13-2 俺、参上!
頼むぞー。寝取られだけはもうマジ勘弁。
で、ヤヨイさんが連れてきたのはどんな奴なんよ。
「ウヅキ。久しぶりだな」
「お父様! 来てくださったんですね!」
よかった。ほのぼの展開だった。チクチク展開はもう嫌よ。
娘と父の感動の再会。これを背景に自撮りするぜ。
「ケーちゃん! そこにいたのー? 紹介するね。この方はウヅキの父親で警察庁次長の黒田次長です。黒田次長、こちらが行方不明のケーちゃんです」
「君が噂のケーちゃんか。黒田シワスです。よろしく」
「黒田……奇しくも今日はゴモラヘアー…」
今日は固めた髪を三日月型に尖らせている。
「ほう、なるほど。意味がわからん」
「お父様、ゴモラヘアーの元になる怪獣ゴモラの角は黒田長政の兜をモチーフにしています。黒田とゴモラを掛けたケーちゃんなりの挨拶です」
「ほう、なるほど。助かる。よろしくケーちゃん」
「うす」
ほうほう。ずいぶん偉そうな奴が来たじゃないの。やっぱウヅキさんはお嬢様だったか。これは玉の輿だぜ。
「お父様、お怒りにならないで。彼は人見知りなんです」
「いやいや、怒ってなんかいない。嫌いになるどころか、むしろ仲良くなれそうな気がする」
ミシミシ、と重量感のある足音をさせてこの家の覇者がやってきた。
「そんなところで話をするのも失礼だし、どうぞ上がりな」
「お言葉に甘えて上がらせていただきます。黒田次長、サツキさんの紹介は中でさせていただきます。この方は私たちの大恩人です」
「実際にお会いできて嬉しく思います。ウヅキとヤヨイちゃんの面倒を見てくださり心より感謝申し上げます」
「いいからいいから、さっさと上がりな。お茶をいれるよ」
なぜか俺も同席させられて長々と世間話を聞かせられた。婆ちゃんの話は長いんよな。みんなちゃんと聞けて偉いねえ。
つーか良い大人が3人も泣いてるし、いつの間にそんな感動話をしたんや。スマホに集中してたから聞き逃したわ。
「婆ちゃん、なんの話をしとったん?」
「……なーに、つまらない話さ。さ、本題に入っとくれるかい?
この子、興味ないことはすぐに飽きちまうから短く説明してやったほうがいいよ。今後のために覚えときね」
せやせや、俺も暇じゃないんよな。まだ今日の分の[いいね!]を貰えてない。
「今日はケーちゃんにお願いがあって来ました。先月、イランで起きた空洞崩壊事件に関することです。これについての説明は必要でしょうか?」
ああ知ってる知ってる。まとめサイトでちょくちょく情報が更新されてるやつね。
「説明イランよ。イランだけに。
──アフガニスタンとの国境近くにあるダンジョンからモンスターが出たっちゃろ。そんで入り口を爆破させて崩壊事件に見せかけたって話やんな。どや?」
「ヤヨイちゃん。この子本当にニートなの?」
「そうですが。……ケーちゃんはどこでそのネタを仕入れたのー?
ダンジョン崩壊以上の情報は共同通信にすら漏れてないのに」
「え、そんなんテキトーに推理したに決まっとるやんか。俺の勘が当たったんか」
「お父様、お怒りにならないで。彼は思いついたことをすぐ口にする癖があるんです」
「いやいや、怒ってなんかいない。卓越した想像力じゃないか」
まあ、おおよそモンスターのスタンピードが始まったんやろ。ダンジョン物の定番やもんな。しかし世界同時じゃないのが気にかかるぜ。なにか理由がありそうやな。
「大方スタンピードが起きたから慌てて爆破したんやろ。
つーか、崩壊ってことはイランのダンジョンが爆弾で壊せたってことやんな。
でもダンジョンを爆弾で潰せるなら全国のダンジョンをさっさと爆破すりゃあ手間が省けるじゃんか。
他のどの国もそれをしないってことはさ。やれない理由があるわけよな。あれやろ。えーと、なんでなん?」
「惜しいところまでは来てるぞ。がんばれ」
「わかった! 蜜団子やな! あれを集めた数を競い合ってるから爆破できないんや!」
「違う! けど違わない!」
「「え?」」
ヤヨイさんとウヅキさんが驚いてんで。
おっと、もしや現職の警察官を出し抜いちゃった?
俺って卓越してるね。これが想像力ってやつさ。
「あ、いや、すまない。口が滑った。今のは聞かなかったことにしてくれ」
ごほん! と咳き込み、絡んだ痰を飲み込んで話題を変える黒田次長。
「ダンジョンの入り口は爆薬程度では崩壊しません。つまりイランの空洞崩壊の原因は爆破ではないということです。
しかし彼の言う通り、人為的な爆発はありました。
爆弾による破壊工作は空洞崩壊後に行われた近隣諸国への示威行動であり、事の本質ではありません。
空洞崩壊事件は人類の手で行われたのではなく、地中から現れた巨大なモンスターによるものです。
そのモンスターは現在もイランのダマバンド山に留まっています。
名称はゾロアスター教の怪物からとって【アジ・ダハーカ】。3つ首の有翼竜です」
名称の由来はダマバンド山に幽閉されたドラゴンからか。3つ首やし人間に都合の良いモンスターやな。
「それ知ってるわ。ゲームで使ってたぜ」
イラン政府はアジ・ダハーカ討伐の協力を常任理事国と日本に求めたそうで。
最初はイランが懇意にしている中国共産党との間で秘密裏に処理するつもりだったらしいけど情報が漏れてアメリカ政府が割り込んで来たらしい。それからは暴走したイラン政府がロシアに救援を要請。
立場を悪くしたアメリカ政府は英国・フランス・日本を巻き込み、現在に至る。
イランを戦場として大国同士の静かな戦争が開始されたらしい。
テレビでは報道されていないけどイランに派遣された自衛隊員の半数が自殺した。ネットニュースには短く載っていた。
その真相は戦死だが、自殺扱いにすれば憎しみの連鎖は起きず、同時に費用も浮くそうだ。
俺はその話に怒りと失望を覚えた。そして同時に合理的だと思った。
節約優先、緊縮財政思考の政治家が票で勝つ日本では国民がコストカットを望むのは自明のことわり。自衛隊員の自殺への抗議もなくテレビの話題にすらあがらないのがその証拠。
俺は遺族に憎しみを持たせないという前者の思想には大いに賛成、でもコストカットには反対。自殺扱いでも遺族にはたんまりと弔慰金を渡すべきだと思う。
今回のアジ・ダハーカ討伐戦に勝利した国はイランと不平等条約を結べるらしい。日本政府としてはイランとの関係回復のために静かな戦争に勝ちたい。
その意気込みを各関係国の代表に表明し、不平等条約の権利をどの国にも渡さないことをイラン大統領と約束したようだ。
しかしイランに派遣した自衛隊は半壊。送られた自衛隊員は国内のダンジョンでレベルを上げた精鋭達だというが、アジ・ダハーカに致命傷を与えられなかった。他国の戦士達も同様に鍛え抜かれた精鋭が挑んだものの敗走。
核爆弾を使えばいいじゃんって話だけど、世界自然遺産に登録されたダマバンド山に核爆弾を落とすことは許可されず、兵器の使用はロケット弾が最大レベルに設けられたそうだ。
ところがロケット弾でも敵わず、生物兵器が使われても効果なし。結局白兵戦が一番ダメージを与えられるという結果になった。交代制で7ヶ国が戦士を送り込むも、アジ・ダハーカは五体満足。付けられた傷が即座に治癒するらしい。そんなん反則やんか。
というわけで白羽の矢が立ったのが俺だ。未公表ながら初のダンジョンクリア者という情報は一部の有力者に伝わっているそうだ。民間人とはいえ、大きな力には責任が伴うと言わんばかりに徴兵された。
だが俺は簡単には依頼を受けない。命令も聞かない。妥協点として、勝利した場合の報酬などを踏まえた契約書を総理官邸にて作成した。
報酬を支払うには莫大な額が必要だけど日本政府を信じる。財務省が心変わりすれば払えない額じゃない。複数の法律を変える必要があるけど、現在与党は過半数以上の議席があるからやる気があれば変えられる。強行採決だ。
意思表示はしてないけど裏切ったらイランを滅ぼす気持ちで契約書にサインした。




