴史の重みは計り知れない。戦の神を自称するやつが武の研鑽を積まないわけがない。
だからといって本気の俺を倒せるかと言ったら別の話よ。ルール無用の殺し合いなら俺が有利だ。俺の場合は一発当てられたら勝ちよ。
要するに、獣戦神が俺に似たモンスターとの戦闘を想定していなければ初見殺しが効くよね。強くなれば強くなるほど、戦う相手には不自由しただろ。
無限に伸びる人型の軟体モンスターなんて初めて出会うんじゃないか?
ベテランの武術家に素人が武術で挑むのは無謀だ。それはわかりきっとる。何度も地面を舐めたからな!
だから正面からは戦わず、反則技を使いまくって、積み上げてきた武の歴史そのものを否定する!
外道も卑怯も言わせておけばいい!
俺にはお似合いの言葉だ!
武の理合など入る余地もないほどにぶち壊す!
音を置き去りにする斧が何度も何度も空振りした。その度に脳内へ愚痴が飛んでくる。
「なぜ! 当たらぬ!」
「俺は目が良いんや。それだけが強みよ」
まだ手加減を続けているのか、手斧以外の攻撃をしてこない。縦横無尽に手斧が降りかかるが、結局のところ斧の刃だけに気を付ければいいわけよ。
さすが戦神と自称するだけあって、獣戦神は常に躱しづらい箇所を狙ってくる。
頑張っているところ悪いけど、骨格を自在に操る俺にとって、それらは全部バランスが乱されるだけの攻撃なわけ。虚実入り混じる連続攻撃も全て躱せば素振りに等しい。ここは御前試合と違って場外がないから好きに動けるわ。
獣戦神の攻撃スピードと俺の回避スピードは五分五分。相手が加速すればこっちも加速する。
それが俺のスペック。見たものを覚えてそれっぽく使うことができる『極複製神の神鏡』の力。
まさか神の恋文にこんな能力があるとは思わなかったけど、あったんだからしょうがない。
「おめぇが手紙をくれたんやろ。おめぇに勝ったらゲームは終わりか?」
「何のことかわからんが死ね!」
「おしゃべりは嫌いか? だったら試させてもらうぜ! 俺を殺せる一撃かどうかをな!」
回避行動をやめて立ち止まる。散々振り回した手斧がついに俺の脇腹に当たった。
チュドーーーン!
バキバキッ!
バキバキバキバキバキバキ!
測定不能の速度で繰り出された攻撃は、重さを増した体を軽々と吹き飛ばしてくれた。
数々の天幕を突き破って勢いを殺しながらも、木々をなぎ倒すまで止まらなかった。
いやー。恐ろしい威力だ。隕石でも落ちたかのように焼けた道ができとる。
「いひひ。やっぱり死なねえか」
身体には傷ひとつない。いつもの日常なら形が変わるけども戦闘中ならこんなもんよな。結局、使者であろうと物理では俺を殺せないってことか。
周囲に透明化させた糸を撒き散らして起き上がる。
獣戦神を捕らえるための糸の罠だ。魔法金属製の糸は出会ってきた先輩使者に有効だった。誰も警戒しなかったからな。
「ぬっ!? これは!」
勘が鋭いな。糸の罠に気づいたようだ。
でも急接近してきた獣戦神は速度を落とせず、必殺の網に絡まった。
細い糸によって四肢が切り飛ばされ、極娯楽神製魔法金属の手斧が地面を転がる。
「黒紫のオーラ。全部いただくぜ」
落ちた四肢と手斧を全部飲み込む。初めての味だ。燻製肉のようなコクと黒砂糖のような甘みがある。
「卑怯な……貴様、なぜ斬れぬ。神をもほふる一撃を受けておいて」
「おめぇが弱いからや」
「ぬ゛うううううう!!!」
戦いにもならん。差がありすぎて。それでも俺の技量は獣戦神の足元にも及ばない。こうやって罠にハメることでしか勝てないのが現実や。
「俺はつい最近生まれたばかりの新人や。基本のキも知らん若造なんで、これからよろしくなー。先輩」
手足が無いにも関わらず、獣戦神の闘志はまるで消えていない。
全身から質量を持つ謎のエネルギーを飛ばして俺にぶつけてくる。が、こちとら黒紫のオーラがあるのでね。エネルギーを食いながら近づくぜ。
「貴様は必ず敗れる。無敵の謎を解き、自惚れた貴様を討ち滅ぼす。最後に勝つのは我らだ」
「かーらーのー?」
「貴様は何もできずに死ぬのだ。小細工する間も無く死ぬ。戦いに興じる我のようにはいかんぞ」
「そーしーてー?」
「外道が。はやく殺せ」
「だーけーどー?」
「ぬ゛うううう! こんな奴に負けたくない!」
「いひひひひ! 死ぬ前にちょっと実験させてくれよな」
「実験だと?」
「ばいばーい」
頭だけ食って胴体を残す。使者の不死身さの範囲はどこまでなのか。物事は頭で考えるとして、胴体だけ残したらそこから全身は再生するのか。
『ガッチャ! やったな! 今のやつも100年後に復活させるから安心しろ』
「おう。助かる」
結果は、再生しなかった。魂も神の御許へ帰ったらしい。永久に胴体のまま封印できるか試したかったけど、簡単に死なれても困るもんだな。
「ヤタガラス! これ食っていいぜ!」
スーツを燃やし、肉を細かく裁断してやるとヤタガラスが喜んで集まってきた。
死んだばかりの使者の肉となれば味は格別だろう。消化できるかはわからんけども。
安上がりで簡素とはいえ、鳥葬で弔うのも立派な儀式よ。名前も知らない相手だけども同じ神様に仕える使者の先輩やし、葬儀くらいはしてやらんとな。




