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13-1 俺、参上!


 魔法! それは聖なる力!

 魔法! それは未知への冒険!

 魔法! そしてそれは勇気の証!


 全部当てはまるぜ。


「今の俺なら特撮出れるかなあ。敵味方どっちでもいいから出たいぜえ」


「キッズ向けのデザインとは程遠い見た目なので無理だと思います。怪人ならワンチャンあるかも知れませんがちゃんと演技できるんですか?」


「エ、エキストラ出演なら……」


「怪人より目立ちますよ」


 今や俺も有名人の仲間入り。SNS最強! SNS最強!


 なのにテレビ出演のオファーが一度もこないのはおかしい。連絡用アカウントまで作ったのに!


「ちょっとダンジョンで写真撮ってくるぜ! [いいね]が欲しい!」

「わかりました。準備するので待っててくださいクソニート」


 最近ヤヨイさんは忙しいらしくてウヅキさんの当番ばっかり。

 でも最近やっと気づいたけどウヅキさんも俺のことが大好きなんだよ。


 だって嫌いな人に向かってクソとか言える?


 俺って『死ね』とか『クソ』とか汚い言葉を人に向けて使ったことないからね。使うとしたら信頼関係が崩れないほどの相手にしか使わないべ。親にも使ったことないから永久に使うことは無いだろうけど。ゲームとモンスター以外にはね。


「準備できました。行きましょう」


 それにほら。水着の上に俺の抜け殻を着てる。手に持ってるのは俺があげた刀だし、腰に下げた水鉄砲には俺のヨダレが入ってる。水鉄砲だって俺の素材で作ったものだし、この子俺のこと絶対好きじゃん!


「股間を光らせるのやめてください。セクハラですよ」

「Me Too」

「はあ? 死んでください」


 あーあ、ヤヨイさんの前では可愛いのにな。ずっと三人でいればすごく楽しいのに。


 今日も俺は裸で外に出る。服を着たいけど触手を動かしただけでビリビリに破けるから着るのやめた。葉っぱ一枚あればいい。作り物の葉っぱだけど。本物はちょっと汚ねえし。


 なんか畑の方が騒がしいな。


「ケーちゃんはここで待っててください。たぶんマスコミです」

「マスコミ! やったぜ。テレビだ!」


「あ、馬鹿! 待ちなさい!」


 裏庭の囲いより高く飛んで確認してみたら、畑の前で制服着た人が記者たちを追い払っていた。制服の彼らは最近になってうちに顔を見せるようになった働き者たち。裏庭や畑を掃除したり、外側に囲いを作ってくれたり、俺のちんちんネタで笑ってくれたりする良い人たちだ。


「あ! 出たぞ! 撮れ!」


 パシャパシャパシャパシャ!


「光るちんちんだぜ!」


 股間のポケットからニュニュニュっと触手を伸ばして青く光らせる。マスコミの皆さん、本物じゃないのでご安心を。


「ブオン。ブゥーン。ビシュン! ブォーン!」


「あの馬鹿! 何やってんだ馬鹿! こら、撮るな! 私有地だぞ!」


 パシャパシャパシャパシャ!


 熱くなった触手サーベルが紫色に光って唸る。


「ブーン! ブォーン! ブォーン! ブオン!」


 パシャパシャ!


 撮りよる撮りよる。お次は空に花咲かせます。


 背中の触手を広げて花火を出すイメージ!


「ボンバー!!!」


 ゴロゴロ! ビシャーン! ビジャビジャビジャ!


 白い雲が急に真っ黒になって黒い雷を落としてきた。


「なんだあれは! 報告にないぞ!」


 俺も知らん! 今のはなんや! 花火のつもりだったのになんで電撃!?


 つーか、報告ってなんのことやねん。


「馬鹿! アホなことやってないで降りてきてください!」


「待って! あと一つ! ショータイム!」


 全身の発光器から赤いレーザーを発射!

 ドドドドドドドッ!


「降りてこい馬鹿馬鹿馬鹿!」



 めちゃめちゃ怒られた。縄で縛られたし。クローゼットに閉じ込められたし。こんな反省の仕方は小学校以来や。


「ごめんなさいを一万回言い終わるまで出しませんからね。ちゃんと心を込めてください」


「さーせん」

『いち』


「え? 誰かいるんすか?」

「おしゃべりをカウントするアプリです。単語を数える機能もあります。便利でしょう?」

「うひゃー」


 ────暗い。暗い。寂しいよお。


「しゃーしぇん」『きゅうせん、きゅうひゃく、きゅうじゅう、きゅう』

「しゃーしぇん」『いちまん』ぴぴぴぴっ!


 レロレロになるくらい謝罪した。舌が伸びすぎて床を舐められる。


「あけちぇけれぇー」


 バタバタと走ってくる音がする。

 それから遅れて、ぎぃっとドアが開かれた。


 くしゃくしゃに髪が乱れた涙目のウヅキさんがいた。無防備なスウェット姿を晒している。

 エッチだ。いかんいかん、ヨダレが垂れた。


「ずびばせん」ぐすっ、ぐすっ。


 びしょ濡れの顔面をびしょ濡れの裾で拭いている。

 こりゃ誰かにこっぴどく怒られたな。ちくしょう俺のウヅキを泣かせやがって。


「きゃあああ!」

「きゃああああ! にゃにぃいいい!」


 びっくりして舌が引っ込んだ。


「ハァ…ハァ…いえ、すみません。新種の怪物が出たかと思いました。私、ホラーが苦手なんです」


「ほんじゃあ、これからホラー映画を借りてきて欲しいぜ。白石監督のやつ。あの人のは何度見てもいいもんやからね。上映会しよ」


「縄を解きますから後ろ向いてください」


 縄を解きつつ、パシンパシンと後頭部を数回叩かれた。ほんとスキンシップが増えたね。



 ウヅキさんはしっかり者だ。頼んだことをきっちりやってくれる。ホラーが苦手って言ってたのにちゃんと白石監督の映画を借りてきてくれたし、ホラー映画上映会にも参加してくれた。

 これもう、おうちデートやん。土下座したら一緒に寝てくれそう。


 まあ、そんなことないんですけどね。土下座してもダメやった。


 翌朝、真っ先に新聞を開いて見出しを確認していく。ネットニュースではかなり話題になっていたから期待大だ。


「報道しない自由かあ。責任もって伝えてよお。お仕事でしょーが」


 週刊誌には載るかなあ。闇サイト探してみよーっと。違法ダウンロードの時間だぜ。


 テレビはどうかなあ。うん。うん。ないね。

 SNSはー。ギリギリトレンドランキングに載ってるけど、今消えたわ。



「おはようございますケーちゃん。今日も朝早いですね」

「うす……寝なくていい体って最高でしょ。憧れるでしょ」

「いえ全然。何してるんですか? サツキさんが新聞探してましたよ」


 広げていた新聞を畳んでウヅキさんに渡す。

 眠たそうに「私は伝書鳩ですか」と文句を口ずさみつつも受け取ってくれた。

 なんか、家族のやりとりみたいでホッとする。


「昨日のアピールが載ってるかどうか探してたんやけど、ネットニュースにしか載ってねえ」

「どのネットニュースですか?」

「えーと、これとー、これとー」


 スマホの履歴から閲覧した記事をバックグラウンドに表示してー。いかんいかんエロ動画サイトの検索履歴でちゃった。


「変な履歴見せないでください。セクハラですよ」

「へへっ。俺のブームは黒髪ロングだぜ」


 姫カットならなお良し。俺はウヅキさんにメロメロや。


パシン!

 なにも新聞で叩くことないじゃん。手でやってよね。


「ギャルのほうが履歴長いじゃないですか。最低です」


 ヤヨイさんにもメロメロや。


「あと、これで全部やね。この触手便利でしょ。憧れるでしょ」

「いえ全然。情報助かります」


 朝から美女の顔を見られるって最高の暮らしじゃないの?

 生殺しなのがすごく辛いけど。


 たまった漫画も読み終わったし、1年間のニュースも読み終わったし。急に暇になったなあ。


「よし、ダンジョンで写真撮ろう。結局昨日は撮れなかったもんな。つぶやきで[いいね!]は稼げたけど」


 ピン、ポーン!


 お、この音はヤヨイさんの押し方だ!


 バタバタと、ウヅキさんが先に玄関に駆けつけた。スピードでちょっと負けたぜ。


「馬鹿ニート! 外から見える位置にいないでくださいよ!」

「うす!」


 ガチャリとドアが開かれた。やっぱりヤヨイさんだった。ガチガチの制服着たヤヨイさんはレアだ。写真撮ったぜ。


「せんぱい! もう! たいへんだったんですよ!」


 朝っぱらから抱き合うふたりの女の子。眼福ですわ。助かる助かる。


「よしよしウヅキ。頑張ったねー。えらいよー。よしよし。今日はスペシャルゲストを連れて来ましたー。ジャジャーン」


 クンカクンカ。……なんか、男のにおいがするんだが。ヤヨイさんと距離が近いんだが。


 え、ちょっと、そういう寝取られ展開は物語の中だけでやってくれよな。マジでやめてくれよ。ここは現実なんだからさあ。ダンジョンの中じゃないんだからさあ。


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